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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第20回 キャビテーション流れ解析

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

キャビテーション流れ解析

  気液二相流 解析として キャビテーション 流れ解析があります。キャビテーションとは、高速で流れる 液体 圧力 が蒸気圧以下になる領域で蒸気空洞が生成・消滅する現象です。ポンプ、船舶プロペラ、液体バルブなど流体機械ではキャビテーションによる性能低下、振動、騒音、損傷( 浸食 )など多くの課題があります。

 キャビテーション流れ解析をミクロにアプローチするにはμmオーダーの気泡の初生、崩壊、膨張、収縮、合体、分裂など多くのモデル化が必要となりますが、残念ながら現在の流体シミュレーション解析では困難です。そのためマクロにアプローチすることを考えます。

 図20.1のようにマクロにアプローチする方法は1流体モデル、1流体・気泡モデル、 2流体モデル の3つに分けることができます。1流体モデルはキャビテーション流れを均質媒体(疑似単相媒体)流れと近似して解く方法です。1流体・気泡モデルは液体を 流体 として解き、気泡は集合体(気泡群)として輸送方程式(例えば、流体中の球形気泡の運動方程式としてRayleigh-Plesset式があります)を解きます。2流体モデルは液体と気泡をそれぞれ流体として解きます。現在、多くの流体シミュレーション解析ソフトウェアでは計算負荷が小さい1流体モデルを採用しています。そして、図20.2の解析事例(水中翼)のようにボイド率(気液二相流における気相体積率)分布を求めることでキャビテーション流れを解析しています。



図20.1 マクロにアプローチする方法



図20.2 解析事例(水中翼)


 気泡を含む液体の 音速 は、その液体の音速よりもはるかに小さくなります。例えば水の音速は25℃で約1500 m/sですが、気泡を含むボイド率0.2の水の音速は30 m/s以下になります。流体シミュレーション解析では音速を超える 流れ を圧縮性流れと呼び、密度変化を状態方程式で考慮します。このため、キャビテーション流れを解析する場合にも圧縮性を考慮した局所平衡を仮定し、気液二相媒体の状態方程式による密度変化を考慮する場合があります。このような1流体モデルは圧縮性局所均質媒体モデルと呼ばれています。

 それでは、今回も解析事例をご紹介します。生活に身近な例として、ホースを潰した時に生じるキャビテーションを取り上げました。小さい頃によく遊んだ方もいるかもしれませんが、透明なホースに水を流した状態でホースを潰すと、音とともに水が白く濁って見えます。これは、潰された部分で 流速 が上がることにより、負圧が生じて局所的に飽和蒸気圧を下回り、結果として水が蒸発しキャビテーションが発生するためです。今回はこの解析を弊社技術部の藤山が行いました。

 図20.3は実際にホースを潰していく過程を模したもので、ピンクの領域がキャビテーションによる気泡群発生範囲となります。これを見ると潰していく過程で下流側にキャビテーション発生範囲が拡がっていき、さらに潰すと細かい気泡群の周期的な放出に変化する様子が分かると思います。



図20.3 ホースを潰す過程におけるキャビテーション発生の様子


 図20.4は大きく潰した状態で固定した時のキャビテーション発生の様子を解析したもので、その時のホースと内部での圧力変動を実時間に対して100倍のスロー動画で表しています。この結果からホースを潰して流路を狭めた時には、非常に細かいキャビテーションが発生し、それとともに激しい圧力変動が生じている様子がわかります。この変動が音となって人間の耳に聞こえてくるのです。なお、本動画には圧力変動から再現した音が付いています。なかなか現実の音と同じというわけにはいきませんが、キャビテーションの発生に起因した高い周波数をもった音として再現されていますので、ぜひ一度聞いてみてください。



図20.4 ホースを大きく潰した時のキャビテーション発生と内部圧力変動



 次回は 相変化 を伴う 自由表面流 解析をご紹介いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。




著者プロフィール
藤山 敬太 | 1980年12月 神奈川県出身
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修士課程修了

大学で流体実験、大学院にて超電導の実験および数値計算を行い、卒業後は株式会社童夢にてレーシングカーの設計・開発・風洞試験に従事。現在は空気から水まで様々な流体解析にまつわる問題について、お客様の視点にたって解決するサポート・コンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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