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移動物体機能の開発背景

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JOS(人体熱モデル)の開発背景

ソフトウェアクレイドル 技術一課 金山 友貴  
移動物体機能の開発背景

計算機性能の向上に伴い、検討する解析対象は複雑化してきています。一つの代表例として物体の移動を伴う解析検討が挙げられます。一般的に、物体の移動は非構造格子系のソフトで解析される事が多く、世の中に出回っている大抵の解析事例は非構造格子系のソフトによるものだと思います。何故ここにきて構造格子系のソフトSTREAM®の「移動物体」なのか?今回は移動物体機能の開発者であるソフトウェアクレイドル 技術部 金山に開発背景について聞きました



ソフトウェアクレイドル 技術一課 金山 友貴


他にはない手軽さ、速さの追求

 STREAM®には以前より、移動物体の機能が備わっていました。しかし、形状の取り扱い、メモリの使用量、計算時間と課題が多かったのも事実です。皆さんも移動するものを計算するとなると、非構造格子系のソフトウェアをイメージされるのではないでしょうか?確かに、今までは社内でも当然のように物体移動の問題については、非構造格子系のSCRYU/Tetra®をお客様にご提案している傾向がありました。しかし、計算負荷を考えるとハードルがとにかく高くなってしまうというのが、非構造格子系での物体移動を伴う解析の現状ではないかと思います。

 物体移動を伴う解析は、計算の手間がとてもかかります。さまざまな制約の中で、単純に平行移動をさせるだけでも、いろいろと調整が必要な高度な解析に位置づけられます。そこで、手軽な設定で解析が実施できるSTREAM®の移動物体機能をもっと広く使えるようにできないか?と考えたことが、大きなきっかけです。

 昨今のCFD(熱流体解析)業界では、物体移動を扱うことの出来る機能自体は一般的で多く存在していますが、STREAM®のような直交格子系をベースとして物体移動を扱うソフトウェアはそれほど多くありません。STREAM®が元来有する高速演算・メッシュ作成の簡単さといった特徴を損なうことなく、移動物体機能という高度な解析機能をも利用が可能であるという点において、他社のソフトウェアにはないアドバンテージを有していると考えています。従って、STREAM®の1つの特徴ともいえるこの移動物体機能を強化・拡張していけば、よりさまざまな解析シーンにおいてユーザー様のお役にたてる機能になっていくと考えました。


図1 攪拌機

 当初、この移動物体機能にはいくつかの機能制限がありました。例えば、2009年リリースのVersion8以前においては並列計算を行うことができないといった点がありました。その数値計算上の扱いの困難さから、並列計算への対応は容易ではなかったためになかなか改善されていかなかった部分です。ハードウェアの性能は日々向上し、それに伴って解析規模も増大していく中で、移動物体機能の並列計算への対応は急務といえました。また、その他にも、移動する物体同士の接触面における熱伝導を考慮する計算への対応や、マルチブロックとの併用など、お客様が取り組まれるさまざまなシーンに対応が可能な機能とするために、改良を重ねて来ました。

機能がこのような形になるまで

 並列計算への対応については、二段階で行いました。まず流れ場解析への対応、次に移動物体内部の熱解析部分への対応です。流れ場解析については比較的早く対応することができました。しかしながら、問題は熱解析部分です。STREAM®は前述のように直交格子をベースとしていますが、移動物体内部については非構造格子でメッシングしており、内部の熱解析には有限要素法を用いています。周囲に存在する直交格子の流体要素は有限体積法ですが、この流体要素と移動物体との熱的な相互干渉をいくつもの並列領域にて同時に考慮する方法を考案する部分が、技術的に大変困難でした。それぞれの段階について、まずはユーザー様からの提供して頂いたサンプルデータを活用して社内評価を実施しました。次いで、さらにユーザー様ご自身に評価していただく機会を設けました。結果的には、ユーザー様からの評価は概ね好評であり、十分な並列性能を確認するに至りました。


図2 拡散物質発生

 また、並列計算に対応したことによって、それまでは難しかった大規模な解析が比較的短時間で行なえるようになりました。これを皮切りに、より複雑な問題へのアプローチも現実的に可能となっています。そこで浮上してくるのが、移動する物体同士の接触面における熱伝導を考慮する機能などといった、新たな機能ということになります。こちらも開発作業を進めながらユーザー様に評価をして頂きましたが、当初こちらが想定していたよりもはるかに移動する物体の数が多く、その接触面の多さに愕然とする場面がありました。これほど多くの接触面を取り扱うのであれば、仕様から考え直すことになるかも、とまで考えたこともあります。最終的にはそこまで立ち戻ることはなく、ご希望に沿った改良を施すことが可能となりました。やはりユーザー様のフィードバックを得ながら開発することは重要であり、それが出来るのも弊社の強みだと、あらためて考えさせられたエピソードです。

結果、どのようなものができあがりましたか?

 各機能をユーザー様ご自身に評価して頂く機会を設けたことにより、弊社の自己満足で終わることのない、確実な評価が伴った機能強化に繋げることができていると考えています。特に、並列演算処理に対応できたことで、現実的な時間内に解析できることが、格段に増えたと思っています。もちろん解析対象にもよりますが、非構造格子で計算するよりも数倍早く計算できるので、一週間かかる計算が、1日で終えることが実現するということも実際にあり得ると思います。



図3 地下鉄階段付近の風速分布

機能の構成について

 移動物体機能とは、物体を移動させた場合にその周囲の流れ場を解析する機能です。取り扱うことのできる移動条件は並進移動・回転移動の2つがベースとなります。並進移動と回転移動を組み合わせたり、時々刻々、移動速度を変化させたりといったような解析も可能になっています。

 また、移動物体機能は温度解析や拡散物質解析、さらには混相流解析と併用することが可能ですので、移動する物体周囲の熱環境、拡散物質濃度の計算を行えます。特に温度解析では、移動物体内部の熱伝導解析を行うことが可能ですので、移動する物体そのものの温度の経時変化を解析できます。

簡単な使い方

  • まずは移動物体を配置します。移動物体はその属性を有限要素モデルとする必要があるため、STREAM®のモデリング機能では一部の部品でのみ作成できます。(六面体あるいは円錐台のモデル部品でのみ作成できます。)あるいは、外部ファイルとしてNASTRANのメッシュデータをインポートすれば、そのまま移動物体とすることも可能です。
  • 移動物体内部の熱を解く場合には、移動物体に物性値を設定し、移動物体のメッシュ分割も指定します。このとき、移動物体を構成する各要素が、流体要素の頂点を1つ以上含むようなメッシュ分割をしなければいけない点にに注意が必要です。
  • 条件設定ウィザードで、移動物体に各種条件を設定します。主には物体の移動速度や、物体の熱を解くかどうかといった設定になります。また、移動しながら、拡散物質の発生なども解きたい場合にはその設定も加わります。
  • 基本的には以上の3STEPで条件設定が通常の熱流体解析に加わるだけで解析ができます。もちろん、ほかの機能での設定と同様にウィザード形式での設定になっているので、STREAM®を使い慣れている方であれば、迷うことなく設定できると思います。

利用することでのメリットや注意点など

 比較的少ない計算コストと、比較的簡単な設定で物体移動を伴う高度な流体シミュレーションが可能です。具体的には、移動物体機能の大きなメリットはメッシュ作成や取り扱いの部分にあります。また、接触した状態での移動する物体間での熱を考慮した解析や、拡散物質の発生を考慮した解析なども可能です。

 非構造格子では、メッシュを作成するのも一苦労となるようなモデルに対しても、構造格子は、あっという間にメッシュの作成を完了させてしまいます。また、生成消滅メッシュ、伸縮メッシュ、重合格子など物体の移動を再現するための方法はいくつかありますが、大きな移動を伴うと、メッシュの品質が落ち、計算の安定性を損ないかねません。その点、移動物体機能では、そのような制限もないため、自由な移動が実現できます。まだ使ったことのない方には、ぜひ一度体感して頂きたいです。

 注意点としては、移動物体機能には、まだいくつかの機能制限もあります。移動距離と時間刻みの制約が存在するので、大幅に時間刻みを大きくできません。安定的に計算を解くうえで、その点だけは設定時に注意が必要です。詳しくは、HPのFAQやマニュアルに書かれているので、そちらをご参照ください。また、また、解析を実施する上でのワンポイントとして圧力基準点を設定してあげることで、安定的に計算を解くことができるようになります。ぜひお試しください。


図4 冷蔵倉庫にフォークリフトが侵入したとき

 Version11から実装になる機能では、輻射機能との併用が可能になります。リフロー炉のような物体が移動しながら、熱輻射の影響も無視できないという環境において、より正確な解を導き出せるのではと思っています。そのほかにも、お客様のアイデア次第で、さまざまな応用が利く機能だと思います。

ユーザー様にひとこと

 STREAM®の移動物体機能は、簡単な設定画面、計算の高速性と安定性の両立などの特徴を持ち、必ずしも経験豊富な解析実務者でなくともご利用頂けるのも強みと考えています。現在も毎バージョン、少しずつ改良・機能強化を進めていますので、以前は難しいと思われていたような問題でも取り扱えるケースが増えてきています。ユーザー様が向き合われる問題に対して、本機能が何らかの有効なソリューションを提供できれば幸いです。是非、今後もさまざまな解析シーンでご活用いただければと思います。


※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2013年6月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

 


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