岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第22回 2流体モデルによる液液二相流解析
2流体モデルによる液液二相流解析
気液二相流 解析あるいは 液液二相流 解析として 2流体モデル があります。流体シミュレーション解析ソフトウェアにより分散混相流モデル、オイラー・オイラーモデル、オイラー混相流モデルなど名称は変わりますが、各相を 連続体 と見なして 相 ごとに 基礎方程式 を解くモデルとしてはどれも同じです。n流体モデルまで拡張することができますが、計算負荷や収束性を考えますと3流体モデルまでが解析できる範囲です。
図22.1は水中バブルジェット解析の概要図、図22.2は解析結果の気相体積率分布になります。図22.2のように 流動 する気泡や液滴の粒子群を連続体( 分散相 )と見なして解析することも可能です。さらに粉体を連続体と見なして 固気二相流 や 固液二相流 まで解析することも可能です。いずれも相間の相互作用(粒子が 流体 から受ける抵抗など)や粒子間の相互作用を定義する必要があります。
図22.1 水中バブルジェット解析
図22.2 相体積率分布
それでは、今回も解析事例をご紹介します。スタティックミキサーで異なる 液体 を混合します。スタティックミキサーは構造が簡単で回転動力が不要なため、様々な分野で利用されています。図22.3のようにT字管のある配管(JIS規格の8Aスケジュール20S、内径9.8 mm)を考えます。2ヶ所の流入口から 密度 1000 kg/m3 、 粘度 1.0 Pa·sの2つの液体を同じ 流量 0.30 L/minで一様流入します。2つの液体の粘度は水の1000倍でフルーツソースを想像していただければよいと思います。エレメントは長さ10.4 mm、直進軸方向の角度を90°変えながら12個を設置しています。このような解析条件で 層流 の定常解析を実施します。
図22.3 スタティックミキサー
図22.4は解析結果の液体の体積率分布、図22.5は 流線 図です。2つの液体をわかりやすいように赤と白で表しています。混合により均質に近づいていることがわかります。さらに8個を追加して合計20個のエレメントで定常解析を実施します。図22.6のように体積率分布はほぼ均質になっていることがわかります。
図22.4 液体の体積率分布(エレメント12個)
図22.5 流線図
図22.6 液体の体積率分布(エレメント20個)
さらに、2つの液体の物性を変えて層流の非定常解析を実施します。図22.7のようにT字管の直進側はJIS規格の8Aスケジュール20S、混入側は6Aスケジュール20S(内径7.5 mm)の配管とします。直進する液体の密度1000 kg/m3 、粘度0.001 Pa·s(水と同程度)、流量0.30 L/min、混入する液体の密度1000 kg/m3 、粘度0.0035Pa·s、流量0.075 L/minとします。コーヒーに牛乳を混ぜて体積比20%のコーヒー牛乳を作ることを想像していただければよいと思います。図22.8は体積率分布の時間変化です。図22.8のように混合により均質化していく様子がわかります。更に2流体の物性差を大きくすると、分離度が大きくなり 自由表面流 になります。その場合は本コラムでご紹介しました VOF法 などで解析することを推奨します。なお、図22.8は時間を2倍早くして動画を作成しています。
図22.7 液体の物性を変えたスタティックミキサー
図22.8 液体の体積率変化
今回で本コラムは終了となります。2年間にわたりご愛読いただき、本当にありがとうございました。今後もコンピューターが進化し続ける限り、 混相流 の流体シミュレーション解析の適用範囲は更に広がっていくでしょう。本コラムが皆様にとって流体シミュレーションに取り組まれる契機になれば幸いです。
著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)
日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。
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