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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第32回 最適化オプションを用いた軸流送風機設計(3)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

EOoptiにより軸流送風機の設計を支援する方法を紹介しています。前回は、設計諸元をもとにモデルを作成し、EOoptiにより実験計画と各モデルの作成・解析まで説明しました。解析結果からすべてのモデルの流量と翼トルクが得られたら、流量が最大、翼トルクが最小となるような最適解の探索を行うと、設計目標を満足するような翼取付角と反り率の組み合わせが得られます。今回は、最適解探索結果について説明します。

図3.1に翼取付角と反り率に対する流量の応答曲面を、図3.2に同様に翼トルクの応答曲面を示します。図を見ると、翼取付角と反り率の増加に伴い、流量も翼トルクも増加することがわかります。しかしながら、翼トルクは翼取付角と反り率の増加に伴い一様に増加するのに対して、流量は、翼トルクと反り率の特定の組み合わせで極大となることがわかります。これは、最適設計点が存在することを示しています。

図3.3に最適解のプロットを示します。参考までに、最悪解すなわち、流量が最小で翼トルクが最大となるような条件を赤いプロットで示します。最適条件は流量が最大で翼トルクが最小であるため、図の右下にあるものが最適解となります。図を見ると、流量の増加とともに翼トルクも増加しているため、流量と翼トルクとはトレードオフの関係にあることがわかります。しかしながら、流量が107m3/minあたりで右下に凸となる曲線であり、このあたりで、流量と翼トルクのバランスが良い条件があることがわかります。一方、流量が109m3/minを超えるあたりで、翼トルクの増大と流量の低下が見られます。これは、もし目標が流量109m3/minを超えるような設計であった場合、この条件では無理であり、羽根車外径や回転速度を見直すなどの対策が必要であることがわかります。また、流量が95m3/minあたりで最適解と最悪解が同じ位置にあり、同様に、目標が流量95m3/min以下となるような設計であった場合、羽根車外径や回転速度を見直したほうが良いことを示しています。このように、最適解分布をもとに設計結果を俯瞰することができるため、無駄な努力を省くことが期待できます。

青いプロットで示した最適解と赤いプロットで示した最悪解とを比較すると、例えば、設計目標の流量100m3/minでの翼トルクは、最適設計に対して、良くない設計では35%ほど大きくなります。EOopti上でプロットをクリックすると、それぞれの条件での設計変数を表示できます。最適設計点や最悪設計点での設計変数をもとにモデルを作成し、再度SCRYU/Tetraで解析することで、なぜ効率が良いのかあるいは悪いのかを考察するといった作業を通して、設計者教育に行ったり、設計ノウハウを蓄積したりといった活用が期待できます。
 



図3.1 流量の応答曲面



図3.2 翼トルクの応答曲面



図3.3 最適解(青いプロット)と最悪解(赤いプロット)の分布


流量が設計目標の100m3/minとなる設計変数の組み合わせを設計案とすると、翼取付角が16.5度で反り率が7%となります。この条件でモデルを作成し、再度SCRYU/Tetraで解析した結果を図3.4に示します。また、表3.1に応答曲面から求めた流量と翼トルクと同じ条件でのCFDで再解析した結果との比較を示します。図3.4中、大きな○で表示した再解析結果は最適解分布上にあり、翼トルクができるだけ低いという設計条件を満たしていることがわかります。また、表3.1に示すように、応答曲面から求めた最適解と再度解析した結果とは良く一致し、CFD再解析から得られた流量が100.9[m3/min]と、高い精度で設計目標を満足することがわかります。



図3.4 再解析結果との比較


  流量[m3/min] 翼トルク[Nm]
応答曲面 100.2 4.4
CFD再解析結果 100.9 4.4
表3-1 当初設計と最適設計との比較  

図3.5に設計案での翼周りの圧力分布を示します。圧力の高い部分と低い部分とは翼の上下にあり、翼トルクの原因となる回転方向への反力成分は小さいことがわかります。圧力の高い部分と低い部分とが翼のどの位置にあるかが高効率化のポイントとなるものと考えられます。
 



図3.5 最適設計羽根車周りの圧力分布

今回は、簡単のため、翼断面形状は径に依らずに同じとしましたが、翼元と翼端では周速度が異なるため、最適な翼断面形状は異なったものとなります。実際の設計に際しては、翼元と翼端での翼取付角や反り率など設計変数を適宜に設定する必要があります。
 
次回は、EOoptiにより遠心送風機の設計を支援する方法を紹介します。

 

【参考文献】流体機械 原田幸夫 朝倉書店、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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