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装置設計者のための騒音の基礎 第29回

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装置設計者のための騒音の基礎

振幅変調音

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。今回は、振幅変調音について説明します。

 前回までの説明は、振幅・周波数が一様な定常音を対象としてきました。しかしながら、歯車騒音のように、振幅が周期的に変動する音は、振幅変調音と呼ばれます。振幅変調音は、搬送波の振幅が変調波に比例して変動する音で、変調波の周波数により、聴感が変わります。

 表1にMATLABで合成した振幅変調音のサンプル音を添付します(あらかじめボリュームを小さくして再生するなどして適切な音量で再生してください)。
 変調波の周波数が小さい場合、変動感を与えます。表1の「1kHz定常音を4Hzで振幅変調」を再生してみると、変動感を感じると思います。これが変動強度と呼ばれる音質指標で、変調周波数が4Hzでもっとも大きくなります。一方、表1の「1kHz定常音を70Hzで振幅変調」を再生してみると、変動感ではなく、音がざらついた感じに聞こえるかと思います。このざらざら感がラフネスと呼ばれる音質指標で、70Hzでもっとも大きくなります。変調周波数がさらに大きくなり、表1の「1kHz定常音を200Hzで振幅変調」を再生してみると、平坦な音としてしか感じられなくなると思います。

表1 振幅変調音
1kHz定常音 1kHz定常音を4Hzで振幅変調

 

1kHz定常音を70Hzで振幅変調 1kHz定常音を200Hzで振幅変調

 
 このように、人間は変調周波数により異なった感覚を持ちますが、振幅変調音のフーリエ解析結果は、人間の聴感とは異なり、複数の周波数成分の和で表されます。
例えば、周波数fcの搬送波が周波数fmの変調波により振幅が周期的に変動する信号は、三角関数の積和の公式から、下記の式に示すように、周波数がfcとfc+fmおよびfc-fmの3つのスペクトルに分解されることがわかります。


 100Hzの搬送波を4Hzで振幅変調した信号が、図1に示す波形で、フーリエ解析した結果が図2に示す周波数スペクトルです。図2を見ると、100Hzのスペクトルを中心に、左右に96Hzと104Hzのスペクトルが見られます。この両側のスペクトルは側帯波と呼ばれます。


図1 振幅変調波


図2 周波数スペクトル

 

振幅変調の特殊な例として、0を中心として変調する場合、(2)式に示すように、スペクトル成分は2つになります。これは、「うなり」と呼ばれる現象で、周波数がわずかに異なる(この場合、fc+fmとfc-fm)定常音同士は、周波数が2fmで周期的に変動します。ここで、変動する周波数が変調周波数の2倍となるのは、振幅変調では変調波がプラス側での変動となるのに対して、うなりは0を中心とした変動のため、プラス側・マイナス側のどちらでも最大振幅となり、変調周期1回に対して2回変動するためです。

 周波数96Hzと104Hzの正弦波の和をプロットしたものが、図3です。変調周波数は(2)式から、(104-96)/2=4Hzとなりますが、図を見ると、その2倍の8Hzで変動していることがわかります。また、図4が周波数スペクトルで、96Hzと104Hzにスペクトルが見られます。


図3 うなり


図4 うなりの周波数スペクトル

次回は、振幅変調音の解析手法として短時間FFTについて説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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