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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第15回:「ビル風10」:問題点の整理と将来の展望

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

15.1 問題点の整理

 ビル風によって生じる問題は「強風によるもの」と「弱風によるもの」があります。これまでのところ、一般的な実務では「強風によるもの」のみが風環境の問題として取り上げられ、ほとんどの場合、比較的大規模な新規建築物等の計画段階の際にのみ、予測評価が行われているのが現実です。このため、風環境は兎にも角にも「風が弱いことが良い」となってしまっていることが、まずは問題です。また、比較的大規模な建築物が解体されて無くなった際や比較的小規模な建築物等が建設された際にも、風環境に大きな変化が生じる場合がありますが、いずれの際にも予測評価が行われることは、ほぼありません。これも問題です。

 国内では、その風環境の予測評価は、ほとんどの場合「村上の方法」もしくは「風工の方法」が用いられています。いずれも本来は簡便法であるため、その評価プロセスの曖昧さに起因する誤差発生の問題はありますが、もっと根本的なところにも実態との差異を生じる問題があると考えます。

 いずれの方法も風の強さとその発生確率の大きさに基づいていますが、評価値は365日24時間すべての観測データに基づき、年単位の平均値で求められます。前者は日最大瞬間風速が10,15,20m/sを超える年平均の確率値を、後者は年平均風速値相当(累積頻度55%風速)と日最大平均風速の年平均値相当(累積頻度95%風速)を求め、それぞれ風環境の良し悪し(前者は評価ランク、後者は領域)を評価します。365日24時間すべての観測データに基づき・・・実はこれが大問題であると考えます。

 何が大問題なのか?例えば、「村上の方法」により、ある場所Aとある場所Bの風環境評価を実施したとします。解析予測の結果、日最大瞬間風速10m/sの超過頻度が場所Aでは50日/年でランク2と、場所Bでは100日/年でランク3と、それぞれ評価されました。通常は場所Aと場所Bの風環境を比較した場合、場所Aの方が良いと判断されます。ところが、もし場所Aは昼間に強風が多く、夜間に強風が少なく、場所Bは昼間に強風が少なく、夜間に強風が多いとします。この場合、場所Bの方が風環境は良いと感じる人が多い可能性があります。夜の方が賑やかな歓楽街は別ですが、普通は、昼間に突風が吹けば影響を受ける歩行者は多いですが、真夜中に突風が吹いても影響を受ける歩行者は少ないですよね。また、小さなお子さんや年配の方に対しては風環境による影響を特に配慮する必要がありますが、そういた観点からも昼間と夜間では昼間を重要視するべきと考えられます。しかし、現在の評価方法には人間の活動時間帯は考慮されていません。

 また、風の強さや向きは時々刻々と変化しますので、たとえ10m/s以上の突風が吹く日が年間で128日以上となるランク4の場所を頻繁に通過するような歩行者でも、運が良ければ10m/s以上の突風に1度も遭遇することが無いかもしれませんし、10m/s以上の突風が吹く日が年間で37日未満となるランク1の場所に1回だけ通過した歩行者が、運悪く10m/s以上の突風に遭遇するかもしれません。当然、これは極端な例ではありますが、年がら年中四六時中にその場所を通過する歩行者でもない限り、評価値通りに突風に遭遇することはありませんので、任意場所の風環境の評価値と個人の感覚との一致はなかなか難しいかもしれません。ランク3や4の場所では当然注意が必要ですが、たとえランク1の場所でも突風が吹くことがあることを忘れてはいけません。

 冒頭の弱風による影響ともリンクしてきますが、以上の話に気温の影響も考慮しようとすると、さらに複雑な問題となってきます。が、それが実際ですので避けては通れないでしょう。もし場所A(ランク2)は寒い季節に強風日が多く、暑い季節に強風日が少なく、場所B(ランク3)は寒い季節に強風日が少なく、暑い季節に強風日が多いとします。この場合も、場所Bの方が風環境は良いと感じる人が多い可能性があり、評価ランクによる良し悪しと実際の感覚による良し悪しとが一致しないかもしれません。

 図1は第1回のコラムでも登場した強風弱風相関図です。


強風弱風相関図
図1 強風弱風相関図


 ある場所の「風が強い(弱い)」というのは、通常は365日24時間すべての観測データに基づき、年単位の突風発生確率や日最大風速の平均値が高い(低い)こと等を意味します。前回のコラムで示した「強風の影響に加えて弱風による影響を考慮した評価方法」のランク0~4を図1に仮に当て嵌めると、強すぎる風の【赤】エリア=ランク4、強い風の【黄】エリア=ランク3、ほどよい風の【緑】エリア=ランク2、弱い風の【青】エリア=ランク1、弱すぎる風の【紫】エリア=ランク0、といった具合になります。あくまで365日24時間すべての観測データに基づき、年単位で求められた平均値で示されています。

 ところが前述のとおり、風の強さは季節・昼夜・時間ごとに変化するわけですから、大まかなイメージとしては、季節単位・昼夜単位・時間単位のそれぞれで、【赤】エリアが左下方向に伸びたり右上方向に縮んだり、【黄】【緑】【青】エリアは左下方向に移動したり右上方向に移動したり、【紫】エリアが左下方向に縮んだり右上方向に伸びたりします。また、【紫】エリアは気温の変化でも伸び縮みすることになります。(正確には、地上付近の任意箇所の風速は上空の風向によっても大きく変化するため、1年より短い期間単位の場合、必ずしも左下ほど弱風で右上ほど強風とはならず、まだら模様のような複雑な変化をします。)

15.2 課題

 「村上の方法」および「風工の方法」は、本来は簡便法ながら、(他に上位の評価方法が無い為?もしくは風環境への注目度が低いため?)長年に渡って標準的な評価方法として扱われてきました。ただし、これら簡便法で風環境の実態を正確に予測評価することには無理がありますし、これまでにも適用範囲以上の使われ方をしていたと思われます。ましてや、これからますます高度な要求が見込まれる風環境に対して十分な質の解を導き出せないでしょう。

 何十年にも渡ってそこに建ち続ける建築物等とは違って、時間帯によって活動場所が異なる「人」を評価対象とするのであれば、365日24時間すべての観測データに基づき、年単位で求められた平均値で評価するのではなく、用途などにも応じて季節単位・昼夜単位・時間単位など、および気温も考慮するような、もっと肌理の細かい解析予測評価が必要でしょう。

15.3 将来の展望

 これまでの風環境評価は強風の影響による風害のみを対象としており、簡便かつ年単位の大雑把な評価でしたので、その対策と言えばひたすら樹木(しかも常緑樹ばかり)を植えまくって、出来るだけ風を弱くするような防風対策がほとんどでした。

 これからはひたすら強風に耐えるだけ・とにかく弱くするだけの「耐風設計」「防風対策」から、積極的に風を導いたり・往なしたり・ほどよくしたり、時には取り込んだりするような「風環境をデザインする」という発想へ転換が必要となるのではないでしょうか。

 そして風環境の予測評価の時間単位も短くするべきと考えます。既往の技術だけでも10分単位までは簡単に予測評価を行えます。またIOTの技術を駆使すればリアルタイムで現在の風環境を評価することも可能ですし、天気予報と組み合わせれば明日の風環境予報も簡単に発信できます。

15.4 おわりに

 ビル風コラムはいよいよ残り3回となりました。次回は弊社の考える「風環境デザイン」について描きたいと思います。次々回は「IOT技術を駆使したリアルタイム風環境予測」についてのご紹介予定です。最終回はまだ「ひ・み・つ」です。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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