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芝浦工業大学 様

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(左)写真1 2017年度のマシン「S014」。コンセプトは「The Goblin」で、名前の通り小型で素早い、異色の車両を狙った

 

学生フォーミュラで総合2位を獲得!
オンリーワン車両による芝浦工大の挑戦

芝浦工業大学のフォーミュラレーシングチームは、2017年の学生フォーミュラ大会においてチーム史上最高となる総合2位を獲得した。同チームは今まで培ってきた基本性能の追求の成果をベースにしながら大胆な設計変更を行うことで、飛躍的に速いクルマを作り上げた。メンバーに今回の車両コンセプトが生まれた背景や開発の様子、そして開発において役立ったという流体解析ツール「SCRYU/Tetra」の活用例について聞いた。

 芝浦工業大学のフォーミュラレーシングチーム「Formula Racing」(SHIBA-4)は、2017年9月5日から9日までエコパ・小笠山総合運動公園で開催された「第15回全日本学生フォーミュラ大会」において総合2位を獲得した。全日本学生フォーミュラ大会は、自動車技術会が主催する、学生の実践的な自動車づくりの教育を目的とする競技会だ。アメリカ自動車技術会が開催する「Formula-SAE」を手本にしており、世界各国で同様の大会が開催されている。単に車両を製作してレースを行うだけでなく、仮想企業の運営などにより、実践的な知識を身に付けられるのが大きな特徴だ。

 日本の大会は2003年から開催されており、SHIBA-4は2004年からほぼ毎年参加を続けてきた。SHIBA-4は2003年に結成され、2004年にはじめてイギリスの「Formula Student」および第2回全日本学生フォーミュラ大会に参加。その後、日本の大会だけでなくアメリカなどの海外大会にも積極的に参加し、実績を積み上げてきた。

 2017年の大会は海外を含む大学や自動車大学校、高専などから全94チームが参加。その中でSHIBA-4は総合2位を獲得するとともに、7つの部門賞に入賞するという成果をあげた。部門賞は8の字コースによる旋回性能を競うスキットパッド賞で1位、コース1周のタイムアタックを競うオートクロス賞で3位、耐久走行賞で3位、ベストラップ賞で3位、ベストサスペンション賞で1位を獲得した。また日本自動車工業会会長賞とICV総合優秀賞も受賞している。

小柄ですばやく走り抜ける「ゴブリン」

 2017年度の車両「S014」では「小型で速いクルマ」を目標とした。そのコンセプト名は「The Goblin」(写真1)だ。ゴブリンはファンタジーなどに登場する生物の一種で、どちらかと言えば悪役のすばしこい小鬼として描かれることが多い。正統派キャラクターからは離れた異色の存在といえる。「変わっているけど、走るとすごい能力を持っているといったイメージを表しています」とS014のウィング担当およびオートクロスとエンデュランスのドライバーだった、芝浦工業大学工学部機械工学科2年の五十嵐雄大氏(写真2)はいう。



写真2 芝浦工業大学 工学部 機械工学科 2年 五十嵐 雄大 氏(エンデュランス直後の写真)


 S014の全長は約2.6メートルで、ホイールベースは約1.5メートル、全幅は約1.3メートル、全高は約1.2メートル。重量は202キログラムと小型で軽量なのが特徴だ(図1)。前年度の車両「S013」から外見や性能は大きく変わったという。同チームの車両は代々4気筒のため、パワフルだが他チームよりも重量が重くなる。そのため軽量化のさまざまな工夫を行っている。エアロパーツは前後ウィングのみとし、その中でどれだけダウンフォースを取れるかに専念した。翼枚数についても、締結部品が増えるため1枚としている。剥離現象が翼の下で起こるため、通常はフラップを付けたり翼を何枚か重ねたりするが、剥離が起こるのは承知の上で、設計段階から1枚翼と決めていたという。冷却パーツのサイドポンツーンも思い切って取り払った。



図1 S014仕様図


 なるべく小型化・軽量化することにより、コーナーのライン取りの自由さを狙ったという。それにより、タイヤへの負担を軽減し、ドライバビリティの向上に成功した。なおこのようなドライバーが意のままに操れるような車両を作る際には、ソフトウェアクレイドルの流体解析ツール「SCRYU/Tetra」が活躍したという。

堅牢な車両の経験をベースに速さを追求

 大胆な設計変更を実行した背景には、「どのチームがはじめに1周60秒を切るかという熱い戦いがあった」と五十嵐氏はいう。SHIBA-4は2013年以降、基本性能を追求してきた。そのためかなり安全率を取り、「壊れない安全なクルマ」としての完成度を高めてきたという。その結果、信頼性については十分に高めることができた。

 だがこのままの設計の延長線上には、速さの向上は見込めないということが分かってきたという。そのためチーム内では、設計をがらりと変えなければならないという考えが強くなっていった。「データや経験は十分に蓄積してきたため、それを元に、攻めた設計をしようという考えになりました」(五十嵐氏)。そこでSHIBA-4は、海外の学生フォーミュラにみられる60秒を切るようなハイスピードを出せる車両を参考にしながら研究を進めた。その結果、The Goblinというコンセプトのクルマが誕生したというわけだ。

 S014の特徴は、例えばスラローム走行に表れている。スラロームは蛇行しながら進むコースだが、車両が小型であることにより、蛇行を大幅に直線に近づけられるようになった。なお車体の小ささを生かしてパイロンコースを素早く駆け抜けるためには、高い運動性能と、四輪すべてに神経が通っているような一体感の2つを両立させる必要があったという。

 軽量化のためにディファレンシャルギアなどもカットしてしまったが、エアロパーツにより高い旋回性能を見せ、スキッドパッドでも1位を獲得するなど、動的性能の各審査で好成績を収めた。

 なおオートクロスの走行前には、チェーンが切れるというトラブルに見舞われたという。しかも予備のチェーンは中古だった。そのため恐る恐るのスタートになったが、「走り出せば速かった。マシンのポテンシャルがよりはっきりと証明される形になった」(五十嵐氏)という。

流体解析でサージタンクの特性を予測

 運動性能の向上などでは、ソフトウェアクレイドルの流体解析ツール「SCRYU/Tetra」が役に立ったという。SHIBA-4は結成されてからほどなくして、SCRYU/Tetraを設計で活用するようになった。主に吸気系の検証のためにまず導入したようだという。現在は長年の経験の蓄積により、定常解析については、チーム内における相対比較において、納得できる解析値が得られるようになっているそうだ。

 S014車両のSCRYU/Tetraの使用は、サージタンクの形状の検討からスタートしたという。基本的な形状がまずあったものの、設計者が吸気系の設計が参考書の通りにはならないのではと疑い始めたため、確認のために解析を始めた。その結果、形状を一から設計することになったという(図2)。



図2 吸気系の解析結果。リストリクタからサージタンク、インテークマニホールドにおける流れの様子


 最初は単純な箱形状で解析を行ったところ、吸気の流れに圧力変動が生じることがわかった。実験でもそのような変動が発生すると考えられたため、変動をなくす条件をSCRYU/Tetraで検討した。また解析をベースに、サージタンクの容量を増やすなどの検討も行ったという。

 解析による検討をもとに設計を行い、シャシダイナモでの実験において、リストリクタの配置や向きなども検討して吸気系の検討を行った。図3はS013(2016年度車両)、S014(2017年度車両)およびS014の試験片の段階における、それぞれのトルクと馬力のシャシダイナモによる実測値だ。S013では回転数を上げるにしたがってトルクと馬力に変動が生じている。



図3 S013(2016年度車両)、S014(2017年度車両)およびS014の試験片の段階におけるそれぞれのトルクと馬力のシャシダイナモにおける実測値。
S013では回転数を上げるにしたがってトルクと馬力に変動が生じているが、S014では変動が消えて理想的かつ狙い通りの応答性を得た。


 解析による検証の結果、2017年度の試験片およびS014では、変動が消えて理想的な応答性を得た。ただしS014は試験片より最大パワーが落ちている。この理由は慣性効果か圧力損失のためかは分かっていない。インテークマニホールドの管長やサージタンクの容量は様々に変えて検討したが、サージタンクの形状は詰められていないので、その辺りに原因があるかもしれないという。

 解析およびシャシダイナモでの実験の結果、これらの間にはかなりの相関があることが確認できた。なおSCRYU/Tetraの操作については、一度慣れれば容易に使え、計算速度についても問題なく十分な回数の計算を行えたそうだ。

次年度はさらに完成度を高める

 現在、2018年度の大会に向けた活動がすでにスタートしている。今回のコンセプトは、The Goblinの頭文字を取った「G」だという。「The Goblinのコンセプトを引き継ぎ、短所をなくして長所を極限まで引き出すつもりです。静的審査の伸びしろもあり、まだまだ(ポイント獲得は)見込めると考えています」と芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム科1年でウィング担当の管龍彦氏(写真3)は話す。



写真3 芝浦工業大学 システム理工学部 機械制御システム学科 1年 管 龍彦 氏 (取材当日の写真)


 新たな車両ではエアロデバイスを中心に改良を行う予定だそうだ。昨年はスケジュールが遅れた反省から、進捗をよりしっかり管理するとともに、S014の時に発生したチェーン破損や、エンデュランス走行中のシフターの故障、水温上昇などのトラブルを確実になくしていきたいという。

 流体解析については、2017年度はリストリクタの長さの検討を2パターンしか行っていなかった。そのため、より多くのパターンを解析したいという。吸気系については内部にセンサーを配置して実測するといったことはまだ行っていない。この点は改善の余地があり、それにより解析精度を高めることも見込めそうだ。

 また旋回解析も行ってみたいとのことだ。車両には姿勢変化をさせてもウィング自体の姿勢を保つバネ下マウントウイングは付けていない。これも軽量化を追求したためだ。前回のウィングの翼端板は、車両を斜めにすることで、風を斜めから当てた状態として検証した。やはり旋回時のロール、ピッチが変化している状態における空力性能の最適化は行いたいという。

 目下の悩みとしては、実際の速度で走れる走行場所が容易に確保できないことだそうだ。大学構内では時速40キロメートルがやっとだが、実際は90キロメートル程度になる。シミュレーションだけでなく実際の走行も行いたいという。

 様々な課題を解決しながら前に進んできたSHIBA-4は、2017年に見事に総合2位という結果を得た。来年度もSCRYU/Tetraを活用しながらより車両を洗練させ、最高の戦いを見せてくれるはずだ。



芝浦工業大学

 

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2017年12月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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