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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第16回 16.1 ゴルフボールの流れ 解析概要、16.2 ゴルフボールの流れ 解析結果

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

ゴルフボール周りの流れ解析 (1)

16.1 ゴルフボール周りの流れ 解析概要

 今回は身近な現象を計算してみようということで、ゴルフボール周りの 流れ解析 の結果をご紹介します。ゴルフボールは流体力学的に非常に興味深い対象です。みなさんはゴルフボールの表面が平滑ではなくたくさんの凹みが付けられている理由をご存知でしょうか。ゴルフボールはその表面に付けられた凹み(ディンプル)によって空気抵抗を低減していると言われています。その表面のわずかな形状の違いで空気抵抗を低減し、結果としてドライバーによる飛距離を大きく改善しているという訳です。その興味深いゴルフボール周りの 流れ を解析してみます。解析対象は図16.1のようにディンプルの有りと無しの2種類のボールとして、ディンプルの影響に注目します。


ゴルフボールモデル
図16.1 ゴルフボールモデル


 解析は図16.2のように直方体の中にゴルフボールを配置した解析モデルで行います。実際はゴルフボールが空気中を飛んでいくわけですが、ここではゴルフボールを空間に固定して、前からゴルフボールの飛行速度と同じ 速度 で空気を流入させます。今回は300㎞/hで飛ぶ状況を想定しています。このような解析によりゴルフボールが飛んでいるときのボールの周りの流れの様子を計算できます。ただし、ゴルフボールが回転する効果は再現しない計算となります。計算は LES で行います。


ゴルフボール周り流れ解析モデル
図16.2 ゴルフボール周り流れ解析モデル


16.2 ゴルフボール周りの流れ 解析結果

 ゴルフボール周りの流れ解析の結果を示します。図16.3はゴルフボール周りの流れの様子です。上のディンプル有のケースではボールの上下から小さい が発生している様子が見えます。一方、ディンプル無のケースでは、ボールの後ろ側に大きな渦が発生し、ディンプル有のケースとはボール後方における渦の発生の仕方が大きく異なっています。


ゴルフボール周りの流れの様子

ゴルフボール周りの流れの様子
図16.3 ゴルフボール周りの流れの様子


 このような渦構造の差異はどのように生じたのでしょうか。次にゴルフボール表面近くの流れの様子をもう少し詳しく見てみます。図16.4はボール表面近くを拡大した流れの様子です。ディンプル有のケースでは、ディンプルの部分で流れが小さな渦を巻いていることが分かります。そのディンプルで発生した小さな渦が影響しあい、下流に向かって複雑な流れへと発展しています。一方、ディンプル無のケースでは表面における渦の発生は見られず、ボールの後ろの方で流れが表面から離れる際に大きな渦が発生しています。


ゴルフボール表面近くの流れの様子


ゴルフボール表面近くの流れの様子
図16.4 ゴルフボール表面近くの流れの様子


 次にゴルフボール周りの 渦管 の様子をお見せします。ディンプル有のケースでは図16.4の流速ベクトルの断面図で見たように、表面のディンプルにおいて細かい渦管がたくさん生成されていることが分かります。ディンプル無のケースではボール表面における渦管の発生は見られません。
 今回はゴルフボールのディンプルによって表面近くに小さい渦が発生することを見てきました。小さい渦の発生がどのように空気抵抗低減に作用するのでしょうか。その辺りは次回にお話ししたいと思います。


ゴルフボール表面近くの渦管の様子

ゴルフボール表面近くの渦管の様子
図16.5 ゴルフボール表面近くの渦管の様子





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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