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東京工科大学 様

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シミュレーションと実験を両立させる教育で、 電力ロスゼロのサステイナブル社会を目指す

サステイナブル工学を特色とする東京工科大学のエネルギー応用研究室では、パワーエレクトロニクスをキーワードとした、効率のよいエネルギー利用の研究を行っている。研究室の高木茂行教授が重要だと考えるのは、シミュレーションと実験をバランスよく使いこなすことができる人材の育成だ。



写真1 東京工科大学 工学部 電気電子工学科 教授 エネルギー応用研究室
工学博士 博士(理学)技術士(電気電子) 高木茂行 氏


パワーエレクトロニクスに取り組む

 東京工科大学 工学部 エネルギー応用研究室 教授の高木茂行氏(写真1)は、電気分野でとくにパワーエレクトロニクスに関する研究に取り組んでいる。「様々なエネルギーを、私たちが利用できるような形に変えるのが研究室の大きなテーマです」と高木氏は話す。パワーエレクトロニクスは、電力変換に関する研究分野だ。例えば身近になりつつある電気自動車はまさにパワーエレクトロニクスが活用される製品である。また明るさを調節できるLED照明においてもパワーエレクトロニクスによる電力制御が重要な役割を持つ。



図1 身の周りには使われないまま捨てられる熱がたくさん存在する。
研究室ではできる限りエネルギーを無駄なく使うサステイナブルな電力工学に取り組む


 とくに高木氏が注力する研究の一つが、身の回りにある大量に発生しつつも日々捨てられている熱の有効利用だ。自動車や船舶のエンジン、ごみ焼却炉や工業炉、発電施設などの排熱を合わせると、年間で5000ギガワット時以上にもなるという。このうち1%だけでも回収できれば、小型火力発電1基分になるという(図1)。研究室ではこの排熱を利用した発電技術の研究開発を行っている。また発電によってつくられた電流は直流のため、家庭用電源として利用できるよう交流100ボルトに変換する必要がある。この変換効率の向上も、省エネを追求するうえで欠かせないテーマになる。ほかにも研究室では自動車や電車のスピードを落とす時に生じるエネルギーを使い、モーターを回して発電する回生技術にも取り組む。さらに、プラズマ殺菌に使用するためのプラズマ発生技術の研究も行っている。

アウトドアでスマホ充電などに利用

 このような電力関連機器を開発するうえで欠かせないのが、熱の流れを把握することだ。電力の変換には半導体パワーデバイスを使用するが、エネルギーの一部は熱になるため、うまく冷却しなければ機器が熱で破損してしまう。そのため研究室では、ソフトウェアクレイドルの電子機器の熱流体解析に適したソフトウェア「STREAM」を活用している。研究室では装置内部の熱の流れや、基板上または半導体内部の熱分布を把握するために使用しているという。

 パワーデバイスと並行して研究室で進めている、熱電素子を使用した排熱発電装置のシミュレーション結果が、図2だ。熱電素子は、2種類の導体を接触させて両方に異なった温度を与えると導体間に起電力が生じることを利用した、熱と電気の変換素子である。温度差が大きいほど発電量も大きくなるため、温度差が最大となるような設計を検討した。

 図2では濃い青の部分が熱電素子で、下には熱源を模したヒーター、上部には冷却のためのフィン、また左側にはフィンに効率よく空気を送るためのファンを設置する。なるべくエネルギー消費の少ないファンを選択し、適切な位置に配置するとともに、冷却フィンの構造や位置、角度、各パーツの間隔などを検討して、もっとも発電できる設計案を検討する。この研究には学生が取り組んでおり、各パラメータの最適化には、STREAMとダイレクトインターフェースでつながる最適化ソフトウェア「Optimus」を用いて進めていくそうだ。



図2 ペルチェ素子を使った排熱発電装置の検討。最も少ない流量で、熱素子のヒーター側と冷却フィン側の温度差が最大となるよう各パーツの構造を最適化する


写真2 熱電素子やモーターによって発電された電力をバッテリーに充電する実験。バッテリーに蓄えられるエネルギー量や寿命を評価する。
奥のディスプレイは熱電素子の冷却気流を解析した結果


 この発電装置は、アウトドアや災害時における利用を想定しているという。例えば火や加熱中の調理器具の付近に設置しての利用が考えられる。いくつかモジュールを接続することによって、スマートフォンを充電するといったことを想定している。さらに、交流100ボルトに変換して出力することも検討している(写真2)。

可視化で熱分布の傾向をつかむ

 STREAMを利用することで流れと熱の可視化が可能になり、気体の流速の増加と温度の下がっていく関係などの傾向をつかむことができたという。「気体が流れるのと流れないのとでは、冷却能力に大きな差があることや、流速を上げるほど温度は下がるものの、温度低下への寄与は線形ではないことも、可視化によって感覚的につかむことができました」(高木氏)。

 この研究では、シミュレーション結果をもとに、実際の装置開発も行う予定だ。さらに、解析結果と実験データとの比較も行っていくという。「実験の実施にはコストが掛かり、また実験によって確認できるデータは限られます。そのため、ある程度ソフトウェア上で検討したうえで候補を絞ってから実験を行っていきたいと思っています」(高木氏)。

 高木氏は、電力変換器(DC-DC変換器)向け基板の熱分布のシミュレーションにも取り組んでいる。装置内部の基板上に窒化ガリウム半導体素子を配置し、熱分布がどのようになるかを調べるという。変換器は小型であるほどよいが、熱が発生するため内部の熱状態の検討も避けられない。例えば上記で紹介した熱電発電は、元は40ボルトのため電子機器で利用できる140ボルトにまで昇圧する必要がある(写真3)。一方、回生によって得られる電圧は100ボルト程度だが、発電した電気を充電するバッテリーの電圧は2.5~24Vと低いため、降圧する回路が必要になる。昇圧と降圧で回路構成は似ているため、両者に共通の基板として検討しているところだという。



写真3 熱電素子によって作られた数十ボルトの直流電圧を家庭用の交流100ボルトに昇圧するための実験。
変換に伴う損失を電力アナライザーで測定し、損失を低減する回路を研究している


サステイナブルな社会の構築に貢献する

 実は東京工科大学の工学部は、サステイナブル(持続可能性)に軸足を置いた研究・教育を行っている。そのため工学部では1年次からサステイナブルに関する知識や考え方を身に付けられるようなカリキュラムが組まれている。環境影響の評価には不可欠な、ライフサイクルアセスメント(LCA)の評価手法を身に付けるとともに、LCA手法を用いて身近な製品を評価して、改善点を話し合うといったグループ演習などを行う。一方で各学科でも専門的な勉強を進めていくという。



写真4 東京工科大学で稼働する2000kW規模(700kW × 3台)のコージェネ装置


 また大学にはコージェネレーション(コージェネ)設備が稼働している。コージェネとは熱エネルギーを2つ以上の形態のエネルギー源に変換するエネルギーの利用形態である。大学のコージェネ設備は3つの発電機からなり、2000キロワット規模の電力供給が可能だ(写真4)。通常、発電所から供給される電力はそのまま各電気製品に使用される。だがコージェネでは、はじめに熱湯をつくり、それを冷暖房に用いる。暖房に使用されたお湯は温度が下がるものの、高温を保っている。この温水を使ってさらに発電を行う。この設備では一般的な電気の利用方法に対して約20%の省エネが可能だという。

 ただしこの設備でも、すべての熱が発電に利用されるわけではない。高木氏の取り組む熱電素子発電や効率的な電力変換は、コージェネ設備で発生する排熱の有効利用、そして設備の更なるエネルギー向上も想定したものだ。「排熱発電装置をコージェネに取り付けることによって、100ワットから1キロワット規模の発電を目指したいと考えています」(高木氏)。

バランスのよい技術者を育てたい

 高木氏は「メーカーにいたときから基本的に、実験だけまたはシミュレーションだけではよい製品は作れないというのが私の考えです」と話す。そのため、学生にはSTREAMを活用しながら、シミュレーションと実験の両方をバランスよく使えるようになってほしいという。高木氏自身が大学を卒業後、東芝に入社して研究開発を始めた当時は、シミュレーションソフトウェアはそれほど販売されておらず、それを動かすコンピュータも非常に高価だった。そのため、はじめは実験が中心で、シミュレーションに携わり始めたのは、10年ほど後にシミュレーションツールやソフトウェアが導入されてからだった。その経験から、解析がメインの人は解析だけに終始せず、製造などの現場に行き、装置改善にまで積極的にかかわることが必要だと感じたという。

 「学生には解析に加えてモデリングや最適化の手法まで使えるようになってほしいと思っています。また熱電装置の最適化を行った際には実験にも取り組んで結果の比較をし、回路シミュレーションに取り組んでいる学生には実際の回路作成まで体験させたいですね。現場で役立つような教育を実践したいと思っています」(高木氏)。

表示のクオリティと化学反応が決め手

 高木氏はSTREAMを選択した理由について、結果表示が洗練されていること、コストパフォーマンスがよいこと、また化学反応を扱えることを挙げる。表示は今まで企業で見てきたツールと比較しても特にきれいだと感じたそうだ。また勤めていた企業内ではSTREAMの導入も進められており、身近に見る機会があった。STREAMには様々な機能が用意されている一方で、価格もリーズナブルで、大学での導入にはSTREAMが適切だと考えたという。

 また、STREAMには扱いやすい化学反応の解析機能が用意されていることもポイントだった。高木氏は東芝で半導体素子製造に携わっていた。半導体素子を作る際には、材料の表面にガスを流して、材料とガスの化学反応を起こさせる。当時使用していた化学反応のソフトウェアは、式の入力が非常に複雑で、流体解析のソフトウェアとの連携がうまくいっていないこともあり、自由に反応を設定することが難しかったそうだ。STREAMには化学反応の速度を予測するアレニウスの式があらかじめ用意されているため、入力が非常に容易だという。

 こういった理由から、高木氏は試行期間を経て正式にSTREAMを採用した。セミナーや電話サポートも利用しているという。「学生とソフトウェアクレイドルの開催する基礎セミナーを受けに行きましたが、学生は流体についてはかなり理解したようです」(高木氏)。

 STREAMへの要望としては、操作面において境界条件を入れる作業が多いため、工夫をして短くなるとより使いやすくなりそうとのことだ。また化学反応について、需要の多いガスの反応についてはあらかじめ提供するとよいのではないかという。たとえば半導体製造における表面反応でもっとも単純な、シラン(SiH4)ガスが分解されて、シリコンが半導体基板上に膜を形成する過程は、4つ程度の化学式で表現され、頻繁に使われる反応になる。こういった化学反応に関する機能拡張も期待しているとのことだ。

回路シミュレーションとの連携も行いたい

 今後のSTREAMの活用について、高木氏は「素子内部のシミュレーションも進めていきたいですね」と話す。さらに取り組みたいと考えているのが、回路シミュレーションツールとの連携だそうだ。STREAMでの解析結果から熱抵抗を抽出して回路シミュレーションに渡し、発熱を計算することにより、半導体の温度上昇を最も抑えられる条件を検討していきたいとする。

 また高木氏は、電気自動車の回生や充電にもSTREAMを活用したいという。「現在の回生技術は、速度がゆっくりの状態でブレーキを掛ける場合は回生効率がかなり高いですが、速いスピードからの回生ではそれほど効率がよいわけではありません。この変換効率をもっと上げられるように研究を進めていきたいですね」(高木氏)。研究室では、STREAMを活用して身近にあふれるエネルギーの効率を上げる研究に次々と取り組んでいる。サステイナブルな社会の実現に向けた研究の今後に期待したい。



東京工科大学 工学部 エネルギー応用研究室

  • 創立:1947年
  • 大学設置:1986年
  • 設置者:学校法人片柳学園
  • 学校種別:私立
  • 所在地:東京都八王子市
  • URL:http://www.teu.ac.jp/

 

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2017年6月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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