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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎 第22回 [LTspice] トランジスタの選定と損失計算 (2)

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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎

 前回は簡単なスイッチング回路を考え、導通時の損失を求めました。今回は、スイッチングの際に発生する損失について説明します。

スイッチング回路とスイッチング損失

 図22.1に エミッタ 接地のスイッチング回路を示します。電流源I1は100 mAで周波数が5 Hzの矩形波電流を供給し、電圧源V1は直流 10 Vの一定電圧です。


スイッチング回路
図22.1 スイッチング回路


 この回路を動作させ、I1から ベース 電流 が供給されると、図22.2に示すように コレクタ 電圧が低下し、コレクタ電流が流れます。そして、電流の供給が止まるとコレクタ電流は流れなくなり、コレクタ電圧は電源電圧まで上昇します。


エミッタ・コレクタ間電圧とコレクタ電流の変化
図22.2 エミッタ・コレクタ間電圧とコレクタ電流の変化


 図22.2では、コレクタ電圧とコレクタ電流は矩形に変化しているように見えますが、切り替わる付近の時間帯を拡大すると、図22.3に示すようにコレクタ電圧とコレクタ電流は徐々に変化していることがわかります。


スイッチング時のエミッタ・コレクタ間電圧とコレクタ電流の変化
図22.3 スイッチング時のエミッタ・コレクタ間電圧とコレクタ電流の変化


 このとき、トランジスタではコレクタ電圧とコレクタ電流の積に等しい 損失 を生じます。これを スイッチング損失 といい、同じ時間帯における変化を示すと図22.4のようになります。


スイッチング損失
図22.4 スイッチング損失


スイッチング回路で生じる損失と対策

 スイッチング回路で生じる損失は、前回で説明した導通時の損失とスイッチング損失の和(損失の時間変化の積分値を時間で割った値)になります。なお、第3回で触れたように、LTspiceではシミュレーションを行った後に、Altキーを押しながらトランジスタをクリックすることで、損失の変化をグラフで表示することが可能です。また、Ctrlキーを押しながらグラフタイトルをクリックすることで損失の平均値が求められます。

 ここまでの内容は、負荷が 電気抵抗 の場合の考え方です。このとき、コレクタに加わる電圧は電源電圧を超えることはありません。しかしながら、コイルのように負荷がリアクタンス成分を有する場合には、電流の減少に対応してコレクタの電圧が上昇することになります(リアクタンス成分は電流の変化を抑えるように作用するため)。

 例として、図22.5に示すリアクタンスが1 mHで100 Ωの並列抵抗を有するコイルを接続した回路を考えます。


誘導負荷を有するスイッチング回路
図22.5 誘導負荷を有するスイッチング回路


 この回路に対して、図22.3と同様に100 mAで2 Hzの矩形波電流をベースに供給すると、図22.6に示すようにスイッチング時にコレクタの電圧が100 Vまで上昇します。


誘導負荷を有する回路のコレクタ電圧の変化
図22.6 誘導負荷を有する回路のコレクタ電圧の変化


 この対策として、図22.7に示すように誘導負荷と逆並列に ダイオード を接続する方法があります。上昇したコレクタ電圧を再度誘導負荷に流すことで、図22.8に示すようにコレクタ電圧の上昇を抑えることが可能です。誘導負荷と逆並列に接続するダイオードは 還流ダイオード あるいは フライホイールダイオード などと呼ばれます。


誘導負荷に対して並列にダイオードを接続した回路
図22.7 誘導負荷に対して並列にダイオードを接続した回路

ダイオードを接続したときのコレクタ電圧の変化
図22.8 ダイオードを接続したときのコレクタ電圧の変化


 次回は、FETを用いたスイッチング回路について説明します。






著者プロフィール
CrEAM(Cradle Engineers for Accelerating Manufacturing)

電子機器の熱問題をなくすために結成された3ピースユニット。 熱流体解析コンサルタントエンジニアとしての業務経験を生かし、 「熱設計・熱解析をもっと身近なものに。」を目標に活動中。

 

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