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PICLS®の開発背景

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PICLS®の開発背景

株式会社ソフトウェアクレイドル 技術二課 衛藤 潤
PICLS®の開発背景

解析の専門家ではない基板設計者でも簡単に扱える熱解析ソフトとして開発されたPICLS®。2次元操作で、簡単かつ高速に熱解析を行えることを意識して設計されたため、解析モデルの設定を行うプリプロセッサと解析結果を表示するポストプロセッサが一体となっている。「基板設計者が熱設計アイデアを、ストレスなく、その場で試せるようなソフトウェアがあれば、設計現場に大きなメリットをもたらすことができる」そう考え発案に至ったというソフトウェアクレイドル技術部 衛藤に開発背景について聞きました。


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株式会社ソフトウェアクレイドル
技術二課 衛藤 潤


なぜ基板の熱解析に特化したのか?

 昨今、ユーザー様にお話をお伺いするなかで、密閉化や小型化など熱的に厳しい仕様が増えています。そして、それに伴い、システムレベルだけではなく基板レベルで熱設計を行う必要性が急速に高まっていると、日々のユーザー様とのやりとりを通じて感じています。主にシステムレベルの熱流体解析で利用されているSTREAMや熱設計PACにおいては、これまでも基板のモデリング機能のニーズは非常に高く、等価モデル算出機能やガーバーデータのインポート機能を実装してきました。


eto02_fig1.jpgPICLS® ロゴ

 

  その一方で、STREAMや熱設計PACを使った基板レベルの解析は、機能的に満たしていてもハードルが高いという声がありました。主な理由としては、「熱流体解析に詳しくないと手が出しづらい」「基板設計者にとって3Dの操作は抵抗がある」「もっと早く答えが欲しい」といったものでした。そこで私たちは、どのようなソフトなら基板設計者でも簡単に扱えるものになるのか、率直にユーザー様からお話をお伺いすることにしたのです。

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図1 PICLS® 操作画面

  そうして検討を重ねるなかで、徐々に分かってきたことがありました。それは、「モデル作成が容易であること」「解析結果の処理もスムーズに行えること」「リアルタイムで熱移動の様子や温度分布の変化が確認できること」これらすべてが実現されてこそ、はじめて設計現場において役立つ実用的なツールとして認識してもらえるということでした。

 私たちに現場の設計者から最も多く寄せられた声は、「部品を移動させることで、部品温度は下がると思うのだが、それは何度ぐらいなのか」というものだったのです。そうした熱設計のアイデアを、いかに熱解析を通じて気軽に試すことができるかどうかが、開発にあたってのコンセプトとなりました。

 そこで、ソフトウェアクレイドル社内にこれまで蓄積されてきたノウハウや技術力を集結させることで、高速(リアルタイム解析)と簡単(ECADライクな2次元操作、Pre・Solver・Post一体型のGUI)の両立を図ることにしたのです。

PICLS®を使って検討できることは何か?

 皆さんは、おそらくフロントローディングという言葉を一度は耳にしたことがあると思います。製品構想段階や設計初期段階において、熱設計をしっかりと検討して自由度の高いうちに理論立てて設計をしていこうという思想です。様々な方面でうたわれて耳にはしますが、実際の現場においてはなかなか定着していないのが事実だと思います。

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図2 PICLS®でのモデル作成

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図3 解析結果表示

 

 多くの場合、基板設計者は熱にあおられた部品をどのように配置変更すればよいのか、設計改良のためのアイデアは持ち得ているものです。しかしながら、確かめる術がないために、これまでの経験や勘に頼るか、CAE担当者に都度確認することでしか、改良する方法がありませんでした。そこで私たちは、そのための解決策として、リアルタイム解析を実現する、という結論に至りました。

 PICLSを使うことで、基板レイアウトを考える際に、できるだけ熱干渉が少なくなるような部品配置の検討をすることができます。部品同士が離れれば温度が下がることは、簡単に想像がつきますが、それだけではなく具体的に何㎜離れれば何℃下がるのかを数値で確認することが可能です。また、見落としがちな部品面とはんだ面に配置された部品同士の熱干渉のチェックも行うことができ、事前に熱的に危険なレイアウトを防止する手段になります。

 サーマルビアは部品温度を下げる技術として広く使用されていますが、具体的にどの程度打てばどのくらい温度が下がるのかをイメージすることは難しいのではないかと思います。PICLSではサーマルビアの本数や径、配置を自由に変更できるため、何処にどれだけ配置すれば何℃温度が下がるのかを確認することができます。

 また、これはどのような解析にも共通のことですが、検討結果を可視化することで、設計者間で情報を共有できることが大きなメリットと考えています。特に設計の上流段階から情報共有することができるため、熱問題をいち早く察知することが可能になります。

開発にあたり苦労や工夫したポイントなどがあればお聞かせください

 とにかく基板設計者が自らPICLSを活用して熱問題に設計の初期段階から対策を講じることができるように、何度も設計現場からの声を収集しました。

 また、精度検証の段階においては、ユーザー様にお願いして、実際に基板を設計、製造してもらいました。さらに、私たちも設計現場を体験させてもらうことで、プリント基板とはから、配線入力の仕方、部品実装状態に至るまで広く知ることで、どのような熱解析ソフトウェアであれば幅広いユーザー様に使っていただけるのか、イメージを膨らませていきました。

 最初に社内で検討を重ねた際には、熱解析に特化したソフトウェアを開発するために、既にあるSTREAMや熱設計PACの良い所をシンプルに引き継ぎながら、今後の拡張性も意識することを心掛けました。

 一見すると、「シンプルにしていくこと」と「拡張性をもたせること」は相反する概念でもあるため、その両立の実現を強く意識しました。また、「熱流体解析ソフトウェアから流体解析を引き算」といった安易な要件定義ではなく、新感覚の熱解析ソフトウェアをゼロから創り出す、そういった意気込みでプロジェクトに挑むことを決めました。

 これまでにも、カスタマイズという形式で、例えばVBAを用いた熱解析システムを個別に開発してきたことはありましたが、基板設計者が熱解析に慣れ親しむためには、やはり直感的でストレスなく、スピーディーなソフトウェアこそが最適解なのではないか、その思いは捨てきれませんでした。

 もちろん、ゼロから新感覚の熱解析ソフトウェアを自社開発することに対して、チャレンジングなプロジェクトになることは間違いありません。そのため、社内の開発陣から何度もヒアリングを行い、実現するための開発環境が社内に揃っていることを確認したうえで、あとは決めたからには何が何でも実現することを強く決意したのです。

 そして、具体的なユーザーインターフェースをイメージする際には、これまで培ってきたサポートエンジニアとしての経験から、開発者とともに「いかにECADの操作性に近づけるか」という点を強く意識して、重点的に取り組みました。また、多くの基板設計者の方に慣れ親しんで使っていただけるよう、四角などの図形を描きながら直感的にモデルを作成できることが肝になってくると考えました。ユーザー様の設計現場に何度も足を運び、意見交換をさせてもらいながら、どうすれば簡単に解析モデルを作成することができるのか、改良を重ねていきました。

簡単な使い方

 まず、モデル作成においては、2次元操作でモデリングが可能です。作業レイヤーを選択し、部品や配線、ビアといった部品パーツを選択したのち、それらの部品を配置、移動することで、解析モデルを作成していくことができます。次に、結果表示に関しては、メッシュ分割、ソルバー計算、ポスト処理が自動的に実行されます。

 そして、解析結果を表示した状態で、部品や配線を移動、変更を行うことができます。リアルタイムで反映されるため、解析結果もその場ですぐに確認することができます(図4)。また解析レポートとして纏めることも可能で、出力ボタンをクリックするだけで、HTML形式のレポートが出力されます(図5)。


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図4 リアルタイム解析

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図5 レポート出力機能

 なお、ファイルI/O(図6)として、画像データを部品レイアウトの下書きとしてインポートし、利用できるほか、出力は、STREAMや熱設計PACのライブラリファイルとして受け渡すことができます(部品・配線・サーマルビアおよび物性値・発熱量を引き継ぐことができます)。


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図6 ファイルI/O

 

最後にユーザー様にひとことお願いします

 PICLSは、基板設計の現場の声から生まれた、まさにニーズオリエンテッド型の熱解析ソフトウェアです。とにかくまずは触れていただき、熱設計アイデアを気軽に試すことのできる新感覚を体験していただければと思います。シンプルで誰でもその場で使えるという点に関しては、ユニークなツールを作ることができたと考えています。今後はフロントローディング設計のためのツールというコンセプトを維持しながら、ユーザー様の意見を伺い機能を拡張していくつもりです。そうすることで、設計現場における熱設計の普及に少しでも貢献できれば嬉しく思います。実際にご使用になってみて、お気づきの点やご要望がございましたら、どのようなことでもお寄せいただければ幸いです。


※STREAM、熱設計PACおよびPICLSは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2015年7月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

 


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