Cradle

 

投稿一覧

岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第9回 粒子追跡解析(3)

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

粒子追跡解析(3)

 今回は粒子シミュレーション解析の1つである 粒子追跡法 (Particle Tracking Method)における粒子の蒸発や揮発について詳しくご説明します。

 1990年代に噴霧燃焼炉を対象として、 蒸発 や揮発を考慮した粒子追跡法を用いた流体シミュレーション解析が数多く実施されました。CO2 排出量削減が問われていた時期であり、排出量の寄与度が大きい工業炉の燃焼効率の向上が重要な課題でした。

 蒸発や揮発を考慮した粒子を、本コラムでは反応粒子と呼びたいと思います。反応粒子の蒸発や揮発は、段階分けをしてモデル化する必要があります。図9.1は水滴の蒸発モデル、図9.2は燃料滴の揮発モデルの一例です。このように蒸発成分、揮発成分が生成しますので、気相の流体解析では化学種を変数として取り扱う必要があります。



図9.1 水滴の蒸発モデル
 



図9.2 燃料滴の揮発モデルの一例


 次に、噴霧条件の設定をご説明いたします。噴霧の粒子数は莫大ですので前回のコラムでご説明したパーセル近似が必須になります。そして粒径分布が必要です。一様の粒径分布でもかまいませんが、ロジン・ラムラー分布(1933年に提案された粒径分布の関数式)や抜山・棚沢分布(1939年に提案された粒径分布の関数式)など実績のある関数式で粒径分布を表すことを推奨します。また、粒子の蒸発や揮発では粒子表面積が重要ですので、平均粒径には表面積が考慮されたザウター平均粒径(Sauter Mean Diameter、d32 と表すこともあります)を用いることを推奨します。さらに噴霧条件の設定には、噴霧流量や噴霧速度、図9.3のように噴霧パターンや広がり角も必要です。



図9.3 噴霧パターンと広がり角


 それでは、今回も解析事例をご紹介します。高温ガスを冷却する水滴の噴霧エアノズルを粒子追跡法で解析します。図9.4のように流入管と流出管の有る冷却容器に500℃の高温ガスを流入し、流入管の中心に水滴の噴霧エアノズルを設置します(噴霧エア27℃)。冷却容器およびノズルは軸対称形状ですので、解析は 軸対称 2次元とします。流入管の高温ガス流速は25 m/s、噴霧エア流速は40 m/s、壁面は全て静止壁、断熱条件とします。



図9.4 噴霧エアノズル


 ノズルから噴霧する水滴はザウター平均粒径で20μm、粒径分布に抜山・棚沢分布を適用します。噴霧流量は0.05 kg/s(パーセル近似100,000 s-1 )、噴霧速度は15 m/s、噴霧パターンはフルコーンとホローコーンとして、広がり角はフルコーン20°、ホローコーン110~120°とします。なお、計算を安定させるため、1秒間は高温ガスと噴霧エアだけを流入し、1秒後から水滴を噴霧します。図9.5は噴霧0.1秒後までの冷却容器内の液滴分布です。噴霧エアにより液滴は直進しますが、ホローコーンの方が前方から広がっていることがわかります。



図9.5 噴霧0.1秒後までの冷却容器内の液滴分布

 図9.6は噴霧パターンがフルコーンの12秒間の解析結果になります。図9.6のように噴霧液滴が蒸発しながら高温ガスを冷却しているのがわかります。図9.7はホローコーンの解析結果です。図9.8は流出管での高温ガスの平均温度変化を表しています。両者に大きな差はありませんが、ホローコーンの方がフルコーンよりも冷却が早くなります。



図9.6 噴霧パターンがフルコーンの12秒間の解析結果  



図9.7 ホローコーンの解析結果


 


図9.8 流出管での高温ガスの平均温度変化


 

 次回は反応粒子の蒸発や揮発について化学種生成を詳細にご説明いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップコンテンツ