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流体テクノ株式会社 様

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流体テクノ株式会社 様インタビュー

豊富なデータとCFDのコラボレーションでさらなる競争力の獲得へ

船型設計や省エネ装置の設計、製造、関連サービスなどにおいて高い技術力をもつ流体テクノ。省エネ性能の要求という追い風の中、より高性能の製品をより短期間で提供するため、あらたなCFD活用の取り組みを開始した。そこで使われているのが、ソフトウェアクレイドルの流体シミュレーションソフトウェアSCRYU/Tetra®である。


船型設計から船舶開発支援プログラムまで

 流体テクノは、長崎県佐世保市で2001年に設立された、船舶の船型設計や開発支援を行う企業だ。同社 代表取締役の玉島正裕氏(写真1)は設立の前からさまざまな船の設計や試験などを行ってきた。そのこともあり豊富な経験と蓄積データが強みだという。

 業務内容のひとつは船舶設計だ。超大型原油タンカー(VLCC)のような大型船から中小型船まで、造船所や船主など注文主の要望に応じて、さまざまなサイズの船型設計を行う。家に例えると、マンションか戸建てか、屋根の形や部屋の配置などといった大まかな上流設計と、配線や内装までの詳細な設計があるが、同社では主に上流の設計を担っているという。

fluidtechno_picture1.jpg写真1 代表取締役 工学博士 玉島正裕 氏

 また船舶用省エネ装置の設計から取り付けまでも手掛けている。これは元の船の形だけでは満足する燃費性能が得られないといった場合に装着するものだ。同社が提供する「Eco-Stator」は特許取得済みの船舶用省エネルギー装置である(図1)。プロペラの前側に取り付ける装置で、推進性能が中小型船で3 ~ 4%、大型船で2 ~ 3%向上するといい、多数の装着実績を持つ。

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図1(左)省エネステータ「Eco-Stator」
― 中・小型船で3~4%、大型船では2~3%の燃料の削減が可能で、多くの装着実績を持つ。
(右)船尾の断面の流れ
― 渦の状態に合わせてEco-Statorの取り付け角度を決定する。

さらに試験用模型船の設計も行っている。船舶が航行許可を得るためには模型試験を実施しなければならない。模型船の内部に計測器などを配置するには独特のノウハウが必要なのだという。一方、各種の設計に用いられるプログラムや、試験に必要なデータを計算するプログラムなども提供している。例えば、バージ(艀。港内や河川などで重い貨物を積んで運航する、エンジンを持っていない平底の船舶)から埠頭でクレーンによって荷揚げしたり積んだりするとき、波によってバージが揺れることを想定して、ある箇所の加速度を計算するといったプログラムを提供する。また大学や研究所がつくった流体関連ソルバーのプリポストなどの提供も行う。

​省エネ要求が追い風に

 SCRYU/Tetraを導入した理由は近年、燃費性能向上の要求がますます強くなっているからだという。もともと多くの船は、できるだけ少ない燃料で、できるだけ多くの荷物を運ぶことを目標にして設計される。「限りなく少ない燃料でというのは設計者にとって永遠の課題です」(玉島氏)。

 これは経済面からの要求だが、それに加えて最近強くなっているのが、環境対応の面からの燃費性能の向上だ。1トンの燃料を燃やすと3トンの二酸化炭素が発生する。そこで国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)により、貨物1トンを1マイル動かす際に排出する二酸化炭素量である「エネルギー効率設計指標(EEDI:Energy Efficiency Design Index)」による規制が2013年から段階的に適用されている。このルールは400トン以上の外航船(各国間を行き来する船)に適用される。「私たちの関わる船のほとんどがこのルールに関わってきます。いずれ国内を行き来する内航船にも環境面のルールは適用されるでしょう」(同社 技術統括マネージャー 玉田丈朗氏[写真2])。設計要求はますます厳しくなるが、これは流体テクノにとっては追い風になるという。「船の性能を向上させるには、水から下の形状が非常に重要になります。そういったところに我々の経験やノウハウを利用していただけると思います」(玉島氏)。

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写真2 技術統括マネージャー 玉田丈朗 氏


 一方、EEDIの認証を受けるためには模型試験(図2)が必要だ。だが実験施設は日本国内に7カ所程度しかない。また非常に大掛かりになるため、試験費用も700万円以上と高額だ。そのため「我々のような実験設備がないところでは特にCFDが重要になります」と玉田氏はいう。

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図2 模型による実験の様子
― プロペラのと舵のみの状態で、舵に働く力を計測しているところ。


重要な位置を占めるCFD

 設計の流れは、まず注文主からサイズや積み荷の重量、船速、二酸化炭素排出量などの仕様が提示される。これらを元に 概形を決め、続いて性能の概略を決める。ここで簡単なシミュレーションを行い、問題がなければ3次元CADでなめらかな形状をつくる。これを元にCFDによって船体抵抗や自航要素、船体表面流れ、造波抵抗などの評価を行う。このCFDによるプロセスが非常に重要になるという。これをクリアすればプロペラを設計し、他の性能を計算、問題がなければ試験を行う。試験はほぼ1回きりだ。問題があれば後戻りで設 計を修正したりするが、後戻りをすると半年をロスし、また試験費用も余計に掛かる。そうならないためにできるだけ模型試験の前に評価をすることが大切になる。「CFD による評価が、その手段の一つとして使えるという時代になってきたと思います」(玉島氏)。CFDのさらなる活用を実現するために、約1年前からソフトウェアクレイドルと協力しながら、SCRYU/Tetraを本格的に活用する準備を始めたという。

 船舶の使用燃料を減らすためには、水の抵抗をなるべく受けない形状にする必要がある。一方目標の荷物は積めるような形状でなければならない。こういった制限の中でバランスを考えながら形状を決定していく。そのためには流体力学的な技術力が必要になってくる。「大手造船メーカーでは社内に専門の部署がありますが、小さいところでは部門すらありません。実施するには経験の蓄積も必要です。そういった分野で我々の技術を提供することができるでしょう」(玉島氏)。船型の開発のスピードが求められている中、CFDをどんどん回してどの船形がよいか求める。その中で一番よかったものを大型水槽に持っていって実験するということを進めたいという。

水面より上や内部流も解析したい

 上記のように全体のバランスを見ながら燃費性能を追求するほかにも、SCRYU/Tetraを使って取り組みたいことは多くあるそうだ。例えば船のスピードを上げようとすると操縦性が悪くなるという事象が発生しているという。従来使用しているCFDツールでは水の抵抗を解析することはできるものの、操縦性の評価は得意ではないという。そこでSCRYU/Tetraを活用して検証できればということだ(図3)。

 また主な解析部分は水面の下だが、それだけでなく水面の上、つまり風圧抵抗についても検証したいという。顧客からの要望もあるといい、上甲板の形状をどうすれば風圧抵抗が減るかといったことにも使っていきたいそうだ。

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図3 図2の状態をSCRYU/Tetraで解析したところ
― 舵に付くバルブのサイズを変えることで流れを可視化するとともに、舵にかかる力の変化を検証している



 船に関わる流れには、船の外を流れる「外部流」のほかに「内部流」もある。例えば船の下部にある空間のシーチェストから海水を吸い込んで、バラストタンクに水を取り入れたり、熱を持つエンジンなどを冷やすシステムがある。この海水の取り込みがスムーズにいくかどうかについてもSCRYU/Tetraで検証を進めているところだ(図4)。


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図4 シーチェストの解析


 さらに燃費性能の向上で注目されるのが、省エネ付加物だ。船体の形状だけでなく、船体に省エネ付加物と呼ばれるパーツを付けることでより燃費を向上させることができる。こういった船の流れにまつわるさまざまな検証を、SCRYU/Tetraを使って行えると期待しているという。


 現在は合わせ込みをしているところで、「実験データを使いながら、データとの整合性がどうしたら取れるのか、メッシュの切り方や格子数、さまざまなチューニングの数値を確認しながら調べて、活用できるように持っていきたい」(玉田氏)という。

 導入の最終目的は、外部流と内部流、水の流れと空気の流れといった船に関する流れ全般を取り扱うことだ。「これらの流れを設計のなるべく早い段階で把握したいと考えています。最終的に目指すのは、できるだけ短時間でよい設計ができること。そのツールとしてCFDは非常に役に立つと期待しています。私たちの実験データも提供することで、ソフトウェアクレイドルと協力してよりよいシミュレーション環境が実現できるのではないかと思っています」(玉島氏)。


使いやすくポストのクオリティが高い

 ソフトウェアの使用感については「使いやすく感じます。やはり日本のサポートが入ることもあり、質問もしやすいし、取扱説明書がとても分かりやすいのも非常によかったです」(玉田氏)とのことだ。

 メッシュは他のツールでは切れないことも多いが、SCRYU/Tetraでは簡単に切れ失敗することもないそうで、あとはどう切るか、細かさをどうするかといったことを検証中だという。今は計算スピードがネックだそうで、ハードを整備しつつ計算スピードの向上も進めばということだ。

 「ポスト処理は非常に楽で、さまざまな可視化が簡単にできます。ビジュアル的によくできているソフトだと思います」(玉田氏)。要望としては、レポートタイプでも出れば使いやすいということだ。また将来的には波浪中での船舶の性能も解析したいという。


検証のしやすさを実感

 だが、「やはり評価はしやすい」(玉島氏)という。相対的な違いが非常に分かりやすくなったということだ。「評価するのがずいぶん楽に、効果的に短時間でできるようになったと思います」(玉島氏)。解析することによって、実験計画も立てやすくなるという。「何もなければ5ケース実験するところを、CFDで確認することで候補を減らすことができます。または代わりに別のケースの実験を行うこともできます。船体についても同様の形でCFDを取り入れていけば、確実に業務の効率化につながるでしょう」(玉島氏)。

 さらに流体テクノではよりよい設計を行おうと、新たな取り組みを進めている。設計や解析をするのは3次元でも、見るのは画面や紙の2次元だ。そこで同社では、3Dプリンタの活用も進めていくそうだ。「図面で見ても分からないことが立体では直感的に評価できます。特に船尾の形状は非常に重要なので、立体で出力して評価に役立てたいと思っています」(玉島氏)。3Dプリンタでの評価工程をCFDと模型試験の間に加えることで、模型試験をより確実に実行していきたいということだ。

 流体テクノはさらなる競争力を得るため積極的な3D活用を推し進めている。ソフトウェアクレイドルもその力になるべく全力でサポートしていく予定だ。

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流体テクノ株式会社

  • 設立:2001年
  • 事業内容:船型の設計・開発支援、省エネ装置の設計・取り付け、試験用模型船の設計、船舶関係の試験支援、船舶性能計算用プログラム作成
  • 本社:長崎県佐世保市
  • 代表者:代表取締役 玉島正裕

 

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2016年2月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。​

  

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