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装置設計者のための騒音の基礎 第27回

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装置設計者のための騒音の基礎

その他の窓関数

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。前回まで、ハニング窓を題材に窓関数について説明してきました。今回は、その他の窓関数として、矩形窓とブラックマン窓について説明し、矩形窓・ハニング窓・ブラックマン窓の周波数領域プロットをエクセルで計算することで、特徴を比較してみます。
 
 前回までの説明では、「窓関数あり・なし」と表現してきましたが、「窓関数なし」という状態は、切り出す区間が1で、その他は0となる矩形の窓関数となります。つまり、窓関数を使わないということは、矩形窓を使っていることになります。図1に各種窓関数の時間領域プロットを示します。データを切り出す部分をk=0~1とすると、矩形窓は、切り出されたデータに、重み1をかけています。

 一方、ハニング窓は、切り出されたデータに、(1)式で示される重みをかけます。


 また、ブラックマン窓は、切り出されたデータに、(2)式で示される重みをかけます。



図1 窓関数の時間領域プロット

 

 窓関数の形状は時間領域プロットで表せますが、その効果については、フーリエ解析結果に表れます。したがって、窓関数の効果の特徴を見るには、窓関数の周波数領域プロットが必要になります。

 次に、窓関数の周波数領域プロットをエクセルで求めてみます。図2に示すように、A列に、0から1/256ずつ増加する値を用意し、時間軸とします。A列のデータから2秒分すなわち、512個のデータを抜出すと、周波数分解能は1/2Hzとなります。B列に、0から1/2ずつ増加する値を用意し、周波数軸とします。矩形窓として、0.5~1.5秒が1で、それ以外は0となるような値をC列に用意します。C列のデータにフーリエ解析を行い、D列に出力します。E列ではパワーを計算します。ここで、エクセルのフーリエ解析では0を出力する場合があり、そのままでは対数部分でエラーとなるため、0の場合は-100となるようにします。


図2 エクセルシートへの数式の入力

 

  得られた結果から、B列を横軸に、E列を縦軸にプロットすると、図3に示す矩形窓の周波数領域プロットが得られます。図において、左端の山がメインローブと呼ばれ、分析対象の周波数成分がここに現れ、メインローブの幅が周波数分解能になります。また、メインローブの隣に複数あるのがサイドローブで、データの不連続性を三角関数で近似した際に発生する高次成分の影響がこの部分になります。例えば、図3で、分析対象の周波数との差が10Hz以内にある信号で、分析対象より30dB以上小さいものは、サイドローブに埋もれて検出できないことがわかります。


図3 窓関数の周波数領域プロット

 このように、窓関数の周波数特性には、メインローブの幅ができるだけ小さく、サイドローブの高さができるだけ低いことが要求されます。しかしながら、メインローブの幅とサイドローブの高さは、トレードオフの関係にあり、どちらも満足するものは残念ながらありません。図4に、矩形窓と同様にして計算したハニング窓とブラックマン窓の周波数特性を示します。図4で、青色の線が矩形窓の、橙色の線がハニング窓の、灰色の線がブラックマン窓の周波数特性を示します。図を見ると、メインローブは矩形窓がもっとも狭いものの、サイドローブが高いことがわかります。一方、ブラックマン窓は、サイドローブは低いものの、メインローブの幅が矩形窓の2.5倍と広くなっていることがわかります。ハニング窓は、この中間に位置していて、もっともよく使われる窓関数です。なお、以上の結果は、窓関数の特徴を理解してもらうため、エクセルで計算してみたものです。実際の解析を行う際は、FFTアナライザの説明書を参考にしてください。


図4 窓関数の周波数特性

 次回は、オクターブバンド分析について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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