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装置設計者のための騒音の基礎 第21回

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装置設計者のための騒音の基礎

時間軸と周波数軸との関係

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。今回は、波形およびスペクトルの横軸の関係、すなわち時間軸と周波数軸との関係について説明します。

 離散フーリエ変換においては、第20回「ナイキストの標本化定理とフーリエ解析」で説明したように、時間波形は周波数が0から標本化周波数 fs までの成分に分解されます。ここで、FFT処理に用いるデータ数すなわち、サンプリング数をNとすると、周波数軸は fs/N に分割されます。したがって、周波数分解能は  となります(分解能とは識別できる限界で、例えば、目盛1mm の定規では1mm 未満の寸法差は測れず、この場合、分解能は1mm となります)。

 一方、サンプリング数 N となる時間間隔は  となり、これが時間分解能になります。

(1)式と(2)式とから、 となり、時間分解能と周波数分解能とは反比例します。例えば、0.1秒間隔でFFT処理を行うと、周波数分解能は10Hzとなります。逆に、周波数分解能を0.1Hzにすると10秒間隔でしか結果は得られないといったように、時間分解能と周波数分解能はトレードオフの関係となります。

 一方、ナイキストの標本化定理から、解析できる周波数範囲は標本化周波数 Fs の1/2以下であり、標本化周波数までの範囲を対象としてもあまり意味がありません。そこで、FFTアナライザでは精度も考慮して、Fs/2.56を解析上限周波数 fm としています。したがって、表示される周波数成分の数も同様に、N/2.56となり、これはライン数 L と呼ばれています。周波数分解能を解析上限周波数 fm とライン数 L で表すと、(1)式と同様に、 となります。


 例えば、標本化周波数51.2kHzで2048個のデータをサンプリングして、FFT処理を行うと、解析上限周波数は51.2k/2.56=20kHzで、ライン数は2048/2.56=800となり、周波数分解能は、20k/800=25Hzとなります。

 では、エクセルのフーリエ解析機能を使って、時間軸と周波数軸との関係を試してみます。
第19回「FFT処理」の説明で用いたエクセルシートの信号成分の欄を図1のように修正します。すると、99Hzと101Hzの正弦波の和となり、図2に示す信号波形が得られます。標本化周波数は1024Hzであるため、この場合の解析上限周波数は1024/2.56=400Hzとなります。これをサンプリング数1024でFFT処理を行うと、ライン数も同じく1024/2.56=400となります。したがって、周波数分解能は1Hzで、図3のスペクトル分布を見ると、99Hzと101Hzの信号は分離できていることがわかります。



図1 時間信号波形の式


図2 時間信号波形


図3 スペクトル分布

 次に、サンプリング数を変えてみます。図4に示すように、FからH列を追加し、フーリエ解析のデータ範囲をB4からB259までとします。この場合、サンプリング数は256となります。標本化周波数は変わらないため、解析上限周波数は同じく400Hzですが、ライン数は256/2.56=100となります。したがって、周波数分解能は、400/100=4Hzとなります。
図5に示すスペクトル分布を見ると、99Hzの成分と101Hzの成分は一緒になり100Hzにピークが見られます。このように、FFT処理を行う際は、必要な周波数分解能が得られるようにサンプリング数を設定する必要があります。

 さて、図5を見ると、ピークが一つになってしまったこと以外にも、スペクトル分布の裾が広がっていることがわかります。これは、リーケージエラーと呼ばれる現象で、図1の信号波形から256個のデータを取り出してFFT解析を行うと、256個のデータが繰り返す図6のような信号波形として認識しています。図6を見ると、0.25秒ごとに振幅が大きく変化し、この影響がリーケージエラーとなります。リーケージエラーとその対策である窓関数については、後の回で説明します。


図4 サンプリング数256でのFFT解析を追加


図5 スペクトル分布


図6 時間波形

 FFTアナライザでは自動で解析が行われ、デフォルトの設定でもそれなりの結果が得られますが、解析対象の周波数成分を考慮したり、信号波形を確認したりして、正しい結果が得られるようにする必要があることがおわかりいただけたかと思います。

次回は、波形およびスペクトルの縦軸の関係、すなわち、振幅とスペクトル成分との関係について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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