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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第33回 最適化オプションを用いた遠心送風機設計(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

今回から3回に渡って、EOoptiにより遠心送風機の設計を支援する方法を紹介します。具体的には、与えられた諸元(所定の流量での圧力上昇)を最高効率で満足するような羽根車の形状を求めます。今回は概要を説明し、2回目でモデルの作成について、3回目で設計結果について説明します。

遠心ファンは、放射状の翼を持つ羽根車と渦巻き状のスクロールとから構成されます。図1.1に示す遠心ファン内部の静圧分布をもとに動作を説明します。羽根車中心から吸い込まれた空気は、羽根車とともに回転することにより遠心力が加わり、圧力が上昇します。図1.1からも羽根車中心から外周に向かうにしたがって静圧の大きさを示すコンターは緑色から黄緑色に変わり、羽根車内部で静圧が上昇していることがわかります。一方、羽根車から流出した空気は、羽根車回転方向に旋回する高速の流れとなります。この高速の空気を、断面が徐々に拡大するスクロールにより減速させます。ベルヌイの定理により動圧と静圧の和は一定であるため、減速により静圧が上昇します。図1.1からもスクロールの拡大とともに静圧の大きさを示すコンターは黄緑色から黄色に変わり、圧力が上昇していることがわかります。
 



図1.1 遠心ファン内部の静圧分布


このように、遠心ファンでの圧力上昇は羽根車とスクロールそれぞれが担っているため、遠心ファンの設計では、羽根車の設計とスクロールの設計とが必要となりますが、ここでは、紙数の関係から羽根車に関してのみ最適設計を行ってみます。 羽根車の動作原理を角運動量保存則から説明します。角運動量は、質量と速度と回転半径との積で表される量で、角運動量保存則は、物体に加わるトルクの時間積分が角運動量と等しくなるということです。

図1.2に示す羽根車では、羽根車入口から入った空気が羽根車出口から出るまでの時間⊿tの間の空気の角運動量の変化は、空気が受けるトルクと時間⊿tとの積に等しくなります。作用・反作用の法則から空気が受けるトルクと羽根車のトルクは大きさが等しくなることと、⊿tを単位時間とすると、羽根車のトルクは羽根車入口・出口での角運動量の差と等しくなります。

ここで、図1.3に示すように、rを半径、vを流速、αを流速ベクトルが羽根車接線と成す角度として、添え字1で羽根車入口、添え字2で羽根車出口での状態量を表すとすると、下記が成り立ちます。



ここで、ρは空気の密度で、Qは流量です。
(1)式の両辺に角速度ωを掛け、羽根車周速度u=ω・rとから



となります。ここで、T・ωは羽根車の回転エネルギであり、羽根車入口から出口間で空気のエネルギをこの分だけ増加させたとすると、流体のエネルギは流量×全圧差で表されるため、下記の式が成り立ちます。


図1.2 羽根車入口出口での角運動量


図1.3 羽根車での流速

ここで、図1.4に示すように、羽根車周速度をu、スクロールから見た羽根車内流速すなわち絶対流速をv、羽根車とともに回転する座標から見た流速すなわち相対流速をuとして、第二余弦公式を用いて(3’)を変形すると、(4)式が得られます。



(4)式の第一項は遠心力による圧力上昇を表し、第二項は羽根車内部での動圧の増加を表しています。また、第三項は羽根車内での流路断面の拡大により動圧が減少し静圧を上昇させることを表しています。



図1.4 絶対流速と相対流速


ここでは、初期設計として、(4)式の第一項のみを使い、図1.1のような翼が放射上に広がる羽根車を設計し、その後、EOoptiとSCRYU/Tetraにより、翼トルクが最小で静圧上昇が最大となるような翼の入口角と出口角を探索してみます。
次回は、初期設計とEOoptiによる実験計画まで説明します。


【参考文献】流体機械 原田幸夫 朝倉書店、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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