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技術情報・コラム

シリーズ:「これってどうなの? 身近な疑問、解析してみました!」

10円玉でスマホを冷やす?

 

アツアツのスマホに10円玉を乗せると、
放熱効果が高まりスマホが早く冷えるらしい。

スマホに10円玉を並べる  検索エンジンで『スマホ 10円玉 放熱』のように検索してみてください。実に多くの記事を見つけることができます。有名な企業も引用していますし、実際に実験をしている人まで・・・ そして、スマホの背面に一様に置いているものから、おそらくCPUがあるであろう、カメラの下に1枚だけ置くパターン、中には、複数枚重ねて煙突のように置いているものもあります。2018年7月31日には、なんとYahooニュースのヘッドラインにも登場しました。そして、これら紹介サイトのほぼすべてで効果があると結論づけられています。
 ところで、なぜ10円玉なのでしょう。紹介サイトでの根拠は熱が伝わりやすいから(熱伝導率が高いから)と説明されています。

そもそも放熱って材質と関係するんでしたっけ?

熱伝導率と流速の違い  前述の10円玉が選ばれる理由、それは銅の熱伝導率が高いから、でした。ただこれはその物体の中だけの話。では、物体(固体)から空気へはどうやって熱が伝わるのでしょうか?
 固体から空気への熱の伝わりやすさは、熱伝達率という指標で表されます。「伝導率」と「伝達率」似ていますが、全然違うものです。固体から空気への放熱量は、一般的に放熱する面積が広いほど、固体表面と空気の温度差が大きいほど、そして固体表面付近の風速が速いほど大きくなります。つまり、固体表面から空気への放熱には、固体内部の熱の伝わりやすさ(熱伝導率)は関係しないのです。
 すると、10円玉で放熱効果が高まるには、10円玉を乗せることで面積が広くなった? 確かに10円玉の側面の分は面積が広くなります・・・1枚では微々たるものですが。固体表面と空気の温度差が大きくなった? これはありえません。もしスマホの表面温度が40℃だったら、10円玉も最高でも40℃にしかなりません。10円玉を乗せることで表面の風速が速くなった? これも局部的にはあるかもしれませんが、全体的に風速が速くなることは常識的に考えて無いでしょう。
 どうやら教科書的には、10円玉を乗せても放熱効果が高まることは無さそうなのですが、でも多くの紹介サイトで実際に温度が下がった例が報告されています。

ほとんどの実験で無視されていること

 紹介サイトでの実験方法は様々ですが、放射温度計やサーモグラフィなど本格的な実験機材を使って計測されているのですから、温度そのものが間違っているということは無さそうです。
 では、どのような方法で実験がされているのでしょうか? あるサイトでは、一定時間スマホを使い、スマホをアツアツの状態にしてから、10円玉を置いた時と、置かない時の温度の変化を測定した結果、10円玉を置いたほうが早く冷えたことを紹介しています。ただそこに大きな落とし穴が・・・置く10円玉は何℃なのか 実際、10円玉が何℃なのかを気にしているサイトを見つけることができませんでした。これは、想像ですが、もしそこらへんにあった10円玉だったら、置かれた時の温度はきっと室温と同じくらいだったでしょう。
 ということは、アツアツのスマホに常温の10円玉を置いたからスマホの温度が下がっただけなのでは? つまり、「放熱」ではなくて「冷却」。 こう考えれば、教科書的には効果が無いはずというものでも、実験すれば差が出て、放熱効果が高まったように見えるかもしれません。 もっとも紹介サイトでは、放熱と冷却の言葉を厳密に使い分けている訳ではないので、「スマホが冷える」=「放熱した」という意味であれば間違いではないでしょう。

検証その1:放熱効果(能力)に差はない。

 熱流体解析ソフトウェア「STREAM」を使って、、10円玉放熱の真実を検証してみます。
 まずは、スマホがずっと発熱し続けている状態で、10円玉を乗せた時と乗せない時で、違いは出るのか? という検証です。もし、10円玉で放熱性能が高まる(放熱量が多くなる)のであれば、発熱している部品の温度が下がるはずです。
10円玉を乗せた放熱解析結果  条件の詳細は割愛しますが、机の上に置いたスマホ大のアルミ筐体の中に、常時発熱する1枚の電子基板のような板が入っています。周囲の空気温度は28℃で、無風状態ですが、スマホの温度が高くなることで、上昇気流は発生しています。

結果は・・・? 10円玉を乗せた放熱解析結果  

 周辺の風の流れが微妙に違うので、ぴったり一緒にはなりませんが、筐体上面の温度も内部の電子基板の温度もほぼ一緒(0.5℃違い)になりました。
 つまり、10円玉を乗せただけで放熱効果は高まっていなかったのです。

検証その2:常温の10円玉でも冷やすことはできる。

検証の前に「常温の10円玉を乗せたからスマホ温度が下がったのでは?」と書きました。
 それでは、発熱が止まったスマホがアツアツの状態からスタートして、何も乗せてない場合、スマホと同温のアツアツの10円玉を乗せた場合、常温の10円玉を乗せた場合、の3種類で違いが出るのかを検証します。もし、10円玉に放熱効果があるのであれば、アツアツの10円玉でも効果があるはずですし、10円玉が常温だから冷やされるのであれば、それだけに効果が表れるはずです。
結果は?

 実験開始から10分間の表面温度(左)と内部基板(右)の温度経過グラフです。常温の10円玉を乗せると、その温度によってスマホも冷やされますが、アツアツの10円玉では乗せない時とほぼ一緒であることが分かります。 やはり10円玉放熱は、冷えた10円玉がスマホを冷やしていただけだったのです。

常温の10円玉とアツアツの10円玉での解析結果

常温の10円玉を乗せた表面の温度はあっという間に低くなっていきます。実験開始から15秒間の変化をアニメーションにしてみました。15秒だと常温の10円玉を乗せたほうは温度が変わっていきますが、10円玉を乗せないものと、アツアツの10円玉を乗せたものは、ほとんど温度が変わりません。


【おことわり】
各シミュレーション結果は、ある条件の下での結果であり、かつこのような結果になることを保証するものではありません。 また、この内容を参考にしたことによる事故・損害等に関しては、責任を負いかねます。


 
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