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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第30回 最適化オプションを用いた軸流送風機設計(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

今回から3回に渡って、EOoptiにより軸流送風機の設計を支援する方法を紹介します。具体的には、与えられた諸元(所定の流量での圧力上昇)を最高効率で満足するような羽根車の形状を求めます。今回は概要を説明し、2回目でモデルの作成について、3回目で設計結果について説明します。

軸流送風機の動作は運動量保存則に従います。具体的には、羽根車から流出する空気の運動量は、羽根車に流出する空気の運動量と羽根車から与えられた運動量との和になります。
したがって、軸流送風機の設計は、与えられた仕様から必要な羽根車出口の空気運動量を求め、この運動量が得られるような翼形状を決定すれば良いことになります。
例えば、動作中の軸流送風機の任意径での断面は図1.1のように、回転速度の接線方向成分(いわゆる周速度)uで移動する翼となります。これを翼に固定された座標から見ると、図1.2に示すように、翼先端では水平方向に速度u、垂直方向には速度Cmの流れが流入します。w1は翼に固定された座標から見た流れで相対流速と呼ばれます。一方Cmは送風機のケーシングに固定された座標から見た流れで絶対流速と呼ばれます。翼先端から流入した流れが翼に沿って忠実に流れが変化したとすると、翼後端での相対流速はw2となります。回転速度の接線方向成分uと軸方向流速Cmは翼前後で変化しないため、翼後端での絶対流速C2は図のように、翼回転方向に傾斜した流れとなります。このうちC2の翼回転方向成分C2uが翼に反作用として働きます。ここで、断面での翼に働く力をdF、空気密度をρ、流入する空気体積をdVとすると、時間t前後での力積は運動量の変化に等しいため、下記の式が成り立ちます。


時間tを単位時間とすると、単位時間当たりの流入体積は流量であるため、流量をdQとして、下記の式となります。

一方、羽根車が受ける力dFと接線方向速度成分uとの積は、羽根車が与える動力と等しくなります。ここで、ωは羽根車の回転角速度、dMは翼に働くモーメントを示します。


羽根車が与える動力がすべて空気に与えられたとすると、空気のエネルギを単位時間あたり流量×全圧だけ増加させます。したがって、翼前後の全圧差を⊿Pとすると、(2)(3)式とから、(4)式が得られます。


軸流送風機設計では、設計仕様から全圧上昇を求め、次に(4)式をもとに、C2uを求め、翼の前後の速度三角形を求めます。空気の流入角β1、流出角β2は得られた速度三角形をもとに下記の式により求められます。流入角・流出角は、周速度との成す角で、ここで、空気は翼に沿って忠実に流れると仮定しているため、翼中心線の翼端での接線と周速度との成す角は求められた流入角・流出角と一致します。



図1.1 移動する翼



図1.2 翼に固定された座標から見た翼前後の速度


翼端での翼中心線の接線と周速度との成す角が求まれば、CADなどで作図することで翼形状を決定できますが、一般には、図1.3に示すような取付角(翼弦と回転面との成す角)と反り率(翼弦長に対する翼中心線と翼弦長との最大距離との比)で表示し、翼端での中心線の接線成分の成す角を翼前縁でβ1、翼後縁でβ2とすると、一円弧の場合、取付角θと反り率fは下記の式により求められます。


 


図1.3 翼の取付角と反り率


以上のように、空気が翼に沿って忠実に流れて、羽根車の動力がすべて空気に与えられたとすると、比較的簡単な計算で翼形状を決定できます。しかしながら、空気のような粘性を有する流体では、翼の形状と空気の流れとは一致せず、図1.4に示すように、翼中心線の接線が成す角の差(β2-β1)に対して、流れの流出角と流入角との差は小さくなります(図1.4は図1.2に示す翼型にw1の速度で空気を流入させた場合の翼周りの流れをSCRYU/Tetraで計算したものです)。


図1.4 翼周りの流れ


したがって、軸流送風機の設計では、このずれ分を補正する必要があり、角超過法やNACAカーペット線図などの方法があります。ここでは、ずれ分の影響により全圧上昇⊿Pが小さくなると考えて、⊿Pを補正して、初期設計を行います。ただし、このような考えでの初期設計では最適設計結果が得られることは望めないため、取付角と反り率を設計変数として、設計目標での静圧上昇が最大で翼トルクが最小となるような条件をEOoptiとSCRYU/Tetraにより求めてみます。

次回は、初期設計とEOoptiによる実験計画まで説明します。


【参考文献】流体機械 原田幸夫 朝倉書店、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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