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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第17回 17.1 ディンプルの影響

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

ゴルフボール周りの流れ解析 (2)

17.1 ディンプルの影響

 前回はゴルフボールのディンプルによって、ボールの表面に小さな が発生することを見てきました。今回はディンプルによる空気抵抗低減のメカニズムに迫りたいと思います。まず、ディンプルが無いボールの周りの流れ場を見てみます。図17.1はボールの中心を通る断面の流速分布です。ディンプルが無い場合の流れ場の特徴は、ボールの真横より上流側で流れ がボールの表面から離れている( 剥離 している)ということです。そのために、ボールの下流側にできる 流速 が遅い領域の幅がボールの直径より広くなります。これはボールの表面に沿って流れてきた空気が、その勢いのために表面に沿い続けることができず離れてしまうということです。


ボール周りの流速分布
図17.1 ボール周りの流速分布(ディンプル無)


 図17.2はディンプルが有る場合の流速分布です。ディンプルがある場合は、ボールの表面に沿っている流れが真横を過ぎても表面から離れず、少し下流に進んだところでようやく離れる流れになっています。そのため、ボールの下流側にできる流速が遅い領域の幅がボールの直径よりも狭くなっています。


ゴルフボール周りの流速分布
図17.2 ゴルフボール周りの流速分布


 このような流速分布の違いはどのように生じるのでしょうか。図17.3はボールの下流側に発生している 渦管 の様子を示しています。なお、渦管はボールの中央から奥側のみ表示しています。ディンプルが無い左側のケースでは、ボールの表面から少し離れたところから渦管の発生が始まっており、比較的大きな渦管が生成されていることが分かります。一方、ディンプルが有る右側のケースでは、第16回でも見てきたように渦管の発生はボールの表面上から始まっており、生成される渦管の太さはディンプル無のケースに比べると細くなっています。ボール表面上に生成されたたくさんの細い渦管により、ボール表面近傍の空気と少し離れたところの速度の大きな空気との間に混合作用が働き、図17.2のようにボール表面から離れる位置が下流側にずれたのではないかと推測できます。以上見てきたような流れ場の違いにより、ディンプル無の Cd値 は0.53、ディンプル有の場合は 0.28となっています。数値の上からもディンプル有の方のCd値が小さくなる(空気抵抗低減)ことを確認できました。


ボールの下流側の渦管
図17.3 ボールの下流側の渦管


 直感的にはディンプルが無い方が表面が平滑で空気抵抗が小さくなりそうなものですが、ボールのように物体の表面が曲面の場合には、物体表面からの流れの剥離を止めることができないため物体の後方に大きなよどみ領域を作り、結果的に空気抵抗が大きくなってしまうということです。また、図17.3のディンプル無のケースのように大きな渦管が発生すると、大きな音の発生にもつながりますので、ディンプルのような表面の凹凸は空気抵抗を減らす効果だけでなく、騒音の低減にも役立つ可能性がある訳です。最後にボール周りの渦管のアニメーションをお見せします。



図17.4 ボール周りで発生する渦管





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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