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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎 第30回 アルミ電解コンデンサの寿命

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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎

 今回は、アルミ電解コンデンサの寿命について説明します。

故障率と寿命

 最初に 故障率 寿命 について簡単に説明します。図30.1に示すように、単位時間あたりに故障が発生する確率、すなわち故障率の時間変化を示すと、軸受のような機械部品はある時間以降、経年劣化によって故障率が増加します。このような故障は 摩耗故障型 と呼ばれます。一方で、電子部品のように機械的あるいは化学的変化のない部品では、故障率は変化せず常に一定の割合となります。このような故障を 偶発故障型 といいます。


故障率の時間変化
図30.1 故障率の時間変化


 ある時間までに部品が故障する確率は故障率を時間積分したものとなり、これを 累積故障率 といいます。累積故障率の時間変化を図に示すと図30.2のようになります。


累積故障率の時間変化
図30.2 累積故障率の時間変化


 摩耗故障型の部品の寿命として、累積故障率が10 %を超える時間を示した、B10(またはL10)という指標があります。図30.2では、B10寿命は約2,800時間です。一方、偶発故障型における故障率の逆数はMTTF(Mean Time to Failure : 平均故障時間)と呼ばれ、図30.1ではMTTFは1 / (2×10-5) = 50,000時間となります。摩耗故障型では累積故障率が急増し、ほとんどのものが故障する時間、すなわち寿命が存在しますが、偶発故障型では累積故障率は徐々に増加するため、寿命は明確化できません。したがって、MTTFは寿命を示す指標ではなく、累積故障率がある値(約67 %)を超える時間ということになります。

アルミ電解コンデンサの寿命

 アルミ電解 コンデンサ の故障は時間経過に伴って電解液が失われて起こります。したがって、故障率の変化は摩耗故障型となり、寿命を有する部品になります。そのため、アルミ電解コンデンサを選定する際は寿命を計算し、製品に要求される寿命を上回ることを確認する必要があります。

 それでは、アルミ電解コンデンサの寿命を計算してみましょう。アルミ電解コンデンサの寿命はある温度で連続使用した際に、容量などが仕様を満足しなくなる時間として規定されています。この温度を 定格温度、仕様を満足しなくなる時間を 規定寿命 といい、いずれもカタログに記載されています。また、規定寿命は温度が10 ℃上昇するごとに半減します。したがって、任意の温度T [℃] における寿命L [Hr] は、L0は規定寿命、T0は定格温度として以下の式によって求められます。


  式 (30.1)
 

 例えば、前回選定したアルミ電解コンデンサでは、定格温度105 ℃での規定寿命は8,000時間であることから、周囲温度60 ℃における寿命は181,000時間(=約20年)となり、一般的な製品寿命とされる10年を超えることがわかります。

 式(30.1)に基づいて任意の温度における寿命を示したものが図30.3です。この図を見ると、温度の上昇によって急激に寿命が短くなることがわかります。そのため、熱設計ではアルミ電解コンデンサはできるだけ温度が低く、発熱部品から熱が流入しにくい箇所に設置する必要があります。なお、アルミ電解コンデンサは、リップル電流により発熱するため、その温度上昇を考慮する必要がありますが、ここでは説明を割愛します。リップル電流による温度上昇についてはアルミ電解コンデンサの技術資料などを参照してください。


アルミ電解コンデンサの寿命
図30.3 アルミ電解コンデンサの寿命


 次回からはH型ブリッジ回路とパワー素子を扱っていきます。






著者プロフィール
CrEAM(Cradle Engineers for Accelerating Manufacturing)

電子機器の熱問題をなくすために結成された3ピースユニット。 熱流体解析コンサルタントエンジニアとしての業務経験を生かし、 「熱設計・熱解析をもっと身近なものに。」を目標に活動中。

 

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