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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎 第15回 [LTspice] ダイオードの選定と損失計算 (2)

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機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎

 今回は簡単な回路を使って、ダイオード の選定計算を行ってみましょう。

整流回路

 図15.1に示す簡単な整流回路を考えます。この回路は交流100 Vの入力と抵抗値100 Ω の白熱電球の間にダイオードを直列に挿入したものです。



図15.1 整流回路


手計算による確認

 表15.1と15.2にダイオードの 絶対最大定格 と電気的特性の抜粋を再掲します。

表15.1 絶対最大定格(Tl = 25 ℃)
接合部温度 Tj 150 ℃
尖頭逆電圧 VRM 600 V
出力電流 IOTl = 80 ℃) 2.6 A

表15.2 電気的特性(Tl = 25 ℃)
順電圧 VFIF = 2.6 A) Max 1.05 V
逆電流 IRVRM = 600 V) Max 10 μA
熱抵抗 Max 115 ℃/W
 

このダイオードを用いたときに 接合部温度尖頭逆電圧、出力電流が絶対最大定格を超えないかどうかを求めてみます。

 まず、尖頭逆電圧を計算してみます。交流100 Vの電圧のピーク値は、実効値 振幅 の関係から、100 [V] × = 141 [V] となり、絶対最大定格600 Vよりも小さな値となることが分かります。

 次に、出力電流を計算します。ダイオードで生じる電圧降下を1 Vとすると、抵抗R1にはピーク時に140 Vの電圧が加わることになります。したがって、出力電流は最大で140 [V] / 100 [Ω] = 1.4 [A] となり、絶対最大定格2.6 Aを下回ることが分かります。

 最後に損失を求め、熱抵抗 と接合部温度を計算します。損失の計算には実効値を用います。ダイオードでの電圧降下分を考慮すると抵抗R1には実効値で99 Vの電圧が加わります。したがって、電流は実効値で 99 [V] / 100 [Ω] = 0.99 [A] となります。ダイオードの順方向損失は 電流 × 順電圧 で求められるので、0.99 [A] × 1.05 [V] × 1/2 = 0.52 [W] となります。一方、逆方向損失は 印加電圧 × 逆電流 で求められ、100 [V] × 10 [μA] = 1 [mW] となります。

 これらの結果より、順方向と逆方向を合わせて521 mWの損失が発生すると考えられます。温度上昇は 損失 × 熱抵抗 で求められるため、Ta = 25 ℃のときの接合部温度は0.52 [W] × 115 [℃/W] + 25 [℃] = 84.8 [℃] となります。これは絶対最大定格150 ℃ を下回る値です。

 以上の計算結果から、このダイオードを図15.1の回路に用いても、絶対最大定格を超えないことが分かります。なお、これらはあくまでも考え方を説明するための例であり、実際の設計ではさらに綿密な検討が必要となります。特に などの熱抵抗やデバイスパッケージの周囲温度は基板の実装状況によって大きく異なるため、ここで示した方法は推奨されていないことに注意してください。

LTspiceによる確認

 では最後に、LTspiceを用いて計算してみます。図15.1の回路で2波長分の計算を行い、ダイオードD1の損失を表示したものが図15.2です。また、このときの平均値を図15.3に示します。図15.3を見ると、D1の平均損失は371 mWで、先ほどの手計算で得られた値よりも小さくなっていることがわかります。



図15.2 ダイオードD1の損失

図15.3 損失の平均値


これは、ダイオードの順電圧は電流によって変化すること、平均的な順電圧は0.7 V程度で表15.2に記載されている最大値1.05 Vよりも小さくなることに起因します。このように、仕様書に基づいて算出した損失は大きめの値となる傾向があります。このことは安全側の設計を行うことになりますが、その分余剰なマージンを確保することにもつながります。熱解析の結果と実機の温度測定の結果を比較するような場合には、温度だけではなく 電圧 電流 を測定し、実機の損失を求めるなどの配慮が必要となります。

 今回は仕様書と同じ周囲温度が25 ℃の条件で絶対最大定格を満たすどうかを検討しました。しかし、実際には設計条件が仕様書に記載された条件と一致するとは限りません。次回はそのような場合の考え方について説明します。






著者プロフィール
CrEAM(Cradle Engineers for Accelerating Manufacturing)

電子機器の熱問題をなくすために結成された3ピースユニット。 熱流体解析コンサルタントエンジニアとしての業務経験を生かし、 「熱設計・熱解析をもっと身近なものに。」を目標に活動中。

 

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