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東京理科大学 工学部 建築学科 様

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東京理科大学 工学部 建築学科 様 インタビュー

暖房から喫煙室まで 
人の快適性をシミュレーションする

屋内の空気流れとその中にいる人の快適性に関しては、まだ解明されていないことも多い。東京理科大学の倉渕隆教授(写真1)は、建築物屋内の空気流れ全般のコンピュータシミュレーションに取り組んできた。その際に活用しているのが、熱流体シミュレーションソフトウェアのSCRYU/Tetra®である。

 東京理科大学 工学部 建築学科の倉渕研究室では、建築環境工学、建築設備学、そして数値流体工学の研究に取り組んでいる。身近な冷暖房の快適性や省エネ性能から始まり、浴室暖房の提案や喫煙室の空気流れといった、換気や人の快適性に関わる課題に、コンピュータシミュレーションを駆使して取り組んでいる。実験による裏付けを元に、さまざまな身近な生活環境から業務環境などを取り扱う。

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写真1 東京理科大学工学部 建築学科教授 博士(工学) 倉渕 隆 氏

 倉渕氏ははじめは構造格子のホームメイドコードを用いて研究を行っていたという。だがコードの中身を完全に把握しているのはコードを作っている倉渕氏本人だけだった。各種の流体問題を解こうとしても目的に応じた改造が必要なため、研究室の学生が利用するにはハードルが高かった。そこで商用コードの利用を検討するようになったという。

実用的な問題を解くことが可能に

 以前はまず実現象があり、それにシミュレーションの結果がどれだけ一致するかに焦点を当てた研究がメインだった。だが商用コードの検討を始めた頃は、「流体解析はそこそこ実現象に合うことが知られており、どう流体解析を実際の建築環境の改善や、設備の最適化につなげていくかという実用的なテーマへと関心が移りつつあった」(倉渕氏)。そこでホームメイドコードでは対応が難しい課題に商用コードで取り組んできたいと考えたという。当時、人体の温熱感をシミュレーションで解明するというテーマに取り組んでおり、人体形状に適合性の高い柔軟なソフトウェアを求めていた。そこで国際的にも評価が高く、人体熱モデルの予測精度も上がっていると言われていた非構造格子のSCRYU/Tetraを導入したという。
 

床暖房とエアコンを流体シミュレーションで比較

 取り組んだテーマの一つが、床暖房とエアコン暖房の比較だ。床暖房とエアコンでは、空気の流れ方、人体の体感などが異なる。その理由を、実験で検証しながらSCRYU/Tetraの人体熱モデルとシミュレーションを使って分析するとともに、どちらが少ないエネルギーでより快適に過ごせるかを比較した。

 体感が異なる理由は、人体表面における対流熱伝達率の違いによる。メッシュを人体の形状に合わせてコントロールしなければ、対流熱伝達率が正確に予測できない。そのあたりのハンドリングについてはSCRYU/Tetraは評判がよく、実際にやってみても高い精度で予測できたという。

 まずサーマルマネキンを用いて、一様環境下で温度が変化するとマネキンの熱伝達率がどのように変わるか実験を行った。実験では通常の機械工学で検討実績のある単純形状とは異なるマネキン独自の傾向が出てくる。こういった傾向の再現性についてもシミュレーションツールで確認した。その結果ほとんど実験誤差の範囲に収まるほどぴったりの精度で、熱伝達の予測ができると分かった(図1)。「これほど精度が出るのであれば、むしろ実験で精度の出せない現象を解析ツールで検討することにメリットがあると考えました。どちらが上かというような比較をする場合は、解析ツールで決められるようになりつつあるのだと思います」(倉渕氏)。

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図1 流体解析と実際の無風環境下における熱伝達特性を比較

 実験と解析の検証結果を踏まえて、実際の課題をシミュレーションした。エアコンと床暖房を同一の部屋で使った時、体感温度が概ね同一の場合に、室内環境にはどのような違いが出ているのか、またそれぞれの場合のエネルギー投入量を検証した。


 図2の状態でサーマルマネキンからの平均放熱量が、床暖房とエアコンの場合で等しくなる。だが室内の温度はエアコンの方が3℃ほど高くなっている。理由の1つは床暖房なので壁が温かく、その分、空気温度は低くてもよいためだ。もう1つは、エアコンは暖房時には温風を吹き入れる装置であるが気流があると寒く感じる。冷房なら好都合だが、暖房だと体表面よりも低温の空気がぶつかれば冷却が促進されてしまう。床暖房の方が空気温度を低くできるため、2次エネルギーも少なくて済むことが分かった。こういった意味では対流暖房より床暖房などの放射暖房の方が優れているのかもしれないという。

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図2 暖房方式ごとの室内環境の温度分布の違い

 図3によると、放射熱伝達率は、床暖房とエアコンの両方の場合で、体の部位によらずほぼ一定となった。また対流熱伝達率は、体の部位によって、また床暖房とエアコンで違いが出た。これらの和である総合熱伝達率は、床暖房が8W/(m2・K)、エアコンが10W/(m2・K)、つまりエアコンの方が2割くらい熱を失いやすい環境となる。床暖房だと風がないので比較的温度が低くても熱が逃げない。だがエアコンは風が当たるため、体表面温度と室温との温度差を小さくする必要がある。投入エネルギーは2次エネルギーで言うと1 ~ 2割床暖房の方が少なかった。


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図3 暖房方式の違いによる人体の熱伝達特性の解析結果

 

体に優しい浴室環境を検討

 このようにシミュレーションツールで高精度な快適性や投入エネルギーの検討ができることが分かってきたため、倉渕氏らはさらに詳細な問題への取り組みを進めた。人体に熱伝達率が一番影響するのは裸の時だ。特に風呂は高齢者の事故の多い場所でもある。家庭で起こる事故の最大の原因が溺死だという。寒くなると毛細血管が収縮して抵抗が増え、心臓に負担が掛かり血圧が上がる。そのまま熱い風呂に入ると心臓麻痺を起こすリスクが高まる。そのため、裸になっている環境を温かく保ち、ぬるめの湯に入るのが体に優しい入浴方法だと考えられる。にもかかわらず、とくに日本の家屋の構成では、浴室を伝統的に断熱境界の外側に置くという。そこで、快適に過ごせる浴室の暖房方式をシミュレーションによって検討した。


 暖房方式としては、従来から使われている対流式の天井吹き出し型、輻射式のハロゲンヒーター、そして新たに倉渕氏が提案する、伏流式の脇腹の高さから吹き出すタイプを検討した(図4)。

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図4 各種暖房方式の省エネルギー性能と快適性の評価

 

 シミュレーションツールで計算したところ、浴室の洗い場にいる人に対しては、対流熱損失量よりも放射熱損失量の影響が支配的であることが分かった。これにより、放射環境を向上させる暖房方式が効果的だと考えられた。

 一般的には天井から温風を吹き出す対流式があるが、対流熱伝達が増えてしまう。また壁面上部に付けるハロゲンヒーターは上部のヒーターに面する箇所のみが温まり、局所的な不快感に繋がる。またどちらも足元の温度が特に低くなる。寒いと感じるのは放射による熱損失が大きいため、浴室内の壁の温度を上げるのがよいと考えられた。

 そこで、これらの欠点を補う浴室暖房として伏流式暖房を提案した。これは対流式の暖房の前に金属製の伏流板を設置したものだ。伏流板により、人体に風が直接当たるのを防ぐとともに、温まった金属板からの放射熱を受けることができる。これを浴室内で最も吸収係数の高い、人が立った時の脇腹高さの壁に配置した。

 熱損失量を一定にした場合の体表面温度分布などを解析した(図5)。その結果、投入2次エネルギーではカーボンヒーターおよび提案暖房が省エネで、部位別顕熱損失量のばらつきは、提案暖房が一番小さくなった。これにより提案暖房は、快適性と省エネ性を両立できることが分かった。

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図5 暖房方式の違いによる人体の熱伝達特性の解析結果

 

喫煙室周辺の空気流れをシミュレーション

 建築は機械などとは違い、運動する物体を伴う室内気流の研究はほとんど行われてこなかった。一方、屋内の空気の流れを考えた場合、人の動きやドアの開閉などが関係してくる場合もある。喫煙室やトイレなどは汚染物質が発生し、その遮断や制御が必要だ。だがこういったドアの開閉や人の動きによる空気流れは研究されていなかった。

 倉渕研究室 助教の李時桓氏(写真2)は喫煙室内外でのドア開閉を伴う空気の流れについての研究を試みている。まずSCRYU/Tetraが実験と一致するか確認したところ、瞬時の乱れ特性は再現できなかったものの、アンサンブル平均的な流れ特性は可視化映像と同様という結果が得られた。

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写真2 東京理科大学工学部 建築学科
助教 博士(工学)李時桓 氏

 続いて、どういった行動を取った時にどの様に空気が漏れるのかを解析によって調べた。するとドアの開閉度と人の移動が換気量に関係することを確かめた。

 またドアがスイング式かスライド式か、また測定の仕方によってもかなり変わる。そこで実際にどうなるかを検討した。その結果、スイングよりスライド式の方が漏れる量がはるかに少なく、人体の移動による量もそれほど高くならないと分かった。これらの結果を元に、ドアの形やエアカーテンなどでどうなるか、飲食店ではどうなるかといったことの検討を進めていくという。


多様な機能展開に期待

 倉渕研究室では、それぞれのツールごとに得意な機能があるため、複数のツールを使い分けているという。その中でもソフトウェアクレイドルは「国内ベンダーであることもあり、素早く回答が返ってきます。学生の質問にも親身にアドバイスをしてくれ助かっています」(倉渕氏)とのことだ。

 倉渕氏は卒論着手前の学部の授業で、操作性に優れた構造格子系のツールを使い、学生が自由に問題を設定して解析する課題を出すそうだ。このツールでCFD解析の楽しさを知ってもらうのが主な目的だ。「自分のバイト先のもんじゃ焼き屋や授業を受けている教室などの気流を皆楽しんで解析しています。空気の流れが見え、しかもそれが動いているというのはとても魅力を感じるようです」(倉渕氏)。この後研究室に配属されると研究テーマに応じて本格的にSCRYU/Tetraなどでの解析に取り組んでいくそうだ。

 倉渕氏は「ソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetraは、人体周りの熱移動やムービングメッシュの課題への対応が優れています。今後も他のソフトウェアでは対応が難しいことに取り組んでくれれば」と期待を寄せる。人が歩くモデル、入浴、また神楽坂キャンパスの敷地内で夏に設置されるドライミストなど、取り組みたいテーマは多くあるという。「最近の研究では、どんどん新しい事象への取り組みが進んでいるため、それらを扱えるような様々な機能が用意されていればありがたいですね」(倉渕氏)ということだ。

 倉渕氏は「解析ツールは場合によっては実験を超える正確さを持ち、多角的な検討も行えるという大きなメリットがあります」という。「喫煙室の非定常問題などは実測が難しくなります。ですが実験できる状況下で比較して、ある程度精度が確保されているとみなすことができれば、さまざまなアイデアを解析ツール上で比較できるようになっていくと思います」(倉渕氏)。倉渕研究室ではSCRYU/Tetraは研究に欠かせないツールとして着実に使われているようだ。今後も幅広いテーマで住環境の快適性の追及への貢献が期待できそうだ。

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東京理科大学 工学部建築学科

  • 設立:1881年
  • 学部設置:1962年
  • 学科所在地:東京都葛飾区
  • 学校種別:私立
  • URL: http://www.tus.ac.jp/

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2015年4月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


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