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パナソニック エコシステムズ株式会社 様

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パナソニック エコシステムズ株式会社  様インタビュー

良質な室内空気環境を追求するための解析イノベーション

パナソニック エコシステムズ株式会社は、長年、室内空気質(Indoor Air Quality : IAQ)の向上に取り組んできた。日常生活のなかで換気や調湿などの環境制御はもとより、気流や香りなどの感性をも満足させる豊かな生活空間の実現を追求し続けている。そのような空間を創造するための機器類は、高度なテクノロジーやノウハウが惜しみなく使われ、かつそれらを確実に実現するために精密な設計検討が行われている。今回、その設計検討におけるソフトウェアクレイドルの熱流体解析ソフトウェアを用いた解析イノベーションとその効果について聞いた。

 愛知県春日井市に本社を置くパナソニック エコシステムズ株式会社は1909年に創業した。現在、「空気」「水」「エネルギー」「土」の4つの大きな事業領域を持ち、特に空気の領域は創業当時からの事業で現在でも同社の主力事業領域となっている。この領域の主力製品は一般用換気扇やレンジフードなどの換気システムと、空気清浄機、天井扇などの空質家電を展開している。そのどちらの開発にもソフトウェアクレイドルによる熱流体解析ソフトウェア 「SCRYU/Tetra」が活用されており、「製品開発に必要不可欠なツール」と同社R&D本部 熱・流体開発部 送風技術開発課 主務 重森正宏氏は語る。

 
パナソニック エコシステムズ株式会社 R&D本部 熱・流体開発部 送風技術開発課 主務 重森正宏氏

 

多目的最適化で高効率と低騒音を実現した一般用換気扇

 キッチンやトイレに設置される一般用換気扇は他社製品に対する競争力強化の一環として、高効率および低騒音の実現を目指している。これは、家電製品や空調機器など周辺機器が静音化されてきたことから、静かな居住空間実現のためには、旧来からある一般的な換気扇においても、静音化が避けて通れない課題となっているためだ。

 今回、換気扇の静音化を図るための指標として、高効率で軸動力が低く、かつ風量は大きくという2つの目的を設定した。そして、これらの目的を達成するためのパラメータ(設計変数)は、経験的に影響度が大きいと思われるファンブレードの翼弦長(コード長)、前傾角(レーキ)、前進角(スキュー)の3つを選んだという。

 ところで、なぜ低騒音を実現するための取り組みでありながら、騒音値そのものを目的としていない理由を重森氏に聞いたところ、こんな答えが返ってきた。「ファン性能に関係するパラメータは数多くあります。加えて騒音発生のメカニズムは複雑で、単純にある決まったパラメータだけを見ればいいというものでは無いのです。そこで高効率、つまりロスが少ないファンは、きっと騒音も小さいだろう、という予想のもとに、軸動力低くという目的1つで低騒音化を検討することにしました。」

 設計変数3つと目的関数2つ、これらを「SCRYU/Tetra」と連動して使用できる最適化ソフトウェア「Optimus® for Cradle」を使用することで、すべてを満足する変数を探索したという。

 具体的には約900万要素の解析モデル(図1)を様々なパラメータで30ケース計算し、その結果から作成されたパレート解から特長的な3点を抽出し、それらについて試作品を製作して実験も行った。その結果、どのパラメータでも現行品よりも性能が高くなり、同風量で、騒音値は最大でマイナス2.5 dB、全圧効率は最大で2.5 pt改善する結果となった(表1:現行品との比較)。
「この結果から、高効率化つまり損失を少なくすれば、低騒音化につながるということが証明できました」と重森氏。



図1 ファン解析用メッシュ(要素数900万)


表1 最適解における性能(対現行品)

騒音の見える化でさらなる性能向上を達成

 形状最適化を行うことで高効率、低騒音のパラメータを得ることができたが、同社の取り組みはこれだけでは終わらない。性能が良かった1モデルを選び、さらに詳細な流体解析を行ったという。「最適化はもちろん有効ですが、流体現象のように非線形性が強い現象では、真の最適解が得られていないことが多いので、モデルを絞って騒音の発生にフォーカスした詳細な解析を行い、より高いレベルで目的を達成するようにしています」(重森氏)。

 騒音の詳細検討はラージエディシミュレーション(Large-Eddy Simulation : LES)と呼ばれる、より細かい渦や圧力変動を捉えることができる手法を用いた。解析の規模は、約4000万要素、計算も1ケースあたり144並列のコンピュータを使用し85時間と、最適化時に実施した解析の40倍にもなる。この計算を行うことで、騒音発生源となる小さな渦の発生源を特定し、どう低減させるのかを把握することに挑戦したという。 

 解析結果から重森氏が注目したポイントは2か所。 プロペラの翼前縁部と翼外周部の圧力が低くなっている部分(図2の黒枠)。この部分の圧力低下は渦の発生が原因と考えられ、この圧力低下が小さくなるように翼形状に改良することで、騒音の低減につなげるという。

図2 LES解析によるファン圧力分布

 図3は、ある瞬間の圧力分布を翼の真横から見た図で示している。 改良前(下)には翼面から剥離した流れや、細かい圧力変動があり、渦発生の様子も実際に目で見て確認することができる。一方、翼形状を改良した後(上)では、大きな圧力変動がなく、直感的にも渦の発生が少ないことが分かる。



図3 LES解析による翼端付近の流れ

 

 そして、改良した形状で実験したところ、最適化した形状よりも騒音値がさらに0.8dB低く、風量も増大したことで、従来形状より4.2 ptも向上した全圧効率を得ることができた(表2)。 


表2 LES解析結果を利用した改良形状の性能比較
 

実験と解析が相互に補完し合い、高精度かつ手戻りの無いプロセスを実現 

 ここまで精密な計算ができることから、今後は計算だけで製品設計ができるのか聞いてみた。すると、確かに実験の回数は減らせるかもしれないが、まったく無くすことは考えていないという。「実際に製品開発で計算結果を出すと、『その結果正しいの?』と必ず確認されます。 それは、途中で間違った方向に行っていないかという確認でもあります。 なので、設計プロセスの進捗とともに実験で計算結果が正しいかを確かめています。」と重森氏。さらに同氏によれば、実際と異なる結果を信じて製品を設計してしまった場合、最後の最後でそれらを全部修正し、設計プロセスを途中からやり直す、いわゆる手戻りが発生することになるという。 

 逆に、実験で結果を確かめられるものにおいて、CAE(Computer Aided Engineering)が果たす役割は何かと尋ねると、「まず、最適化のプロセスのように、パラメータを変えながら多くのケースを検討する場合、すべてのケースを実験で行うのは、コストや時間的な制約から困難です」と重森氏。つまりCAEで実験の回数を減らし、目的の結果を得るまでの時間短縮ができるのだという。加えて重森氏は、「騒音の詳細解析のように、シミュレーションは『なぜその結果になるのか?』という、原因把握をすることができます。実験では騒音値は測れても、何が原因で音が大きいのかは分かりません」。つまり、実験だけでは分からない原因究明というプロセスでコンピュータシミュレーションは不可欠なのだという。

 このように、実験とシミュレーションを得意な部分で活用することにより、同社では高精度な設計手法を確立し、短いプロセスで高性能な製品を世に送り出している。

流体-構造連成(Co-Simulation)が生んだ安全な天井扇

 
 東南アジアや中東では天井扇の使用が一般的で、同社では一般換気扇の他に天井扇も広く展開し、デザインや特性を各国のニーズに合わせた、様々なタイプの天井扇を展開している(図4)。


図4 各国で展開している天井扇

 

 天井扇は文字通り天井に設置されるもので、落下防止などの十分な安全対策が施されている。ただ重森氏によれば、天井扇にエアコンなどからの風が当たることによって、風圧(外力)が加わった状態になり、羽根の振動などが原因では破損や脱落する可能性もゼロではないという。もちろん使用説明書には注意書きがあるものの、実際にはエアコンの近くに設置されるケースも少なくないため、外部から風が当たった場合にどのような挙動を示すのか、シミュレーションで検証する必要があるという。

 この解析では、ファンの羽根が作動時にどのような力を受けて、かつ変形するかを計算する必要があり、同社では流体解析と構造解析の連成に取り組んでいる。連成解析にはソフトウェアクレイドルの最新熱流体解析ソフトウェア「scFLOW」とMSC Software の構造解析ソフトウェア「MSC Nastran」を利用しているが、以前は、それぞれがバラバラに動作していたため、データの受け渡しが非常に煩雑だった。それが、MSC Softwareが新たに用意した連成解析用コントローラ 「MSC Co-Sim Engine」によって、その接続や制御がとても楽になったという。

 実際の動作としては、「scFLOW」からは羽根が受ける表面の圧力値を「MSC Nastran」に、「MSC Nastran」からはその圧力による変形(変位)量を「scFLOW」へ渡すというステップを行い、実際にどのような変形や振動が時々刻々起こっているのかを確認している。計算結果を比較すると、特に何も無い場合(図5下)は一定の変形状態を保ちながらスムーズに回転するが、エアコンの風が当たっている場合(図5上)は羽根が複雑な振動をすることが確認できた。「シミュレーション結果をアニメーションで見るとその複雑さがはっきり分かります」と重森氏。


図5 エアコンによる天井扇の非定常変形
 

 このように、シミュレーション技術を活用し、実際に使用される状態を数多く検討することで、製品性能の向上のみならず、安全性についても検討を行うことが可能となった。

SCRYU/Tetra導入の決め手と今後の課題

 重森氏はソフトウェアクレイドルの熱流体解析ソフトウェア導入には関わっていなかったが、当時の資料が社内に保管されているという。それによると、競合となる2製品とシロッコファンの解析をベンチマークし、結果の精度のみならず、ソフトウェアの使いやすさやサポートの良さ、が高評価だったという。

 今後の取り組みについて、重森氏は、「現在は定性的な比較検討でシミュレーションを利用していますが、より計算精度を高めて、定量的な検討にも使っていきたいと考えています。そして、Co-Simulationは適用範囲を広げ、さらなる活用を目指していく予定です」と語る。

 今後も、同社の室内空気質(IAQ)改善への取り組みは、より発展的な研究開発、現象の追及が行われることは間違いない。そして、私たちの身近な環境で、その成果を享受できる日も近い。

 





パナソニック エコシステムズ株式会社

  • 設立:1956年5月(創業:1909年)
  • 所在地:愛知県春日井市
  • 事業内容:家電・住宅設備・環境浄化設備などの開発、製造、販売

  

※scFLOW、およびSCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2019年9月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

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