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技術情報・コラム

岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第8回

粒子追跡解析(2)

 今回は粒子シミュレーション解析の1つである 粒子追跡法(Particle Tracking Method)の設定条件について詳しくご説明します。

 計算時間や解析に使用するコンピュータの制約により解析可能な粒子数には限りがあります。一方、自然界に存在する砂や埃などの粒径は1mmよりも小さいことが多く、莫大な粒子数になります。例えば、 密度 2500 kg/m3 、粒径100μmの粒子1gに相当する粒子数は約76万、粒径10μmの粒子1gに相当する粒子数は約7億6千万となり、解析できるオーダーではありません。それでも、前回のコラムでご説明しました One way coupling (流体は粒子に影響を与えますが、粒子は流体に影響を与えない連成解析)でしたら、追跡する粒子を間引くことで解析が可能になります。 流れ の可視化や定性的な解析では、間引きは問題にはなりません。

 しかし、 Two way coupling(流体と粒子が互いに影響を与える連成解析)や定量的な解析では粒子の間引きだけでは不十分です。このような場合は、図8.1のように追跡する粒子(代表粒子)の質量が何個の粒子に相当するのか、有効個数を設定して解析します。これをパーセル近似と呼びます。


図8.1 パーセル近似

 粒子が境界面に到達した場合の設定条件はプログラムコードごとに異なります。図8.2に主な境界面条件をまとめました。利用頻度が高いのは「反発」です。 反発係数 により境界面に到達した後の粒子挙動が変化します。「付着」は粒子の蒸発や粒子成分の揮発を考慮する場合に有効です。「消滅」は境界面に到達した粒子を追跡対象から外す条件のことで計算負荷が軽減されます(消滅した粒子数を別途に計数することもあります)。「面に沿って移動」は反発することなく境界面に沿って移動する粒子に適用します。


図8.2 境界面条件

 もう1つ設定条件をご説明します。 レイノルズ平均(RANS : Reynolds Averaged Navier-Stokes equations) 乱流モデル は、そのままでは粒子の乱流変動を表すことができません。図8.3は 浮力 により上昇する粒子挙動を解析しています。流れ解析にRANSの乱流モデルを使用していますが、図8.3の左のように同じ位置から同じ 初期条件 で追跡する粒子は同じ軌跡となってしまいます。そこで、乱流モデルから得られる乱流変動を、乱数を用いて粒子速度に加えることにより粒子の乱流変動を表します。このような方法を用いますと、図8.3の右のように同じ位置と同じ初期条件の粒子でも軌跡が変わることがわかります。


図8.3 乱流変動

 それでは、今回も解析事例をご紹介します。吹雪による道路の視程障害を緩和する防雪林を粒子追跡法で解析します。図8.4のように今回解析した防雪林は狭帯林と呼ばれる常緑針葉樹のみで構成されるものです。解析領域に流速8m/s(基準高さ10m)で氷点下20℃の空気がべき乗則(平坦地)で流入します。併せて、密度200 kg/m3 、粒径100μmの雪粒子が地上から高さ3mまで均一に流入してきます。なお、雪粒子の有効個数は1,000としてパーセル近似し、地面や防風柵など境界面との反発係数を0.5とします。また、雪粒子の計数のため、防風柵までを吹雪域、盛土までを防雪域、それ以降を道路域と区切り、8秒後までの解析を行います。


図8.4 道路防雪林

 図8.5のように針葉樹は円錐形で樹葉を表します。樹葉は葉面積密度8m2 /m3 、抵抗係数0.7の 圧損 領域とし、樹葉面において雪粒子の反発係数を0.1とします。この針葉樹を4m間隔の2列の千鳥配置で狭林帯とします。防災林は完成までに時間を要します。図8.6のように、今回の解析では保育期(植樹から15年程度の期間)、育成期(さらに15年程度の期間)、維持期(植樹から30年以上)の3通りを設定します。保育期では防風柵の上に防雪柵を設け、防風柵は開口なし、防雪柵は開口率30%とします。


図8.5 針葉樹(断面図)
 

図8.6 狭林帯

 図8.7は保育期、育成期、維持期の雪粒子挙動の解析結果になります。各期間の差異が再現されています。


図8.7 保育期の雪粒子挙動(上)、育成期の雪粒子挙動(中)、維持期の雪粒子挙動(下)
 

 図8.8は吹雪域、防雪域、道路域で計数する雪粒子数の時間変化になります。防雪林が成長するに従い、防雪域での雪粒子数が増え、道路域での雪粒子数が減り、防雪効果が高くなっていることがわかります。


図8.8 雪粒子数の時間変化

 図8.9は防災林がない場合と防災林(維持期)がある場合の道路視程の様子です。防災林により視程障害が緩和されていることがわかります。
 

図8.9 防災林なしの道路視程(左)、防災林ありの道路視程(右)


次回は粒子の 蒸発 や粒子成分の揮発について詳しくご説明します。

 
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岡森
著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)
日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

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