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装置設計者のための騒音の基礎 第22回

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装置設計者のための騒音の基礎

パーシバルの定理

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。前回は、波形およびスペクトルの横軸の関係について説明しました。今回は縦軸の関係、すなわち振幅とスペクトル成分との関係について説明します。
 
 振幅とスペクトル成分との関係はパーシバルの定理に従います。パーシバルの定理とは、「関数の平方の積分とそのフーリエ変換の平方の積分とが等しい」というもので、下記の式で表されます。

 

 ここで、x は時間波形で、X はフーリエ変換です。 (2)式は、離散フーリエ変換についての表現で、時間波形x [n]の二乗の総和は、離散フーリエ変換X[k]の二乗の総和をデータ数 N で割ったものに等しいということを表しています。つまり、ある周波数のスペクトルの二乗をデータ数Nで割ると、その周波数の信号の振幅を二乗した形で求まります。

 では、エクセルのフーリエ解析を使って試してみます。信号として振幅1のホワイトノイズを用意します。図1に示すように、B列に=2*RAND()-1と入力します。次にC列でB列の値の二乗を計算します。データ → データ分析→フーリエ解析と選択し、D列にフーリエ変換結果を用意します。図2に示すように、E列に=((IMABS(D4))^2)/$B$1と入力し、スペクトルの二乗をデータ数 N で割ったものを計算します。


図1 信号のパワーの計算


図2 スペクトルのパワーの計算

 ここで、C列の総和とE列の総和を求めると、図2のC2セルの値とE2セルの値とは等しくなり、(2)式が成り立つことがわかります。 A列を横軸にC列を縦軸にプロットすると、図3に示す振幅の二乗の波形が得られます。同様にして、F列を横軸にE列を縦軸にプロットすると、図4に示すスペクトル成分の二乗をデータ数で割った値の周波数に対する分布が得られます。パーシバルの定理は、これらのプロットで囲まれた面積が等しくなるということを表しています。このことから、FFT解析では、縦軸をスペクトル成分の2乗すなわち、パワーで表示するパワースペクトルが主に用いられます。



図3 時間波形の振幅の2乗


図4 スペクトル成分の2乗/データ数

 

 ここで、第19回「FFT処理」 ではFFT変換結果をデータ数で割った値を用いたことについて説明します。(2)式の両辺をデータ数Nで割ると、(3)式が得られます。(3)式の左辺は、実効値の2乗となっています。また、(3)式の右辺の絶対値表示の内部がFFT変換結果をデータ数で割った値となっています。つまり、FFT変換結果をデータ数で割る操作は、信号の実効値と等価な値を求めていたことになります。

 FFTアナライザには周波数軸を対数スケールで表示する機能が付いているものもあります。騒音の解析では、高い周波数成分ほど周波数間隔が広がるような現象が多く、対数スケールにすると見やすくなるため、便利な機能ですが、厳密には正しくありません。例えば、図5は図4の周波数軸を対数スケールで表示したものです。図5を見ると低周波数側のスペクトルを過少にとらえてしまいますが、図4からは、低周波数側でのスペクトルの低下は見られず、ホワイトノイズの性質からもスペクトルの低下はないことはあきらかです。ただ、グラフから厳密に量関係を比較するようなことはそれほど多くはないため、周波数軸を対数スケールで表示する場合のリスクとしてとらえ、使い分けることが賢明と思われます。


図5 周波数軸を対数スケールで表示

 フーリエ変換は可逆変換であり、スペクトルを信号に変換することも可能です。これを利用して特定の周波数域を削除したり、ノイズを除去したりするのがFFTフィルタです。次回は、逆フーリエ変換について説明し、エクセルを用いてFFTフィルタによるノイズ除去を行ってみます。

 


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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