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東急建設株式会社 様

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東急建設株式会社様インタビュー

現場の声が活きる、BIMをプラットフォームとした環境解析の近未来像

東急建設株式会社は業務の効率化および生産性と提案力の向上、そして業界を取り巻く様々な問題を解決する1つの手段としてBIM(Building Information Modeling)の活用を強く推進している。今回、その一環として、BIMをプラットフォームとした環境解析システムを構築し、そこに採用された温熱気流解析ソフトウェア「STREAM」の導入背景や効果についてお話を伺った。

 

街全体を創造する東急建設

 2019年11月に創立60周年を迎える東急建設株式会社は、日本の準大手ゼネコンのひとつであり、多摩田園都市を始めとする東急沿線や渋谷の街づくりで培った技術力で、企画提案から新築、リニューアル、建て替えに至るまで、街のライフサイクルに末永く関わっていくことで、建物ひとつひとつだけではなく、生活者の視点で“まち”全体を考え、常に新たな価値の創造に努めている。もちろん、このような事業は海外含め日本全国で展開されている。

東急建設が目指すワークフロー改革

 建設業界は、働き方改革、労働人口の減少、外国人労働者の増加やダイバーシティなど、様々な社会情勢の変化を背景に大きな岐路に立っている。「建設業界は一品生産、かつ長い時間をかけて仕事を行います。設計から施工までワンストップで業務を進める我々ゼネコンは、その間、お客様、社員、パートナー企業、専門工事会社など多くの人々と関わり、より良い建物の完成に向け懸命に努力するわけですが、前述の社会情勢の変化が業務を圧迫し始めてきました。簡単に言えば時間とリソースが枯渇し、その少ない資源は多様化している状況です。こうした変化に対応していくため、我々は発展が著しいIT等を利用して、生産性向上、品質向上、更には提案力をも向上させることが急務となってきているのです」(林氏)。同社では、現在の仕事の方法を強化する「ワークフロー改革」について、上流・下流、世代を問わず議論を重ねている。その中で環境解析の強化についても着目している。


写真:東急建設株式会社 建築事業本部 技術統括部 BIM推進部長 林 征弥氏

課題をいち早く発見・解決できる環境解析に注目

 同社では、設計と施工をつなぐワークフローについて、その役割と重要性を次のように考えている。 「大事なのは着工後に手戻りするような課題を現場へ持ち越さないことです。設計プロセスの早い段階で施工に向けて様々な検討を終え、課題を解決しておくこと=フロントローディング思想で「モノ決め」をしていくことが最も重要なのです」(林氏)。

「課題解決という点で特にこれからの建物性能として重視したのは環境解析です。環境解析は建築の品質はもとより、CO2排出削減など重要な施策であり、お客様に対する環境提案力の向上に大変役立ちます。当社としても、環境課題をフロントローディングで解決して行く事で、より良い建物設計の提供、着工後の検証からの手戻り防止を実現することができます」(畑瀬氏)。さらに、BIMが普及し始めた15年ほど前と比べると、ソフトウェアも含めコンピュータハードウェアの性能やクラウドなどのインフラ環境が格段に向上、利用しやすくなっているという。そこでBIMをプラットフォームとした環境解析を行う『環境解析BIM連携ワーキング』が発足。それまで一部の専門家が担当し、かつ時間がかかっていた環境解析をBIMのなかで簡便にかつ迅速に実施するワークフローを構築する取り組み(図1)がスタートした。



図1 環境解析フロントローディング図

環境解析を行う上でCFDに求めた要件

 環境解析のうち、建物周辺の「風環境」、室内の「温熱」など、CFD(Computational Fluid Dynamics : 数値流体力学)ソフトが使われる場面は多い。同社は約30年前に技術研究所でCFDを導入し、実物件での検討や研究開発で活用していたが、その後本社エンジニアリング部門でも運用するようになっていった。しかしながら、BIM活用の一環としてCFDを利用するためには、従来のように専門の教育を受けた人が各々で作業するというスタイルでは活用範囲が狭くなってしまう。そこで、今回の取り組みのなかで、同社がCFDに何を求め、どう実現しようとしているのかを聞いた。「今回の取り組みで目指したのは、BIMソフトウェアのなかでシームレスに利用できること。その理由は、情報共有の核となるBIMの利用を煩雑にしたくなかったからです。今回の風環境解析は、これまでのような実験室で行うのではなく、設計部門や施工部門がBIMを利用するなかで行うものです。つまり、CFDを利用するのは設計や施工の担当者ですから、当社が採用しているBIMの基幹ソフトウェアのなかで完結できるのがベスト。新たにCFDソフトを起動させて解析を行うというプロセスは避けたかったのです」(栗田氏)。

 こうした要望を受け、手を挙げたのがソフトウェアクレイドルだった。元々ユーザーのリクエストに応じてソフトウェア開発を行ってきた会社であるのと同時に、すでに栗田氏のアイデアを実現できる仕組みを構築しており、同社のニーズに応えられるという確信があった。同社としても、ソフトウェアクレイドルはもっとも長く深い付き合いがあるCFDベンダーだけに異存はない。早速、2018年の冬からBIMソフトウェアとソフトウェアクレイドルのCFDソフトSTREAMをつなげる作業が始まった。

 

BIM活用でより広く環境解析が認知される

 STREAMのBIMへの組み込みでは、解析対象のモデルや解析条件などをBIMからコントロールでき、かつ結果の表示についても様々な表示が可能となることを目指した。取り組みの第一弾は同社技術研究所(図2)を対象とし、既にBIMモデルとして詳細に作成されていた技術研究所の建物に周辺の建物を追加したBIMモデルを作成した。風環境解析において解析モデルが詳細になりすぎると計算負荷が高くなるデメリットもあることから、BIMソフト上でSTREAM用に簡略化したモデルを作成する機能を利用して解析を実行可能とした(図3)。実運用に際してはまだ検討が必要だが、BIM上での結果表示など機能の準備が進んでいる(図4)。これらの機能が完成すれば専門家に依頼する時間が短縮されるだけでなく、BIM上に結果を保存することで専門家とも結果を共有できるようになり、判断の迅速化が図れるようになる。



図2 東急建設(株)技術研究所写真とBIMモデル(詳細モデルと簡易モデル)



図3 BIMに組み込まれたプログラムとBIM上での風向の設定画面





図4 BIM上に表示された建物表面の風圧値

 

 そして、その完成形は、すでに社内運用が始まっている音解析の応用から、想像することができる(図5)。屋外騒音解析分野の中、設備機器騒音解析の事例では、BIM上のラフモデルに騒音源となる機器を配置し、敷地境界にあたる部分で騒音値をクリアできるかどうかを視覚的に判断できるようになっている。機器の騒音値や規制値などはデータベース化されていて、ユーザーが必要に応じて選択・変更できる。機器の移動やパラメータ変更すると、瞬時に結果を得ることができる仕組みだ。


図5 騒音解析の結果表示(コンターマップ表示と数値表示)


 さらに、計算が軽くなるように注力したというこの解析では、1分で約20以上のケーススタディが可能となり(図6)、設計担当者からはルーチンワークの省力化や、課題の早期発見に対して、好評価を得ている。


図6 1分で行う騒音ケーススタディ

「ここまで簡便になると設計部門でのシミュレーションだけでなく、施工部門、その他の支援部門で担当者自身が環境解析できます。この騒音解析を例にとると、機器の配置を変更したついでに、すぐ騒音値も確認できます。実はこの『ついでにできる』が重要なキーワードで、そうできないと使ってもらえません」(畑瀬氏)。CFDについては、計算が複雑なため一瞬で結果を得るのは難しいだろうが、少なくとも、ついでに計算するというモチベーションは高まるだろう。そしてこのように現場レベルで環境解析を行うようになれば、環境をチェックできる物件は格段に増え、これまでは見逃していた様々な問題を事前に把握、解決することができる。

 もちろん、BIMソフトウェアそのものを使えないと意味がない。そのためBIM推進部ではシステムの環境構築と同時に、その普及にも力を入れている。設計部門や施工部門を中心に、BIM講習会が開催されている。「使い方だけを教えているわけではありません。BIMソフトウェアの構造、そして今後のあるべき姿なども伝えるようにしています。ですから、各職場での活用を自ら考えながら利用でき、スピーディーな解決と提案が行える事で、冒頭で申し上げた、建設業のワンストップのワークフローの大きな進化に期待しています」(林氏)。

CFD活用の課題とソフトウェアクレイドルへの期待

 他の環境解析と比較して複雑な計算が必要なCFDは、いかに計算時間を短くできるかが課題の1つだ。「その場で何かを判断するのであれば、1~2分で結果が欲しい」と林氏。その一方で、結果の精度を向上させ定量的な検討を行えるようにしたいという。精度と時間、これらは相反する関係にあり、一筋縄ではいかないが、昨今のITやCGなどの画像環境の飛躍的な発展を考えれば、決して遠い未来の話ではない。

 このように、引き続きCFD活用についての挑戦は続くが、同社がソフトウェアクレイドルに期待することは、国内開発と強力なサポート体制の維持だという。「サポートのレスポンスは早く、安定感があります。まさに国産のCFDベンダーという気概を感じます。」(栗田氏)。「打ち合わせの会話だけでも様々な情報をシェアでき、たくさんの気づきがありました。会社の垣根を超えた忌憚ない意見交換は、今後も続けていきたいと思っています。」(畑瀬氏)。

東急建設が考えるデジタルトランスフォーメーション(DX)

「これからの時代は今までの業務フローにBIM等のデジタルを組み込むのではなく、デジタルを理解し、デジタルの中に業務を組み込んで行く必要があると感じています。デジタルトランスフォーメーションとは、この考えで業務の進め方、成り立ちをマインドセットしDX的組織で運用していく事が重要です」(林氏)。

 同社がBIMをツールとして自在に使いこなす日はそう遠くはないはず。その暁には、ゼネコンとしてさらなる躍進を遂げているだろう。

写真左:東急建設株式会社 建築事業本部 技術統括部 BIM推進部長 林 征弥氏
写真中:東急建設株式会社 技術研究所 温熱・風グループ 栗田 剛氏
写真右:東急建設株式会社 建築事業本部 技術統括部 BIM推進部 プロダクトデザイングループ 畑瀬 紋子氏




東急建設株式会社

  • 創立:1959年11月11日
  • 設立:2003年4月10日
  • 代表取締役社長:寺田 光宏
  • 事業内容:総合建設業
  • 本社所在地:東京都渋谷区
  • URL:https://www.tokyu-cnst.co.jp/ 

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2019年10月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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