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装置設計者のための騒音の基礎 第23回

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逆フーリエ変換

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。フーリエ変換により信号から周波数スペクトルを求められますが、逆に周波数スペクトルから信号を生成することも可能で、逆フーリエ変換と呼ばれます。フーリエ変換の可逆性を利用したフィルタがFFTフィルタであり、FFTフィルタは周波数スペクトルの段階で特定の周波数成分を削除したり、ノイズ成分を削除したりした後に信号を生成することで、帯域削除やノイズ除去を行います。今回は、逆フーリエ変換について説明し、エクセルを用いてFFTフィルタによるノイズ除去を行ってみます。
 
 離散フーリエ変換は、(1)式で表され、信号 x[k] を周波数スペクトル X[i] に変換します。一方、離散逆フーリエ変換は、(2)式で表され、周波数スペクトル X[i] を信号 x[k] に変換します。



 ここで、jは虚数単位、i=0~N-1、k=0~N-1、Nはデータ数です。

 では、エクセルのフーリエ解析機能を使って、信号→周波数スペクトル→信号と操作を行って、同じ信号が得られるのか、試してみます。

 図1に示すようにA列に1/1024刻みで増加する数値を作成し、時間とします。次に、B列に振幅1で10Hzの正弦波を作成します。A列を横軸、B列に列を縦軸にプロットすると、図2の信号波形が得られます。データ → データ分析 → フーリエ解析と選択し、フーリエ解析ウィンドウの入力範囲にB列、出力先にC4セルを指定し、OKをクリックすると、C列に複素形式でフーリエスペクトルが出力されます。図1に示すように、IMREAL(C)とすると実部を、IMAGINARY(C)とすると虚部を取り出すことができます。実部を横軸、虚部を縦軸とした複素平面上の絶対値が振幅となり、実数軸からの回転角が位相となります。FFT解析では、通常は絶対値だけを利用します。

 次に、C列のフーリエスペクトルから信号を生成してみます。データ → データ分析 → フーリエ解析と選択すると、フーリエ解析ウィンドウが表示されます。入力範囲にC列、出力先にF4を選択し、逆変換(N)にチェックを入れて、OKをクリックすると、F列に逆フーリエ変換結果が得られます。逆フーリエ変換結果は複素形式で表示されるため、G列を=IMREAL(F)として実部を取り出すと、G列に元の信号と同じ信号が復元されます。


図1 エクセルシートへの数式の入力


図2 信号波形


図3 逆FFT変換

 

 次に、フーリエ変換と逆フーリエ変換を用いて、ノイズ除去を行ってみます。図4に示すように、前回使用したエクセルシートで、B列に振幅0.5で100Hzの正弦波を生成します。C列に、-0.5~0.5の範囲の乱数を生成し、B列とC列の和をD列に設定します。D列の信号は、図5に示すようなノイズを含んだ信号波形となります。D列の信号からFFTフィルタによりノイズを除去してみます。

 はじめに、D列の信号をFFT変換します。データ → データ分析 → フーリエ解析と選択し、入力範囲をD列に、出力先をE4に設定し、OKをクリックすると、E列にフーリエスペクトルが得られます。次に、図4のシートF列に示すように、「E列の振幅が0.1未満であれば0で、それ以外はE列の値となる」という条件をF列に入力すると、F列には振幅が0.1以上となるフーリエスペクトル成分だけが残ります。ここで、振幅は信号成分と対応させるため、フーリエスペクトルの絶対値をデータ数Nで割った値を用いています。次に、データ → データ分析 → フーリエ解析と選択し、入力範囲をF列に、出力先をG列に設定し、逆変換にチェックを入れて、OKをクリックすると、G列に復元された信号が得られます。復元された信号は複素形式で表されているため、H列を=IMREAL(G)として実部を取り出します。A列を横軸に、H列を縦軸にプロットしてみると、図6に示すように、振幅が0.5で周波数が100Hzの信号となり、ノイズが除去されたことがわかります。


図4 エクセルシートへの数式の入力


図5 ノイズを含んだ信号波形


図6 ノイズ除去後の信号波形

 

 FFTフィルタでは、特定の周波数範囲を除去するほかに、ノイズ除去の例のように特定の振幅以下を除去する、あるいは特定の周波数範囲を増幅するといったことが可能です。

 ところで、第21回「時間軸と周波数軸との関係」 で、データ数によりスペクトル分布の裾が広がる現象が見られましたが、これはリーケージエラーと呼ばれる現象です。リーケージエラーは窓関数を用いることで発生を抑えることが可能です。次回から、リーケージエラーと窓関数について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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