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一般財団法人 日本建築総合試験所 様

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一般財団法人日本建築総合試験所  様インタビュー

写真:一般財団法人 日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 耐風試験室 村上 剛士氏

風洞実験とCFDを使い分け、市街地の風環境評価業務の効率化推進と多様なニーズに対応

建築に関する試験・研究、評価、審査、認証および情報普及などの事業において第三者機関として携わってきた日本建築総合試験所。同試験所内で、建築物と風に関するさまざまな試験・実験を行ってきた耐風試験室では、CFD(数値流体解析)ソフトウェア STREAMを導入した。今回はその背景と効果についてお話を伺った。

建築物をあらゆる角度から試験

 日本建築総合試験所は建材メーカー、ゼネコン、デベロッパー、設計事務所などから依頼された建築に関する試験・研究、評価、審査、認証および情報普及などの事業を第三者機関として行なっている。事業は試験研究センター、製品認証センター、建築確認評定センター、構造判定センターの4つのセンターにおいて展開。そのなかの試験研究センターでは構造試験、土質基礎試験、音響試験、熱試験、耐火・防火試験、風洞試験、動風圧試験、材料試験、工事用材料試験など、さまざまな分野の試験を行っている。

 今回伺った耐風試験室は、建築物と風に関するさまざまな試験・実験を行っている試験室。コア事業は風洞部門と動風圧部門の2つ。風洞部門では風洞というトンネルの中に建築物等の縮小模型を設置し、そこに風を通して風に関する各種実験を行う。実験項目には風環境実験、風圧実験、風力実験、空力振動実験などがある。対象としては、超高層の建築物における風環境実験、風圧実験の比率が高い。上空の強い風が大きな建物に当たり下降風となった場合、風が建物周辺の環境にどの程度影響をおよぼすのか、という、いわゆるビル風の影響を試験・実験で検証している。

 動風圧部門は建築物の外装材等の実物に対して、圧力箱という試験装置を用いて風圧力が作用した状態を再現した試験を行っている。具体的な試験対象としては、外壁やカーテンウォール、屋根材などの外装材、ドアセットやサッシなどがある。

 同試験室はこれまで約30年の風洞実験の実績があり、ノウハウを豊富に保有している。ソフトウェアクレイドルのSTREAMを活用してCFDを行うなど、実験とCFDの両方を比較しながら精度面の検討も可能な点は、同試験室の大きな特色と言える。

 


風洞実験を行う大きなトンネルに縮小モデルを配置する

時代の流れを背景にCFDの導入を決断

 同試験室がSTREAMを導入したのは2017年の2月。その導入背景は、コンピュータの高性能化、コストの問題など時代の流れが大きいと同試験所試験研究センター環境部 耐風試験室の村上氏は語る。「以前まで当試験室では実験のみを業務としていましたが、CFDの技術やコンピュータの高性能化により、風環境実験の一部については現実的にCFDで実施可能であることが学会発表などの情報から分かりました。実際、模型をつくる必要がなく、個々のケースタディが簡単に作成できるというメリットは導入前に予想していました。今後、風洞部門の実験内容はCFDに置き換わっていくと感じ、この流れに乗り遅れた場合の将来的な危機感からCFDの導入を決断し、計算負荷の比較的小さい風環境実験から業務への導入を目指しました」(村上氏)。

CFDソフトウェアに求めた選定要件

 CFDソフトウェアの導入にあたって同試験室は要件を精査。計画建築物のほか、計画建築物の高さの2~3倍の範囲の市街地の形状を再現した解析を行うことを前提に、高度な空間の分解能が必要になるが、熱や浮力などの解析は不要と考えた。そのほかの要件は以下の通りだ。

1.乱流の流れ場の解析において、流速の平均値を算出できること

2.RANSモデルで定常解析が行えること

3.多数の建築物を含む市街地の形状を再現するため、CADソフトによる形状データをインポートできること

4.風環境の悪化に対する防風対策の検討のため、樹木のモデル化が可能であること

5.CFDのエキスパートでなくても操作が可能であること

 
 要件にそってピックアップしたCFDソフトウェアは3製品。その後STREAMともう1製品に絞って、両方ともに1年間の契約を行ってテストを繰り返し、最終的に1本だけ残す選定方式を取った。

 STREAMを選ぶ決め手となったのは、部分的なメッシュ細分化で高い形状再現性と計算効率向上の両立が期待できるマルチブロック機能を搭載していたこと、多用途向けで今後の適用範囲の拡大が容易であることが挙げられる。「マルチブロック機能は、風環境の解析では重要です。例えば、解析領域全体を細分化するしかない場合は、計算に膨大な時間を要してしまいますが、一部をメッシュ細分化できれば、効率的に精度の高いデータが得られます。多用途向けというのは、STREAMは他分野でも多くの顧客を抱えている点を評価しました。今現在は、風環境の解析で利用する機能に限られていますが、当試験室で用途を拡大する際には技術支援を受けやすいと期待しました」(村上氏)。


試験研究センター 環境部 耐風試験室 村上 剛士氏
 

導入後の進捗状況とCFDに対する評価

 CADデータの準備、STREAMへのインポート、解析の設定など試行錯誤しながら、2017年春頃には風洞実験と同様のモデル(市街地)について解析結果が得られるところまでの手順を確認できた。2017年の夏頃には解析の受託を開始。苦労しながらも解析結果を得て、依頼者へ報告することができたという。

 風環境の評価には16風向の解析が必要であり、解析の設定や解析結果数値の抽出はかなり煩雑な作業になる。そこで、2017年末頃にソフトウェアクレイドル社が主催するVBインターフェースのセミナーを受講。これにより、16風向の設定などを自動化することに成功した。また、樹木や建物形状の入力については、CADソフトのマクロを使って効率的に処理できるようになった。同試験室ではSTREAMによる解析について、「数値流体解析による風環境評価について」というタイトルの記事を同法人の機関誌GBRCに掲載している。ここでは、その一部を抜粋し掲載させていただいた。

風洞実験の実験概要

 風洞実験における風環境評価では、調査対象建物およびその周辺市街地の形状を忠実に再現した1/400スケール程度の模型を作成し、風洞の中に設置する。風洞の風を模型に当て、風速計を各評価点位置へ順次移動させ風速を測定する。通常、評価点は調査対象建物から同建物高さの2倍程度以内の範囲に代表的な位置を60~80点程度選定する。なお、風速計の移動はトラバース装置を用いることで、コンピュータ制御で自動的に行うことができる。

 風向きについては、模型をターンテーブル上に設置しておき、回転させることで制御を行っている。風環境の評価に用いる気象データは22.5°ごとの16風向で整理されていることから、風洞実験においてもターンテーブルを22.5°ごとに回転させ、16風向分の実験を行う。


 風洞実験状況図

数値流体解析の概要 

 数値流体解析の解析方法の妥当性を検証できるように、日本建築学会ではベンチマークテストを数種類用意しており、建物形状のCADデータや風洞実験結果が一般に公開されている。解析対象としたベンチマークテストは、新潟市内に実在する平坦な地形上に2階建ての低層建物が密集した市街地に新たに高さ60mの建物1棟と高さ18mの建物2棟が建設されることを想定したものである。建物形状のCADデータは、半径200mの範囲にわたって再現されており、これは風洞実験で模型として再現された範囲と同じである。また、新たに建設される建物の周辺に評価点が80点設定されており、風洞実験による測定結果が公開されている。対象市街地に近い新潟地方気象台における風の観測データの特性は、北北東から吹く頻度が最も高く、次に西から吹く頻度が高い特性である。

 


建物形状のCAD データ

 解析領域の大きさや境界条件は、ベンチマークテストが指定している計算要領に従って設定。メッシュ分割は、建物の位置や評価点の位置を考慮し、鉛直方向は、地表面付近は細かく、上空は粗く分割した。また、水平方向は再現範囲の中心付近は細かく、中心から遠い位置は粗く分割した。風向は流入境界において流入風の角度を変更することにより設定し、22.5°ごとの16風向について解析を行った。

 16風向について行った解析のうち、風環境評価ランクへの影響の大きい北北東と西からの風向について、地上2mにおける風速比のコンター図(下・左)を見ると、新たに建設される高さ60mの建物の近傍において、同建物からの吹き降ろしの影響とみられる強風域が発生することが判る。数値流体解析結果および風洞実験結果を用いた風環境評価尺度による評価結果/ランク評価(下・右)を見ると、風向NNEやWにおいて風速比の大きい評価点でランク3やランク4などの評価となっていることが判る。また、風洞実験結果から求めた評価結果と比較すると、完全には一致しないものの、新たに建設される高さ60mの建物の近傍においてランク3や4が現れるという傾向は一致していることが判る。


メッシュ分割の状況/水平断面

 


ベンチマークテスト STREAMによる解析結果(風速比コンター図)(左)と風環境評価(ランク評価)(右)

総括

 STREAMによる数値流体解析は、風洞実験と同様に市街地の形状を再現して行うことができることを示した。現状では信頼性は風洞実験に比べてやや劣るものの、市街地モデルの作成コストを低く抑えられることや建物形状変更への対応が容易であることなどのメリットも大きい。よって、要求精度に応じて風洞実験と使い分ける必要があるが、利用できる技術の選択肢が広がったと言える。風洞実験とCFDを使い分け、或いはそれらを組み合わせて依頼者の多様なニーズに応じられると考えている。

設計前の検討段階でCFDを活用

 STREAM導入後の効果について、まずは風洞実験とSTREAMによる解析を単純比較した場合、期間やコスト面での違いは次の通り。風洞実験では1日をかけて60~80のポイントを試験、それを建設前、建設後、樹木などなどによる対策後(樹木配置も何度か変更する)といった条件を変えて何度か行う。これらにより、風環境はトータル3週間という期間を要する。同じ規模感ものをSTREAMで行うと、まず同実験室のワークステーションでテスト、そのあとはクラウドで実行というスタイル。遅くても、2週間で結果を出せる(風洞実験に必要な模型の外注、STREAMのモデル準備期間は除く)。コストに関しては、見積ベースでSTREAMを用いた場合、風洞実験の約半分で提供できる。ただし、STREAMによる数値流体解析は実務での本格的な活用がようやく活性化してきた段階。従って、現在は設計前の検討段階でCFDを用いるケースが多いと言う。ある程度設計が決まった最終検討では風洞実験となっているが、今後は同等レベルでの活用を目指している。


数値流体解析の画面

STREAMへの評価

「直感的に分りやすい操作性と汎用性の高さ(浮力、熱、輻射、移動物体、粒子なども扱える)は、今後のさまざまな展開に応用できると期待しています。また、マルチブロック機能、並列計算といった技術力の高さもSTREAMを評価する点。プリポストを外部プログラムからコントロールするためのVBインターフェースで動かせる点も助かっています」(村上氏)。またクラウド利用については、「コア数に関係なく、クラウドなら時間制で利用することができます。クラウドを利用すれば、16風向の計算を同時に並列で実行でき、短時間で処理が可能。ただし、クラウドがすべてにおいて安価というわけではありませんので、社内のワークステーションでできる範囲とクラウドで実行すべきものをしっかり精査する必要はあります」と村上氏。最後にサポート面については、「問い合わせに対しレスポンスが早くて助かっています。技術的にも支援していただいています。例えば、1日以上経過しても収束しないということがありましたが、技術担当の方に問い合わせたところ、緩和係数などの設定についてアドバイスをいただきました。おかげ様で、現在は4~5時間で収束しています。セミナーも充実していると感じます。セミナーを受講すれば、活用したい機能を短時間で取得できます。実際、VBインターフェースは、半日ほど参加して理解することができました」(村上氏)。

CFDの適用範囲と選択肢を広げていきたい

同実験室では、顧客の要望に応じ適切な方法を検討する際の選択肢として、CFDを取り入れた柔軟な業務展開を目指している。また、CFDの適用範囲を広げ、選択肢を広げたいという想いもある。「汚染物質の拡散、換気口部品の通気抵抗(動風圧部門で試験の受託実績がある)、物の飛散実験(風洞部門で実験の受託実績がある)などが適用範囲として考えられるでしょう。今は計算負荷が大きすぎて現実的ではありませんが、将来的には風圧実験などもCFDで行える可能性があると思っています」(村上氏)。




一般財団法人日本建築総合試験所

  • 設立 :1964年4月24日
  • 所在地:大阪府吹田市
  • 組織 :・試験研究センター ・製品認証センター ・建築確認評定センター ・構造判定センター
  • URL :https://www.gbrc.or.jp/

 

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2019年8月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

 

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