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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第7回 粒子追跡解析(1)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

粒子追跡解析(1)

  粒子追跡法 (Particle Tracking Method)は 混相流解析として利用頻度が高く、 気液二相流 固気ニ相流 固液二相流 気液固三相流の様々な解析対象に適用できます。解析結果として得られる粒子挙動は流れの可視化としても利用できますので、質量のないスカラー粒子を解析することもあります。

 粒子シミュレーション解析には多くの解析法があります。土砂のような粉体を扱う離散要素法(Discrete Element Method)もあれば、流体シミュレーション解析にまで適用が可能なSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法、 MPS(Moving Particle Simulation)法もあります。本コラムでご紹介する粒子追跡法はPSI-Cell(Particle Source in Cell)法と呼ばれている方法です。

 PSI-Cell法は流体工学分野で著名な米国Crowe博士の学術論文The Particle-Source-In Cell Model for Gas-Droplet Flows(1977年)で発表されました。図7.1のように 格子 で区切られた 要素 を用いて流体 連続相 として解析( Euler法 )し、流体中の粒子を 分散相 として個別に追跡( Lagrange法 )し、流体と粒子を連成解析する方法です。図7.1のように流体と粒子が互いに影響を与える連成解析を Two way coupling と呼びます。一方、流体は粒子に影響を与えますが、粒子は流体に影響を与えない連成解析を One way coupling と呼びます。



図7.1 Two way coupling



 粒子追跡法では粒子を質点として考慮していますので、図7.2のように粒子の接触や衝突が支配的な解析対象には適用できません。決して解析できないわけではありませんが、解析精度を保証することができません。



図7.2 粒子追跡法の適用

 図7.3のように、流体中の粒子にかかる力は様々ありますが、粒子密度が流体密度よりも大きい場合は 抗力 と重力が主な力になります。ただし、粒子の幾何学形状を球として抗力を算出しますので、注意が必要です。例えば、自然界に存在する砂や埃などの粒子は必ずしも球形ではありませんし、液滴などは形状が変化します。粒子追跡法には、このような仮定があることを念頭に置いてください。

 


図7.3 流体中の粒子にかかる力

 


 それでは、今回も解析事例をご紹介します。河川、地下水、井戸水、温泉などで水と砂を分離するのに利用されるサンドセパレータを粒子追跡法で解析します。

 サンドセパレータは遠心力を利用して水と砂を分離する装置のことで、原理はサイクロンセパレータと同じです。しかしながら、水と砂の密度差は約2.5ですので、空気と砂に比べると桁違いに密度差が小さく分離し難いと言えます。今回、解析したサンドセパレータは図7.4のように高さ900mm、最大径200mm、原水の流入径30mm、処理水の流出径60mmです。原水の流入量を2.8m3 /hで一定と設定しますと、約3%がドレン水として流出します。この原水と併せて粒径一定で密度2500kg/m3 の粒子100個を0.1秒毎に流入させ、30秒にわたり粒子追跡解析します。そして、ドレン水と共に流出する粒子数を、ドレン水および処理水と共に流出する粒子数で除算して除去率とします。

 


図7.4 サンドセパレータ

 

 図7.5は粒径100μmの粒子挙動の解析結果です。速度ベクトルを付与した粒子の挙動を7秒まで表示しています。原水と共に流入する粒子が壁面に沿いながら下方に移動し、ドレン水と共に流出する様子がわかります。図7.6は水の 流線 を矢印で表現しています。サンドセパレータ内に生じる旋回流の様子がよくわかります。

 


図7.5 粒子挙動

 

 


図7.6 流線

 


 図7.7は粒径5、25、50、75、100μmと粒径を変えた場合の除去率の変化です。粒径が小さくなるにつれて分離できなくなることがわかります。実際には、砂は100μmより大きいため、解析しましたサンドセパレータの除去率でも問題ありません。

 


図7.7 粒径による除去率の変化



 

次回は粒子追跡法の設定条件について詳しくご説明します。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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