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名古屋市立大学大学院 様

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名古屋市立大学大学院 様 インタビュー

空調システムの効率化ツールをCFDと連成 
建築物のライフサイクルを通した省エネへ

限られたエネルギー資源を有効に使うためには、単に消費エネルギーを削減するだけでなく、エネルギー使用方法の効率化も重要になる。名古屋市立大学の尹奎英准教授は空調エネルギーマネジメントツールに関する研究を行うとともに、STREAM®との連成に取り組んでいる。

 エネルギー消費は、運輸、民生、産業の3部門に大きく分けられる。そのうち日本では民生部門が約3分の1を占める。この民生部門のエネルギー消費量は、40年前と比べて約2.5倍と飛躍的に増えた。民生部門はさらに家庭部門と業務部門に分けられるが、とくに業務部門では、エネルギー消費量のうち空調の占める割合が約半分にもなる。したがって建築物における空調の効率化は、消費エネルギーの低減に取り組むうえで重要な分野の一つとなる。

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名古屋市立大学大学院
芸術工学研究科 准教授
博士(工学)尹 奎英(ユン ギュウヨン) 氏

 

 建設業界における環境に関わる取り組みには、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)やBIM(building information modeling)、ZEB(zero energy building)などさまざまなものがある。CASBEEは建築物の環境性能を総合的に評価するものだ。またBIMは、建築物について設計図をはじめ材料やコスト、調達先などあらゆるデータをすべて盛り込んだデータベースと言える。意匠、設備、構造といった今まで分断されがちだった分野を統合することによって建築物の生産性を高めるカギになるとみられている。ZEBという取り組みも世界で進行しつつある。これは建築物が使用したエネルギーを自身で生産してトータルでエネルギー利用をゼロにしようという考え方だ。いずれも消費エネルギーを削減するだけでなくうまくエネルギーの使い方をマネジメントすることが必要だ。その中で、建築物で大きな割合を占める空調の効率化が重要な課題になるのは間違いない。

 
 

さまざまな視点から空調の効率化に取り組む


 その空調の効率の面から建物の消費エネルギー削減の研究に取り組んでいるのが、名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 准教授の尹奎英氏である。尹氏は一貫して省エネに貢献する空調システムの研究に取り組んできた。その一つがクール/ヒートチューブという、地中熱を利用したシステムである。専用の配管を地下に埋めて、冬は暖かく夏は冷たい地中熱を利用する特殊なシステムである。また愛知万博で設置されたドライミストの研究も行った。またダブルスキンという建物の外装を二重にして間に通気させて空気を循環させることで、エネルギーを削減するシステムも尹氏の研究対象である。尹氏が最近とくに取り組んでいるのが、シミュレーションを使った空調システムの検討手法である。


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芸術工学棟 中部建築賞・照明学会照明普及賞
優秀施設賞 受賞(名古屋市千種区)

 

ライフサイクルを通して消費エネルギーを管理


 空調の効率化は実際のところあまり進んでいないのが現状だ。そこで空調設備機器およびシステムの年間エネルギー消費量などをシミュレーションする「LCEMツール」が開発された。LCEMはライフサイクル・エネルギー・マネジメントの略で、LCEMツールは約7年前に国土交通省の大臣官房官庁営繕部が開発、公開された。さらに2010年からは、公共建築物を建築する際は、LCEMツールを使ってエネルギーマネジメントを検討することが要求されている。

 LCEMツールは空調の機械的な動きをシミュレーションするものである。LCEMツールによって、建築物の空調のエネルギー消費量や、空調システムをどんな状態で稼働させればよいかが分かる。ツールは基本的に1時間刻みで空調システムの時間変化を見ていくことができる。それを継続して年間などで検証することも可能だ。天候の変化は、天候による熱負荷を別のツールで計算してインプットすることで反映できる。

 LCEMツールは建築物のライフサイクルのすべての段階において使えるのが特徴だ。設計時にはLCEMツールで空調システムを検討しながら設計を進める。施工時には、試運転調整時の性能確認や、最適な運用方法の事前検討などに使える。運用時においては、建築物のエネルギー性能の評価や、どういった運転をすればより少ないエネルギーで目的の効果を得られるかという運用改善の検討に利用することができる。

 LCEMツールがとくに目指したのは、使いやすさと、オフピーク時の性能を評価できることだという。表計算ソフトをベースとして開発したのは、設備系技術者にとってはExcelがデータ処理において日常的なツールだということもあり選ばれた。オフピーク時の性能評価については、季節や時間により空調システムはさまざまな条件で動く。これをふまえたうえで評価できるもの、つまり、部分負荷運転も考えてマネジメントできるように考えて開発したという。逆に言えば、今まで部分負荷をふまえた空調システムの設計はほとんどされてこなかったということであり、この現状を解決するために作られたツールだといえる。


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尹 奎英 氏

 なお部分負荷運転とは、定格能力(あらかじめ決められた条件での運転能力)より低い能力で運転することである。これにより、年間で必要な最大エネルギーをベースに空調システムを設計するのではなく、稼働状態の大半を占めるフル稼働でない状態にあわせて効率化を行うことが可能になる。例えば冷凍機であれば、設備を設計するときには、1年を通して一番暑い時期に性能を満足する機器を選ぶのが普通だ。だが年間を通した運用状態を見てみると、負荷が最大となる時期はほんの数時間しかない。残りの期間は負荷が小さいため、ほとんどの時間はフルに性能が生かされず、効率の悪い運転状態になってしまう。対策としては、温熱環境を緩和し容量を下げたものを導入する方法や、小さいものを複数台導入して、必要な個数だけ使うといった方法がある。また部分負荷運転において効率のよい機械、つまり例えば80%の消費電力のときに1番効率がよいなどといった機器も最近販売されている。蓄熱システムを使って、部分負荷になるところをうまくシフトさせるシステムもあるので、これらの方法をうまく組み合わせていく。LCEMツールは、この部分負荷の性能も考慮しながら空調システムを評価できるというわけだ。

 

LCEMとSTREAM®を連成でさらに精度よく


 さらにLCEMツールは、ソフトウェアクレイドルのSTREAM®と連成して使い、互いの精度を上げることができる。部屋の温度などの状況によって実際の空調の動作は変わる。だがLCEMツールだけでは、屋内の状況が考慮されずに計算が進んでいく。空調機器の性能と部屋内の状況はリンクしているので、シミュレーションでもリンクした状態で解析しなければリアルな状況は再現できない。LCEMツールとSTREAM®の連成では、空調機の吹き出し口から出てくる空気の状態をLCEMからSTREAM®に渡し、STREAM®は部屋の環境を解析する。その結果をまたLCEMの空調機の吸い込み口に渡すというサイクルを繰り返す。実際の動きを如実に再現できるのがメリットだ。


 尹氏がLCEMツールとSTREAM®との連成を始めたきっかけは、それまでは室内すべての場所が瞬時一様に設定温度になると仮定していたことだった。だが実際は室内は一瞬で温度は変わらず、場所によって一様でもない。そこでより現実に近く、より精度よくシミュレーションを行うために連成の検討を始めたという。実際に連成を使って、節電対策で空調機を一部停止した場合の環境の変化について検討した。これは空調システムをイレギュラーな使い方をした場合に環境がどうなるかということだ。それほど環境が悪化しないことが予測できればその対策が取れる。昨今の省エネのニーズに応える活用方法だ。


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LCEMツールとSTREAMの連成解析概念図


 尹氏がSTREAM®を使い始めたのは2006年だ。きっかけは、ある設計会社からの相談だった。設計会社は、室内の温度分布がどうなっているのかわからないため検討をしたいと考えていた。また自社の顧客にそれを分かりやすく説明したいという。具体的には、今まで屋内の温度を全部26℃にするという考え方で空調システムを設計してきたが、実際には温度分布が生じるので顧客もそういったことを気にするようになってきたことや、PCの性能が上がり3次元でのシミュレーション予測が可能になってきたという背景もある。またビジュアルを見せるとインパクトもありSTREAM®を使って検討を始めたということだ。再び本格的に取り組んだのが、3年前に開業した京阪電鉄中之島線の大江橋駅における『列車が入ってくるときの風の解析』である。その頃STREAM®のバージョンがアップした時期で、インタフェースががらりと変わり非常に使いやすくなったという。研究室の学生も、2週間あれば最低限使えるようになり結果も出せる。「ほかのツールに比べてとても習得時間が短くとても使いやすい」(尹氏)という。


ポストの使用範囲が広がれば


 ソフトウェアクレイドルに対しては、問い合わせる時の対応がとても速いのがありがたいという。対応内容もとてもしっかりしているということである。一方、新しくできた機能を後のバージョンで廃止するのはできれば避けてほしいとのことだ。機能を使っていた場合、その機能だけで完結していればよいが、他の機能と関連させて使っていると、一つの機能が消えるだけで関連用途すべてで使えなくなるので大変だという。


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個別分散空調システムの節電対策検討シミュレーション例


 またポストは、PCに入れて持ち運びができるとありがたいという。ネットワーク版は現在は持ち運ぶことができないが、打ち合わせなどでは紙に印刷した結果だけではうまく伝わらないことがあるからだ。ビューワを使う方法もあるが、あらかじめ設定した画像しか見せることはできない。詳細な質問を受けた時、説明するにはポストで任意の条件で映像を見せられるとありがたいので、ポストだけでもライセンスの制約をはずしてもらえればとのことだ。

 尹氏は「LCEMツールを作っても世の中に広く使ってもらわないと意味がないので、普及のために、もっとわかりやすいものにしていかなければならない」と語る。LCEMツールとSTREAM®を連成したシミュレーション手法に関する研究は名古屋大学研究グループ(環境学研究科奥宮政哉教授、飯塚悟准教授)と共同で行っている。「LCEMとSTREAM®の連成については、カスタマイズ的なところが多くあるので、今後もより使いやすくしていきたい」(尹氏)ということだ。

 建築部門における効果的な空調の設計、運用は省エネのために今後欠かせない取り組みになる。LCEMツールとSTREAM®の連携は、ますますそれを後押しすることになるだろう。

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名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科

  • 学部設置:1996年
  • 大学院設置:2000年
  • 学校種別:公立
  • 本部所在地: 愛知県名古屋市瑞穂区

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2013年8月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


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