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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第4回 自由表面流解析(3)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

自由表面流解析(3)

 今回は VOF法 の注意点や最新の解析事例をご紹介いたします。

 まずはVOF法の注意点をご説明いたします。VOF法は 解析領域 の各 要素 に占める 流体 の体積率をF値として定義し、輸送方程式を解きます。計算が進みますと、図4.1のように要素により極小のF値が表れます。桁落ちを防ぐためにも倍精度で計算することを推奨しますが、計算を安定に進めるためにはF値のカットオフ(打ち切り判定)が必要です。カットオフされたF値をどのように処理するのかはプログラムコードごとに異なります。何も処理されなければ、例えば、閉じた解析領域であるにもかかわらず、解析時間が進むにつれて液体の体積が減少していくような解析結果となります。



図4.1 カットオフ説明図


 もう1つVOF法で重要なのが計算の安定性です。非定常解析では 時間刻み t の間に、流体が要素幅 L を越えて移動すると計算が不安定になります。界面が大きく変化するなど、計算が不安定な場合は t を小さく設定するか、図4.2に示す クーラン数 C により t が自動設定されるプログラムコードの場合には、 C を1よりも小さく設定します。



図4.2 クーラン数の説明図


 最新の流体シミュレーション解析ソフトウェアでは、VOF法と他の解析機能との組み合せが可能になっています。それにより 相変化 を伴う 自由表面 や物体の移動を考慮した自由表面流などが解析できるようになりました。今回は物体( 剛体 )の移動を考慮した自由表面流解析をご紹介いたします。

 物体(剛体)の移動を考慮する流体シミュレーション解析は、図4.3のように移動領域と静止領域の各要素を重ね合せる 重合格子 (overset grid)と、移動領域と静止領域を区別することなく要素を変形・再生成する方法に分けることができます。重合格子は要素を再生成する必要がないため、プログラムが複雑にならないことや計算安定性が長所ですが、計算精度を高めるために移動領域と静止領域の重ね合せる部分の要素分布(粗密)を合わせておく必要があります。



図4.3 重合格子(overset grid)


 それでは、今回も解析事例をご紹介しましょう。ウォーターアトラクションにおけるライド(乗物)の水上移動をVOF法と重合格子を組み合せて解析します。なお、ライドの移動は6DOF(6 Degrees of freedom)運動方程式を解析することにより、水流からライドが受ける力を考慮して並進および回転させます。

 ウォーターアトラクションは約20年前から日本各地のテーマパークに設置されてきました。アップダウンを繰り返しながら水上を進んでいくスリルと、水しぶきが乗客にかかるサプライズが人気のアトラクションです。乗客を併せたライドの重量や重心だけではなく、水流によりライドの速度や傾きが大きく変化するため、流体シミュレーション解析でライドの移動が予測できれば有用です。

 図4.4のように全長15 m(ライドの移動距離は10 m)、入口幅5.5 m、出口幅6.5 m、水深1.5 mの曲り流路に、図4.5のような大人4名が乗車できる直径3 mのライドを考えます。乗客の体重を併せて考慮し、1脚あたり86kgのイスを4つ設置します。また、乗客の安全のため、中央部には手摺り、周囲にはフェンスを設置します。そして、ライドが水に浮かぶように下部円柱とフェンスの密度を360 kg/m3 とします。なお、ライドの移動速度は水流で調節します。



図4.4 曲がり流路

  
図4.5 直径3mのライド


  図4.6は水上移動するライドの速度が約6 km/hの場合の解析結果です。図4.6のようにライドは水上を揺れながら移動します。図4.7は水上移動するライドの速度が約7 km/hの場合の解析結果です。ライドは転覆こそしませんが、傾きが大きく乗客の安全が保障できません。図4.8は移動距離に伴うライドの高さ位置を表しています。ライドの移動速度が6 km/hの場合では10 mで0.54 m、7 km/hの場合では10 mで1.2 mの高低差となります。ライドの移動速度が6 km/hの場合でも、かなり大きなアップダウンのあるウォーターアトラクションかと思います。



図4.6 ライドの水上移動(速度6km/h)



図4.7 ライドの水上移動(速度7km/h)



図4.8 移動距離に伴うライドの高さ位置

 次回はVOF法の課題である計算時間についてご紹介いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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