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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第5回 自由表面流解析(4)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

自由表面流解析(4)

 今回は VOF法 の課題である計算時間についてご紹介いたします。

 VOF法に限らず、 自由表面流 解析は非定常解析ですので、定常解析に比べて計算時間が増加します。計算が不安定な場合には、 時間刻み (あるいは クーラン数 )を小さくする必要があり、計算時間が増加します。また、数値計算誤差による界面拡散を抑えようとすれば、界面付近の要素 を細かくする必要があり、これも計算時間の増加となります。

 計算時間を短縮する方法は様々あります。実際に解析事例によりご紹介いたします。図5.1のような30,000kl級石油タンク(直径42.7 m、高さ24.4 m)のスロッシング現象を解析します。タンク内には26,000klの石油(密度 740 kg/m3 粘度 0.0026Pa·s、表面張力係数0.020 N/m)が貯蔵されています。石油の液面高さは18.2 mになります。液面に設置されている浮き蓋は今回の解析では省略します。この石油タンクに100 gal(震度5相当、加速度1 m/s2 )の横揺れが10秒間にわたり続き、その周期は長周期地震動として5秒とします。タンク内部を均一な直交格子で1,306,800要素に設定し、 MARS(Multi-interface Advection and Reconstruction Solver)法 で実時間60秒を解析します。なお、時間刻みはクーラン数0.9を超えないように自動設定しています。



図5.1 30,000kl級石油タンク


 図5.2は解析結果の液面挙動になります。背景色の青色は地震の横揺れが発生している10秒間、白色は地震の揺れが止まっている50秒間です。図5.2のように液面高さは揺れが止まってから数秒後に最大となります。また、液面高さは徐々に低くなりますが60秒後もスロッシングが続いていることがわかります。プログラムコードや計算マシンに依存しますが、計算時間は目安で4時間です。



図5.2 解析結果の液面挙動  


 それでは計算時間の短縮を検討しましょう。1方向への横揺れですので、図5.3のように対称面を設定すると要素数は653,400となります。これにより計算時間は52%短縮されます。



図5.3 対称面


 次に、プログラムコードがMPI(Message-Passing Interface)などにより並列化されていて、計算マシンがマルチコアCPUを有していましたら並列計算を試みます。実際に2並列計算を行うと計算時間はさらに47%短縮されます。

 次に、計算精度を保持しながら要素を粗くすることを試みます。図5.4のように液面の高低差が最大になる時の界面付近より下部の要素を粗く設定すると、要素数は505,296となります。これにより計算時間は23%短縮されます。

 


図5.4 要素分布



図5.5 計算時間短縮フロー

 

最後に、プログラムコードによっては1流体設定ができます。スロッシング解析では 液体 中に 気体 を巻き込むことがなければ、液体のみを1流体解析しても計算精度が保持できる場合があります。実際に1流体設定すると計算時間は30%短縮されます。

 図5.5に計算時間の短縮フローを示します。計算時間は初期設定よりも86%短縮され、4時間の計算時間が約30分となります。ここで計算精度の確認のため、図5.6のように液面挙動を比較します。左は計算時間の短縮検討後、右は検討前の液面挙動です。赤いラインは初期の液面高さから3.5 m高い位置を示しています。両者の液面挙動はほぼ一致していることがわかります。


図5.6 解析結果比較 (左:計算時間短縮検討後 右:計算時間短縮検討前)


 さて、100 galの横揺れ周期5秒を変更して再計算してみます。横揺れの継続時間10秒は同じです。図5.7は周期を変更した液面挙動の比較です。左は周期2秒、右は周期4秒の液面挙動です。液面高さは赤いラインを超えていませんので、周期5秒よりも液面高さが低いことがわかります。また、どちらも60秒後にはスロッシングが減衰され、揺れが収まっているのがわかります。このことから周期5秒では、スロッシングの固有周期と近いために共振現象が起きていることがわかります。



図5.7 周期変更比較 (左:周期2秒 右:周期4秒)


 次回は自由表面流解析の最後のコラムとして、ミクロスケールの解析事例をご紹介いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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