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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第12回:「ビル風7」:防風対策の解析例

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

12.1 植栽による防風対策の検討

 CFD解析で植栽を再現する場合、まずは幹と枝の形状を固体要素として入力し、次に葉っぱを一枚一枚パネル要素として入力する・・・ことは現実的には極めて難しいため、通常は任意のメッシュ要素に対して関数化された植栽モデルを適用します。任意のメッシュ要素に対して抵抗係数と葉面積密度のパラメータを設定することで植栽を擬似的数値モデルとして形成します。

 STREAMには標準で複数の植栽モデルが搭載されているため、ユーザーはその中から適切なモデルを選んで使用することが出来ます。抵抗係数と葉面積密度のパラメータは樹種によって異なるので、実測調査や風洞実験により把握する必要があります。既往の研究論文などにも掲載されていますので、参考にしてみてください。

 図1は平面寸法30m×30mで高さ90mの角柱状高層建物の正面から風が吹いた場合の解析結果です。歩行者レベル(地上高さ1.5m)における風速比コンターを示しています。ここでの風速比は地上高さ1.5mの流入風を基準としています。

 風速比1.3以上の強風領域が建物風上側隅角部付近で明確に確認できます。風速比1.2以上の強風領域は建物の左右に建物幅と同じくらいの範囲に、建物風上側隅角部付近から風下側へ建物奥行の数倍程度の範囲に広がっています。風速比1.1以上の強風領域はさらに大きく広がっています。 


植栽無しの場合
図1 植栽無しの場合


 図2は図1の解析(植栽無し)に防風植栽を追加した解析結果です。植栽は高さ10mのシラカシを想定し、抵抗係数は0.5、葉面積密度は5.0m2/m3と仮定しました。

 風速比1.3以上の強風領域は無くなりました。風速比1.2以上の強風領域は依然として残っていますが、植栽無しの場合に比べるとかなり狭い範囲に収まっているのが確認できます。風速比1.1以上の強風領域も植栽無しの場合に比べると一回り小さくなっています。


植栽有りの場合(シラカシを想定)
図2 植栽有りの場合(シラカシを想定)


 図3も図1の解析(植栽無し)に防風植栽を追加した解析結果です。植栽は高さ10mのカイヅカイブキを想定し、抵抗係数は0.3、葉面積密度は13.0m2/m3と仮定しました。

 風速比の分布状況はシラカシの場合とほぼ同じですが、植栽の直近風下の弱風領域が若干広がっている一方、風速比1.2以上の強風領域も若干広がっています。

 カイヅカイブキはシラカシに比べると葉面積密度がかなり高いため、樹冠を吹き抜ける風量が減り、風下直近の風速比が比較的小さくなりやすいです。一方で、樹冠を避けて上下左右に吹き抜ける風量が増え、周辺で風速比が大きくなる箇所も出てきます。


植栽有りの場合(カイヅカイブキを想定)
図3 植栽有りの場合(カイヅカイブキを想定)


 イメージ的にはシラカシよりカイヅカイブキのほうが防風効果は高いように思えるかもしれませんが、配置によっては逆効果となる場合もあります。これを改善するには間引きをするか、剪定により植栽と植栽の間に隙間を作ることがポイントです。植栽の間を適度に風が吹きぬけるようにすることで、極端に風が強い箇所を狭める効果が期待できます。

12.2 低層部を設ける防風対策の検討

 次に高層建物に低層部を設けることによる防風対策の効果を確認してみます。低層部を設ける意図は高層部に風が吹きつけることで生じる吹き降ろしを伴った剥離流を歩行者レベルにまで到達させないことです。

 図4は図1の解析に低層部を追加した場合の解析結果です。低層部の平面寸法は70m×70mで高さは5mです。

 風速比1.2以上の強風領域は無くなりました。風速比1.1以上の強風領域も大分小さくなっているのが分かると思います。


低層部を設けた場合
図4 低層部を設けた場合


 高層建物に防風対策として低層部を設けるのは効果的な場合が多いです。中途半端な高さで敷地範囲目一杯に建物を設置するよりは、あえて高層化した上で低層部を設けた方が風環境としては良い場合が多いです。

 ただし、低層部の屋上の風速は大きくなりやすいので注意が必要です。高層部の屋上の風速よりも大きくなる場合もありますので、歩行者デッキにしたり、屋上庭園などを作ったりする際には十分な防風対策を施してください。

12.3 隣棟の配置による防風対策の検討

 隣棟の配置により周辺の風の強さ分布は大きく変化します。これから新たに建物を建設する際には隣棟との位置関係や向きによって変化する風環境を考慮することはとても重要なことです。

 図5は平面寸法15m×60mで高さ45mの板状高層建物の妻側正面から風が吹いた場合の解析結果です。2棟間の距離は30m離し、並行に設置されています。歩行者レベル(地上高さ1.5m)における風速比コンターを示しています。ここでの風速比は地上高さ1.5mの流入風を基準としています。

 風速比1.1以上の強風領域が建物風上側隅角部付近で確認できます。2棟間にも確認できますが、風下側へはそれほど広がっておらず建物の奥行き範囲に収まっています。


隣棟と平行に設置した場合
図5 隣棟と平行に設置した場合


 図6は2棟間の風上側の間隔が広がり、風下側の間隔が狭まるように、2棟をそれぞれ15°づつ(相対的に30°)傾けた場合の解析結果です。2棟間の距離は風上側が約46m、風下側が15m離れ、逆ハの字に設置されています。

 平行に設置されている場合に比べると、建物風上側の2棟の外側隅角部の風速比1.1以上の強風領域が大きく広がり、2棟間の風速比1.1以上の強風領域は建物風上側隅角部から建物風下側隅角部に移動し、建物の奥行き範囲を超えて広がっています。


隣棟と30°傾けて設置した場合
図6 隣棟と30°傾けて設置した場合


 以上の解析結果から分かるように、同じ形状の隣棟建物であっても配置が異なるだけで、風による周辺への影響はかなり異なってきます。これがさらに複数になってくると、より複雑になり、影響の度合いを増すこともありますので、十分な検討が必要です。

12.4 まとめ

 今回は防風対策の解析例をご紹介しました。実務では建物の形状や配置は日影など「風以外」の影響の対応でほとんど決まってしまうため、現実としては植栽やフェンスによる防風対策が圧倒的に多いです。ただし、そもそも植栽を植えるための十分なスペースが残っていないことも多く、行き当たりばったりの小手先防風対策となってしまうことも少なくありません。植栽やフェンスのみでは十分な防風対策が行えないことも多いのです。  とは言ってみても、防風対策を優先として建物の形状や配置を考えるというのは、現状ではなかなか想像し難いので、そろそろハード的な対策だけではなく、ソフト的な対策も導入すべきと思います。ビル風(風環境ハザード)マップを作成するのはそれほど難しいものではありませんし、電子掲示板やスマホを使ってリアルタイムで歩行者が強風を避けて通行するためのルート案内を出すことも可能です。ビル風による風害に対してはそれに対応した保険商品を作ることも可能と思います。何が何でもハードで対応するという考え方は、津波対策のスーパー防波堤と同様に合理的ではありません。

 ただ、防風対策のためだけではなく、風の道を作ったり、室内に心地よい風を呼び込んだりするには、建物の形状や配置についても綿密に検討する必要があり、その有効性がもっと多くの人に理解されれば状況は大きく変わると思います。より多くの建築デザイナーが風環境を積極的にデザインしようという発想に向かっていくことを期待しています。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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