新潟県工業技術総合研究所 CAE研究室 様
写真左から専門研究員 片山 聡氏/主任研究員 本田 崇氏/主任研究員 村木 智彦氏/専門研究員 須貝 裕之氏
県内企業の技術開発をSCRYU/Tetraで支援
新潟県工業技術総合研究所のCAE研究室は、構造解析を主体としたコンピュータシミュレーションにより県内企業の技術支援や研究開発を行っている。平成22年には熱流体シミュレーションを導入し、以来、数々の熱流体解析にも携わってきた。今回はSCRYU/Tetraの導入経緯と効果に加え、実際の活用事例について紹介いただいた。
新潟県内の中小企業を技術の面から支援
新潟県工業技術総合研究所は、公設試験研究機関と呼ばれ、各都道府県に設置されている地方自治体の機関であり、県内中小企業の技術に関する様々な支援を行っている。「中小企業は自社内に開発や品質保証を行う部門や設備が整ってない場合が多く、それを支援するのが我々の目的です」と同研究所の専門研究員である須貝氏(写真上・右)は語る。
業務の柱の一つは技術支援、企業の技術的な課題に対する技術相談や試験・分析を行い、同所には年間約1万件を越える相談が寄せられる。また、中小企業では導入が難しい高額・高度な機器を利用した試験・分析が安価に利用できる。なお、高度な測定機器の運用には専門知識が必要になるが、そうした人材がいない場合には試験品を預かって同研究所が試験を行うことも可能だ。同研究所は新潟県内に支所を含めて7カ所拠点があり、試験の依頼は年間約3千件、機器の貸付は年間約3万時間にもおよぶ。
業務のもう一つの柱が研究開発であり、企業との共同開発を積極的に行っている。主要事業の一つである共同研究は、企業と共同で製品や技術開発を行うもので、研究費用は企業と県が共同負担する。それ以外にも企業と共同で国などの競争的資金を獲得するなどして、県内企業の売り上げや雇用の増加に貢献するための研究を行っている。
「このような部品の加工を行ってくれる企業はないか」、「特殊な熱処理を行ってくれる企業はないか」など、技術情報の提供も同研究所の業務だ。同研究所に蓄積されている県内1万社近い企業のデータベースと職員の知識・経験をもとに、企業同士をつなげる役割を果たす。さらに、新しい技術や製品開発に積極的に取り組み、新技術の創造や新分野進出を狙う企業・団体・個人の起業を目的とした起業化センターを県内3カ所に設置、隣接する同研究所と連携した開発を行うことができる。
同研究所内には数々の試験装置や測定・分析機器が用意されている
CAE研究室に熱流体解析の依頼
同研究所でSCRYU/Tetraの導入に大きく関わったのはCAE(Computer Aided Engineering)研究室と呼ばれる専門組織だ。CAEにおいて高精度の結果を得るためには、多くの経験とノウハウ、実験結果の検証が必要ということで、CAEを得意とする職員数名がボトムアップで立ち上げた組織だ。「それぞれがバラバラで業務に携わっていると、井の中の蛙になってしまう傾向があります。しかし、CAEに携わる職員が交流する場を用意すれば、相互に向上することができますし、外部に対しても存在感を示すことができます。」(須貝氏)。
プレス(塑性)加工のシミュレーションにおいて数々の実績を持つCAE研究室
CAE研究室が得意とするのはプレスを中心とした塑性加工シミュレーションだ。燕三条地区を中心とした新潟県下の企業が得意としている金属加工業を支援することが多いためであり、シミュレーションにより様々なプレス加工法の開発支援を行っている。2018年には第7回ものづくり日本大賞で経済産業大臣賞を県下企業と共同で受賞した。
真空装置用ステンレス製大型容器の多様な形状に対応する新加工技術の開発
((公財)新潟市産業振興財団/タンレイ工業株式会社)
そうした業務に取り組み日々の中で、2010年に企業から排熱利用スターリング発電機の開発に関するシミュレーションの相談が舞い込む。「スターリングエンジンは温度差から動力を生み出す装置ですが、相談にいらした企業様は、これを利用して工場排熱のような従来使われずに捨てられていた低温廃熱を利用した発電機の開発を目指していました。」(須貝氏)。
企業から依頼されたのは、工場排熱をエンジンまで伝えるサーモサイフォン(ヒートパイプの一種、気化・凝縮による熱移送を行う)とスターリング発電機内部の熱交換器の性能解析であった。ただ当時、CAE研究室には熱流体解析ソフトウェアはなかったため、早速ソフトウェアの選定に取り掛かった。熱流体解析ソフトウェア(CFD)の選定要件
開発に必要な解析項目を検討し、ソフトウェアに求める以下の要件を決定した。その後、独自にベンチマークを作成し、その結果を参考として選定を行った。
<要件>
1)サーモサイフォン内の気液2相流解析
解析概要:液体の蒸発→蒸発気体の移動→蒸発気体の凝縮→凝縮した液体の流動
期待する解析結果:熱抵抗、蒸発気体・凝縮した液体の流れの様相、各部の圧力
2)熱交換器の性能解析
解析概要:高温流体と低温流体の流路が交差する部分の解析
期待する解析結果:熱伝達効率の算出、流れの様相(乱れ具合)
選定においては、いくつかのソフトウェアベンダーに相談やベンチマークを依頼しソフトウェアの仕様を固め、最終的にはソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetraの採用が決まった。採用決定から正式導入の間は、SCRYU/Tetraの試用版の提供を受けた。分かりやすいマニュアルと使い勝手の良さで基本的な操作方法を習得することができ、限られた開発期間を有効に利用することができた。正式導入直後にはクレイドルが実施しているSCRYU/Tetraの熱流体解析セミナーに参加。これにより、SCRYU/Tetraのベーシックな部分の知識は十分に得ることができた。
研究開発センター 専門研究員 須貝 裕之氏
研究開発センター 主任研究員 村木 智彦氏
SCRYU/Tetraによる熱流体解析の実例
その後、現在に至るまで、CAE研究室では数多くの熱流体解析の依頼を受けてきた。
<ロックビットのノズル部の流体解析/株式会社ティクスTSK>
ロックビットは、石油・天然ガス等の地下資源や地熱井等を開発する際の掘削作業において、地層や岩石を破壊し土中を掘り進む機械であり、高温・高圧の過酷な環境における耐久性が要求される。ビットは、掘削部の冷却と掘削した土砂の排出をかねて水を噴射させるノズルを備えているが、流れる水には砂粒などが混ざっているため、ノズルの形状によっては長期間の砂粒の衝突により異常摩耗が発生することがある。そこでCFDにより、内部の流れや砂粒の軌跡を調べて対策を検討した。
解析においては砂粒を粒子に見立て、その軌跡とノズル壁面での衝突を計算する解析モデルを構築。その解析モデルで計算した結果、粒子の衝突が多発した場所と実機で異常摩耗が強く発生している場所に相関関係が見られた。経験的に異常摩耗が発生しづらいノズル形状をCFDで計算してみることにより、具体的な設計指針を得ることができた。
<ウェットブラスト用排気サイクロン分離性能向上/マコー株式会社>
ウェットブラスト装置は、水と研磨材の混合液を圧縮空気により被加工物に噴射し加工するもので、硬質皮膜の表面加工やバリ取り、精密な表面の加工や創生を行うことができる。処理室内の空気を排出する際には、排気中に混入した水滴や研磨剤をサイクロンセパレーターにより分離している。この研究では、サイクロンセパレーターのさらなる小型化と分離性能の向上の可能性をCFDで検討した。
具体的には、CFD上でサイクロンセパレーターを模擬できる解析モデルの構築と、構築したモデルをもとにして各部の形状や排気風量、吸気に混入した粒子の粒子径を変化させたときの分離能力等を調べ、より高性能な装置開発にチャレンジした。結果として、サイクロン円筒部と吸入口の形状変更により、既存機を上回る分離能力を得ることができた。
<太陽光発電システムにおよぼす風荷重と低減方法の研究/株式会社サカタ製作所>
折板屋根(金属屋根の一種で、工場、倉庫、体育館など大規模構造物の屋根として使用されることが多い)を持つ建屋に設置された太陽光パネルに作用する風荷重の調査と低減を目的に、CFDと縮小模型による風洞実験の組み合わせで詳細な検討を行った。
CFDにより、折板屋根上に取り付けられた太陽光パネルに作用する風荷重の大きさと発生原因を明らかにすることができた。また新潟工科大学の協力により実施した風洞実験の測定結果をCFDの計算結果と比較したところ、ほぼ同じ値が得られた。これにより、CFDの精度を確認することができた。
使いやすさと高精度なシミュレーションに満足
SCRYU/Tetra以外にも様々なソフトウェアにより20年近く解析を行ってきた須貝氏の率直な評価については以下の通りだ。
<素早いレスポンス>
解析ソフトウェアを使用する際にこれまで様々なベンダーのサポートを受けてきたが、ソフトウェアクレイドルの対応は素晴らしいという。「例えば、サポートにメールで問い合わせれば、その日中には何らかの回答がいただけます。またソフトウェアを自社開発しているため、機能拡張に迅速・柔軟に対応していただけるので、ソフトウェアの標準機能では対応できない解析を行うことが多い我々にとって大きなメリットです」(須貝氏)。
<分かりやすいインターフェース>
「チュートリアルが分かりやすく、その通りにやってみたら使いこなせた」と語るのは同研究所、主任研究員の村木氏。GUIも優れたポイントだという。「熱流体解析について多少の知識があれば、すぐに使いこなせる」と語る村木氏は、ソフトウェアクレイドル社ウェブサイトのコラムを読むことで、新たな使い方の発見もあるという。
<高精度な解析結果>
あるとき、企業から「融雪配管の流量分布の計算」を依頼された。実はこの解析対象は実際の装置で流量を測定済みであった。企業側ではCFDによる開発に期待する一方、「シミュレーションで計算したらどんな結果が得られるか」という検証の側面もあった。そこで解析を行ったところ、実際の装置をほぼ同じ結果が得られた。「企業ではCFDにより高精度の計算結果が得られると分かり、実機の試作は最終確認以外不要と実感したとのこと。CAEで高精度な計算結果が出せる環境があれば、費用や時間に制約の多い実際の開発現場の方ほど、その有効性を実感できるのではないでしょうか。弊所のお客様にリピーターが多いのもそのような理由からだと思います。」(須貝氏)。
CAE研究室でのSCRYU/Tetraの運用シーン
scFLOWへの移行を含む今後の展開
CAE研究室では、SCRYU/TetraからscFLOWへの切り替えも視野に入れている。
「scFLOWはSCRYU/Tetraよりも少ない手数で解析を速く終わらせることができ、細かい設定をしなくても容易に収束すると伺っています。現在行っている解析の途中で変えるわけにはいきません。従って、精度検証を行いながら徐々に移行を検討したいと考えています」(須貝氏)。
公設試験研究機関は各都道府県に設置されているが、すべての機関にCAE研究室のような組織があるわけではない。一方、モノづくりの世界においては開発のさらなる迅速・高度・効率化が要求され、これを実現するためにCAEはますます重要になってゆくと考えられる。従って、企業を支援する公設試験研究機関への導入も増加するであろう。しかし、導入に関しては公的な組織であるため競争入札となることが多く、数値で表しにくい技術サポートの優劣などを選定の要件とすることは難しい。「サポートの対応がすばらしいのは十分理解しておりますので、価格競争力の向上にも期待しております。また、現在はCAEに携わる人材育成に力を入れていきながら、熱流体解析の利用範囲を拡大できないか模索しています。幸いにも、当研究所の化学系職員で熱流体解析に興味がある者がおりますので、育成できればと考えています」(須貝氏)。
新潟県工業技術総合研究所
- 設立:1914年
- 所在地:新潟県新潟市ほか県内7ヶ所
- 活動内容: 新潟県の地域産業振興(機械、電気・電子・ソフトウェア、化学、繊維など)、技術支援(技術相談、依頼試験、機器貸付、小規模な受託研究)、研究開発(共同研究、受託研究) 起業化支援(企業化センター)、情報提供(技術情報提供、各種報告書)
※scFLOW、およびSCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2019年6月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。
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