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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第17回 凝固・融解解析(1)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

凝固・融解解析(1)

  固液二相 流解析として 凝固 融解 解析があります。凝固現象をミクロにアプローチするには凝固核生成や結晶成長プロセスのモデル化が必要となりますが、残念ながら汎用的な解析方法はありません。そこでマクロにアプローチすることを考えます。

  流体 中における 固相 の体積率を固相率と定義します。固液界面では平衡であると仮定し、温度回復法により固相率の変化を求めます。図17.1のように流体要素の 温度 を解き、温度が液相線温度(水などの純物質は平衡であれば固相線温度と一致します)よりも低い場合は潜熱と比熱から固相率を算出しておきます。次に、固相率に相当する潜熱を放出(発熱)して再び流体要素の温度を解くことにより、流体要素の温度が回復します。これを反復すると流体要素の固相率と温度が求まります。



図17.1 温度回復法


 それでは、今回も解析事例をご紹介します。冬期に水池で作られる天然氷を解析します。天然氷は寒気が約20日にわたり継続すると水池の水面から氷が成長し、切出しできる厚さ15cm以上になるそうです。これを再現できるのか凝固・融解解析を試みます。

 図17.2のように長さ24m、幅14m、深さ0.5mの水池を考えます。池は縁石で囲まれ、その周囲は有機質土とします。池の上面は‐8℃の外気として 熱伝達係数 を10 W/(m2 K)とします。池の下面は4℃として 熱伝導 条件とします。この条件で20日間を非定常解析します。なお、水の 流れ は解きません。



図17.2 水池


 図17.3は2時間までの水面温度分布の時間変化です。水面はほぼ均一に温度が下がります。なお、約1時間30分が経過しますと水面温度は0℃で一定となります。図17.4は水池中央部の深さ方向の断面での固相率分布の時間変化です。図17.4のように水面から氷が成長していく様子がわかります。図17.4の赤い点線は水面から深さ15 cmの位置です。20日間(480時間)で氷の厚みが15 cmに到達していることがわかります。



図17.3 水面温度分布の時間変化(淡水)



図17.4 水池中央部断面での固相率分布の時間変化(淡水)


 次に、水池を淡水ではなく海水のような塩水に変えたらどうなるでしょうか。海水は塩分濃度が3.4 %( 質量分率 )の混合液で‐1.8℃で水分が凍り始めます(液相線温度)。塩分まで凍るのは共晶点と呼ばれる‐21℃(固相線温度)です。これを考慮して再度,非定常解析を実施します。

 図17.5は2時間までの水面温度分布の時間変化です。図17.6は水池中央部の深さ方向の断面での固相率分布の時間変化です。図17.6のように氷の成長はなくなり、塩分による凝固点降下が再現されています。図17.7は20日後の水池中央部断面での固相率分布を上限値0.25に変更して表示しています。図17.7のように塩水の場合でも水面付近では固相率が0.25、深さ15 cmで固相率が0.10になっていることがわかります。塩水に氷が所々に浮いている状態を想像していただければよいのではないかと思います。



図17.5 水面温度分布の時間変化(塩水)



図17.6 水池中央部断面での固相率分布の時間変化(塩水)



図17.7 20日後の水池中央部断面での固相率分布


 なお、図17.3、17.5は時間を600倍、図17.4、17.6は時間を288,000倍早くして動画作成しています。
次回は流れを同時に解析する凝固・融解解析をご紹介いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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