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装置設計者のための騒音の基礎 第28回

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装置設計者のための騒音の基礎

オクターブバンド分析

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。第4回「ウェーバー・フェヒナーの法則」 で、人間の感覚量は刺激の強さの対数に比例することを説明しましたが、周波数に対する感覚も、周波数の対数に比例しています。人間の感覚にあわせた周波数分析が今回説明するオクターブバンド分析です。
 
 オクターブバンドとは、1kHzを基準に一定の比率の幅の周波数フィルタによって分割された周波数帯域のことで、騒音分析に用いられる1/3オクターブバンド分析では、中心周波数fm、低域遮断周波数fL、高域遮断周波数fHには、下記の関係があります。


(1)式、(2)式から、fL、fHを求めると、



となり、中心周波数から低域遮断周波数と高域遮断周波数を求められます。表1に1/3オクターブバンド周波数(抜粋)を示します。参考までに、中心周波数1kHz帯の低域遮断周波数891Hzの純音と、高域遮断周波数1122Hzの純音を表中に添付します。適切な音量で再生してください。

表 1 1/3オクターブバンド周波数(抜粋)
中心周波数[Hz] 低域遮断周波数[Hz] 高域遮断周波数[Hz]
16 14.1 17.8
20 17.8 22.4
1000 891 1122
16000 14140 17780
20000 17780 22390

 
 図1と図2に1/3オクターブバンド周波数範囲のプロットを示します。図1はリニアスケール表示で、周波数が高くなるほど、フィルタの幅が広がることがわかります。一方、対数スケールで表示した図2を見ると、フィルタ幅が一定になり、フィルタ幅は比率が一定になるように設定されていることがわかります。

 オクターブバンド分析では、FFT分析とは異なり、図3に示すように、オクターブバンド周波数に設定された複数の周波数フィルタで入力をフィルタリングし、表示します。


図1 1/3オクターブバンド(リニアスケール)


図2 1/3オクターブバンド(対数スケール)


図3 オクターブバンド分析器

 オクターブバンド分析の例として、ホワイトノイズとピンクノイズの分析結果をFFT分析結果との比較で紹介します。ホワイトノイズとは、パワースペクトルが周波数に依らず一定となる雑音です。同様のスペクトル分布の光では、白色に見えることからホワイトノイズと呼ばれます。図4がホワイトノイズのFFT分析結果で、スペクトルは一定となっています。一方、図5に示す1/3オクターブ分析では、右上がりのスペクトルとなります。この傾きは、オクターブすなわち周波数が2倍で、約3dBです。

 これに対して、ピンクノイズとは、パワーが周波数に反比例する雑音です。同様のスペクトル分布の光では、ピンクに見えることからピンクノイズと呼ばれています。図5がピンクノイズのFFT分析結果で、スペクトルは右下がりの曲線となっています。一方、図6に示す1/3オクターブ分析では、スペクトルは一定となっています。このため、ピンクノイズは、オクターブ分析器のサンプル信号として用いられます。参考までに、表2に今回の分析に用いたホワイトノイズとピンクノイズを添付します。音量を適切に設定して再生してください。ホワイトノイズがシャーという音であるのに対して、ピンクノイズはザーという音に感じられます。
※ここでは低周波数域の傾向が乱れていますが、実測上の誤差であり、理論上は上記に従います。


図4 ホワイトノイズのFFT分析結果


図5 ホワイトノイズの1/3オクターブバンド分析結果


図6 ピンクノイズのFFT分析結果


図7 ピンクノイズの1/3オクターブバンド分析結果

 

表2 サンプルサウンド
ホワイトノイズ ピンクノイズ

 
 今までの例は、振幅・周波数が一様な信号を対象としてきましたが、現実の音は、例えば、歯車騒音のように、ある周波数の音が、より長い周期で変動する例が多くあります。このような現象を振幅変調と呼びます。

次回は、振幅変調について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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