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装置設計者のための騒音の基礎 第30回

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装置設計者のための騒音の基礎

短時間FFT

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。前回は、振幅変調音の周波数スペクトルは人間が感じる変動感とは異なり、複数のスペクトルに分離されることを、うなり現象を例に説明しました。今回は、人間が感じる変動感を可視化する方法の一つとして、短時間FFTについて説明します。

 短時間FFTは、信号を短時間の窓関数で切り出した後、FFT解析を行うことを、信号全体に渡って行う手法です。周波数スペクトルが時間ごとに得られるため、その結果を表示するには、横軸を時間、縦軸を周波数、スペクトル強度を色の違いなどで表すコンターマップが用いられ、スペクトログラムと呼ばれます。図1に周波数100Hzの正弦波の振幅が0.5Hzで変動した信号のスペクトログラムを示します。図において、青色よりも黄色、黄色よりも赤色が、スペクトル強度が大きいことを示します。図1を見ると、1秒間隔で黄色から赤色へと変わり、0.5Hzで変動していることがわかります。スペクトログラムは、FFTアナライザに標準あるいはオプションで搭載されているほか、MATLABでも計算できます。図1はMATLABのspectrogramコマンドを用いています。


図1 スペクトログラム

 第21回「時間軸と周波数軸との関係」で説明したように、フーリエ解析では、時間分解能と周波数分解能とは反比例します。したがって、窓関数の長さを短くすると、時間分解能が良くなり、急峻な変化を捉えることが可能となります。ただし、周波数分解能が低下します。逆に、窓関数を長くすると、周波数分解能が良くなり、小さな周波数の違いも捉えることができますが、時間分解能が低下します。

 図2と図3に、周波数が5秒ごとに、10Hz、25Hz、50Hz、100Hzへと変化する信号のスペクトログラムを示します。図2に示す窓関数長さ256でのスペクトログラムでは、周波数の切り替わり位置が比較的明確にわかるのに対して、周波数が広い帯となっていることがわかります。一方、図3に示す窓関数長さ2048でのスペクトログラムでは、周波数は細い線となり、その値が明確にわかるのに対して、周波数の切り替わり位置が不明確となっていることがわかります。このように、スペクトログラムは、周波数成分の時間変化を把握できる便利な手法ですが、時間分解能と周波数分解能とはトレードオフの関係にあるため、時間変化を重視するのか、周波数の違いを正しくとらえたいのか、といった用途にあった適切な窓関数長さを設定する必要があります。


図2 窓関数長さ256でのスペクトログラム


図3 窓関数長さ2048でのスペクトログラム

 スペクトログラムでは、振幅変調音の周波数と変動周期を同時に得られますが、変動周期だけわかれば良いといった場合、エンベロープ処理が有効です。次回は、エンベロープ処理について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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