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装置設計者のための騒音の基礎 第24回

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装置設計者のための騒音の基礎

リーケージエラー

 この連載では、製品開発・設計をされる方を対象に、騒音に関する基礎的な事項を説明しています。第21回 「時間軸と周波数軸の関係」でスペクトルの裾が広がる現象が見られましたが、今回はこの現象すなわち、リーケージエラーについて説明します。
 
 リーケージエラーをエクセルのフーリエ解析機能で再現させてみます。図1のように、B列に振幅1で周波数が10.5Hzの正弦波を生成させます。図2が生成された信号波形になります。このB列の信号をフーリエ解析した結果をC列に出力します。次に、C列の絶対値をデータ数で割った値をD列に設定すると、D列に周波数スペクトルが得られます。図3の周波数スペクトルを見るとスペクトルのピークが1よりも小さく、またスペクトルの裾が広がり、あたかも10.5Hzの成分の一部が周囲に漏れ出している(リーケージ)ようになります。これがリーケージエラーです。フーリエ変換は連続データを対象としているため、フーリエ解析では与えられたデータが繰り返し再生されるとみなします。つまり、解析対象となる信号波形は図4に示すように、繋がり部分が鋭い谷を形成します。このように不連続な部分があると、リーケージエラーが発生します。リーケージエラーは波形の不連続により発生するため、解析対象の信号の周波数が周波数分解能の倍数で表せる場合は発生しません。この例では、周波数分解能は1Hz(標本化周波数1024Hz/サンプリング数1024)に対して、信号の周波数は10.5Hzと、周波数分解能の倍数で信号の周波数を表せないため、リーケージエラーが発生しています。


図1 エクセルシートへの数式の入力


図2 信号波形


図3 周波数スペクトル


図4 FFT解析から見た信号波形

 なぜ波形の不連続により、リーケージエラーが発生するのか、エクセルのフーリエ解析を使って試してみます。図5に示すように、B列に周波数1Hzの正弦波を生成します。次に、C列を=sign(B)として矩形波に変換します。sign()は引数が正の場合+1を、また、負の場合-1を、0の場合0を返します。C列の波形は図6に示す1Hzの矩形波となります。次に、C列の波形にフーリエ解析を行い、振幅の2乗としてパワーに相当する値をE列に表示させると、図7に示すパワースペクトルが得られます。パーシバルの定理から、信号のパワー(振幅1の矩形波なのでパワーは1)とパワースペクトルとは等しくなるため、1Hzのパワーが1となるはずです。ところが、図7を見ると、1Hzのパワーは1よりも小さく、代わりに3Hz·5Hz…のパワーが0よりも大きくなり、1Hzのパワーが流出しているように見えます。これは、フーリエ変換は三角関数を用いて表すため、不連続となる部分は高次の正弦波との組み合わせで表現せざるを得ないため、高次成分が発生するためです。図7を見ると、1Hzの矩形波は、1Hzの正弦波と3Hz、5Hz…の正弦波との組合せになっていることがわかります。この高次成分の部分がリーケージエラーとなります。


図5 エクセルシートへの数式の入力


図6 信号波形


図7 パワースペクトル

 リーケージエラーは不連続部分が生じることにより発生するため、信号波形を不連続部分が発生しないように加工できれば、リーケージエラーの発生を抑えられると考えられます。これが窓関数と呼ばれる手法です。次回は、窓関数について説明します。

 


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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