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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第16回:「風環境デザイン」

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

16.1 風環境デザインとは

 (ほどよい風の空間や時間を増やす)

 風環境の評価では、物理的影響でも感覚的影響でも強すぎる風はダメ、感覚的影響では弱すぎる風もダメ、その間のほどよい風が良いとなるわけですが、自然風は強弱を繰り返しながら常に変動していますし、我々の生活空間は地形や建物等の影響により風が強く吹き易い箇所と弱く吹き易い箇所が複雑に混在していますので、あらゆる場所において常にほどよい風を保つのは現実的ではありません。ただし、工夫次第でほどよい風の空間や時間を増やすことは可能です。これは結果的に風害を減らすことにもつながります。

 これまでのコラムでも述べてきたことと重複する部分も多いですが・・・

(例えば、屋内にそよ風を取り込む)

 屋内に居て、暑いなと感じた時、窓を開けて心地良いそよ風が入ってくる・・・なんて状況が理想ですが、窓を全開にしてもほとんど風が入ってこない場合もあれば、少し開けただけでも風が強く入りすぎて危険な場合もあります。ただし、工夫次第でそよ風が入ってくる場合を増やすことは可能です。

(例えば、防風対策として落葉樹を積極利用)

 マンション敷地内の南側に防風対策のための樹木が植えられているのだけれど、寒い季節は日陰を作っていて余計に寒くなる。今日なんてほとんど風も吹いていないのに日陰になって寒いだけ・・・なんて状況も多いと思います。ただし、工夫次第で防風効果を保ちつつ日陰を減らすことは可能です。

(例えば、風力発電機設置箇所の最適化)

 マンション敷地内に風力発電機を設置しましたが、どうも思ったほど発電しない時間帯が多い。逆に風が強すぎて頻繁に安全装置によるブレーキがかかる・・・なんて状況もあると思います。ただし、工夫次第で発電効率を最大限まで高めることは可能です。

(例えば、ビル風の表示とリアルタイム予測)

 この交差点は普段はそうでもないけど、時々突風が吹いて危険だ・・・なんて状況も多いと思います。ただし、工夫次第で突風との遭遇を回避することは可能です。歩行者の安全確保以外にも自動車や電車や飛行機等の運行管理にも応用できます。

 上述の工夫のひとつひとつを必要に応じて実践していくことこそが、風環境デザインそのものと考えています。それぞれの工夫は既往の技術や考え方であったり、それらの組み合わせや応用であったりしますが、これまでは、ほとんど実践されていない、もしくは全く実践されていないのが現実のようです。

 風環境デザインの目的は普段の風によって生じる風害を無くすこと、ほどよい風の空間・時間の創造や確保や拡大、風の力の積極的利用等です。これらは結果的に風環境のバリアフリー化につながり、快適性の向上とエネルギー問題解決にも寄与します。

 自然風は時々刻々と変化しますが、街も月々年々と形を変えて生きますので、風環境デザインは建築物等の計画(更地)時⇒施工時⇒運用時⇒リニューアル時⇒再運用時⇒建替計画時⇒解体時のいずれの場面でも有効です。これにかかるコストと実施しなかった場合のリスクを見極めることが重要です。

 立地条件によっても左右されますが、基本的には規模が大きい物件ほどコストに対してリスクが大きくなる傾向にあると考えられます。ただし、リスクをゼロにすることは出来ませんし、リスクを減らすために建物の形状を変えるなど、何が何でもハード的に対応するのは合理的ではありません。様々な風害に対応した「ビル風害保険」や「非適風保険」のような仕組みをつくり、ソフト的に対応できる選択肢を与えるのが良いと思います。

 図1は従来の風環境保全対策と将来の風環境デザインの比較イメージを示しています。


風環境問題への対応:従来と将来に比較イメージ
図1 風環境問題への対応:従来と将来に比較イメージ


16.2 風環境デザインに必要な評価方法

 風環境デザインを実践するためには、強風だけではなく、弱風の影響も考慮することが重要です。第14回のコラム では「村上の方法(強風)」による風環境評価に「村上の方法(弱風)」による風環境評価を加えてみました。風環境のランクを0~4で表現することで、住環境として、ランク1~2は風環境として許容できる。ランク3はあまり好ましくない。ランク4は明確に好ましくなく許容できない。といった従来の風環境評価に加えて、ランク0は風が弱すぎて暑い季節の不快度が高く、あまり好ましくない、といったように弱風による影響も考慮できます。

 なお、屋内に屋外の風環境評価方法をそのまま持ち込むのは適切とは思いませんが、風の強さとその頻度の関係性から良し悪しを判定する基本的な考え方は、暑い季節にそよ風を屋内に取り込むための自然換気・通風設計にも応用できそうです。

 その上でさらに肌理の細かい評価方法への進化が必要と考えます。人々の活動時間を考慮するためにも、日単位の風の強さや気温の高さで判断するのではなく、10分単位の風の強さや気温の高さで判断したり、大きな幅のあるランクを例えば0.1単位で表現したりするような詳細化が必要なのではないでしょうか?

 そこまで詳細化すると手間が掛かり過ぎるのでは?意味がないのでは?という反論も聞こえてきそうですが、村上の方法が提案された30年以上前の時代とは異なり、その当時とは比べ物にならないくらい高性能なコンピューターを誰もが使うことができ、容易に高度なプログラムを作ることができる環境が整い、気象庁のデータベースはインターネット経由でも簡単に入手できるわけですから、手間は大したことではないでしょう。また、例えばある場所で日最大瞬間風速10m/s超の日数が予測段階では年間で38日だったのが、風速計を使った実測調査の結果は80日となり、風環境の予測は大当たり(ランク2)であったという説明に誰もが納得できますでしょうか?

 現状の大雑把な風環境評価方法に基づく結果を、ひとりひとりの現実と結びつけるのはかなり無理があります。様々な分野におけるテクノロジーは大きく進歩しているのに、人々の生活に密接に関わる風環境が長年にわたり古い簡便法だけで評価されてきたのが不思議と思わなければいけないのではないでしょうか?

 21世紀に入ってからだいぶ時が経っています。やろうと思えばどこでもリアルタイムの風環境予測というものも簡単に出来てしまいます。今この瞬間、秋葉原駅前のガンダムカフェの入口付近の風の強さを予測することも可能ですし、天気予報と組み合わせると明日のお昼頃のガンダムカフェの隣のAKBカフェの入り口付近の風の強さを予測することも可能なのです。

16.3 まとめ

 今回は弊社の考える「風環境デザイン」についてデッサンしてみました。完成品は最終回にお披露目したいと思います。

 その前に、次回は風環境デザインを実現するために重要な役割を果たす「IoT技術を駆使したリアルタイム風環境予測」についてご紹介します。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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