Cradle

 

投稿一覧

事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第35回 最適化オプションを用いた遠心送風機設計(3)

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

EOoptiにより遠心送風機の設計を支援する方法を紹介しています。前回は、設計諸元をもとにモデルを作成し、EOoptiによる実験計画とモデルの作成・解析まで説明しました。解析結果からすべてのモデルの流量と羽根車トルクが得られたら、流量が最大で、羽根車トルクが最小となるような最適解の探索を行うと、設計目標を満足するような入口角と出口角の組み合わせが得られます。今回は、最適解探索結果について説明します。
 
図3.1に入口角・出口角に対する流量の応答曲面を、図3.2に同様に羽根車トルクの応答曲面を示します。図を見ると、出口角の増加に伴い、流量も羽根車トルクも増加することがわかります。しかしながら、図3.1の流量の応答曲面は入口角が12度付近を中心として上に凸となり、一方、図3.2では、入口角の羽根車トルクへの影響は小さく、最適な入口角の範囲が存在すると考えられます。モデルには設計目標となるような体積力を組み込んであるため、遠心ファンの特性としては、流量の2乗に比例した圧力も発生しています。 図3.3に最適解の分布を示します。参考までに、最悪解すなわち、流量が最小で羽根車トルクが最大となるような条件を赤いプロットで示します。最適条件は、流量が最大で羽根車トルクが最小であるため、図の右下にあるものが最適解となります。図を見ると、流量の増加とともに羽根車トルクも増加しているため、流量と羽根車トルクとはトレードオフの関係にあることがわかります。しかしながら、流量が50m3/min付近で右下に凸となる曲線であり、この付近で流量と羽根車トルクのバランスが良い条件があることがわかります。一方、流量が52m3 /min(遠心ファンの性能としては52m3/minで静圧が1082Pa)を超えると、羽根車トルクが急速に増大しています。これは、設計目標が52m3/minを超えるような条件では、入口角・出口角以外の羽根車外径や羽根車厚みなどを見直す必要があることを示しています。また、流量が48m3/min以下となる条件では、羽根車トルクはほぼ一定となり、最適解と最悪解とが混在し、同様に入口角・出口角以外の寸法も見直したほうが良いことを示しています。このように、最適解分布をもとに設計結果を俯瞰することができるため、設計に関わる判断を支援する効果も期待できます。 青いプロットで示した最適解と赤いプロットで示した最悪解とを比較すると、例えば、設計目標の50m3/minでの羽根車トルクは、最適設計に対して、良くない設計では20%ほど大きくなります。EOopti上でプロットをクリックすると、それぞれの条件での設計変数を表示できます。最適設計点や最悪設計点での設計変数をもとにモデルを作成し、再度SCRYU/Tetraで解析し、得られた結果から、なぜ効率が良いのか、あるいは悪いのかを考察するといった作業を通して、設計者教育を行ったり、設計ノウハウを蓄積したりといった活用が期待できます。



図3.1 流量の応答曲面



図3.2 羽根車トルクの応答曲面



図3.3 最適解(青いプロット)と最悪解(赤いプロット)の分布


流量が設計目標の50m3 /minとなる入口角・出口角の組み合わせを設計案とすると、入口角が11.7度、出口角が25.8度となります。最適設計案をもとに羽根車を作図した結果が図3.4となります。最適設計案からモデルを作成し、再度SCRYU/Tetraで解析した結果を表3.1に示します。応答曲面から求めた最適解での特性と再度解析した結果とは良く一致することがわかります。表3.1の初期設計での特性と比較すると、最適設計では、羽根車トルクが1/2以下となっていることがわかります。

図3.5に最適設計案での静圧分布を、また、図3.6に初期設計での静圧分布を示します。図を比較すると、図3.5の最適設計案では、羽根車中心から同心円状に静圧が上昇していることがわかります。これに対して、図3.6の初期設計では、圧力の低い領域が羽根車中心から偏っていることや羽根車内での高い圧力が羽根車外部では急速に減衰していることがわかります。このことから、羽根車中心から同心円状に静圧を上昇させることが高効率化のポイントとなるものと考えられます。

表3.1 応答曲面からの結果と再解析結果との比較
  入口角[deg] 出口角[deg] 流量[m3/min] トルク[Nm]
最適設計
応答曲面
11.7 25.8 50.0 8.4
最適設計
再解析結果
11.7 25.8 49.8 8.4
初期設計 90 90 51.9 19.2


図3.4 最適設計案
 



図3.5 最適設計案での静圧分布  



図3.6 初期設計での静圧分布



EOoptiを用いた最適設計事例の連載は、今回で終了となります。実際の設計では、紹介したような事例とは異なり、考慮しなければならない設計変数はかなり多くなります。そういった状況においても、やみくもに最適化を行うのではなく、設計変数を絞り込んで得られた結果から法則性を見つけ出すことがポイントとなると思われます。第1回からの連載記事が、より良い設計の参考となれば幸いです。


【参考文献】流体機械 原田幸夫 朝倉書店、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップコンテンツ