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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第15回 15.1 DESによる円柱周り流れの計算例

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

第15回 乱流の計算方法(9) ハイブリッドモデル

15.1 DESによる円柱周り流れの計算例

 今回はハイブリッドモデルのひとつである DES(Detached Eddy Simulation) による計算例をご紹介します。DESの目的は、壁から離れて流れる 、Detached eddyの動きを LES になるべく近い状態で捉えながら計算コストを下げることです。渦が壁面上で発生して離れていく現象として有名なのが円柱周り流れにおける「 カルマン渦 」です。カルマン渦とは図15.1のように円柱表面から左右交互に渦が放出される現象です。カルマン渦は同じ場所に渦が留まらない非定常的な現象ですので、平均場を計算することを前提としている RANS ではうまくカルマン渦を再現することができません。


円柱周り流れのカルマン渦
図15.1 円柱周り流れのカルマン渦


 図15.2は「第13回 乱流の計算方法(7)」で紹介したLESの計算例で使用した条件と メッシュ を用いて計算した例で、円柱後方の 渦管 の様子を示しています。上からDES, LES, RANSによる結果を示しています。DESとLESはともに円柱後方に非常に細かい渦管が生成されています。そして、その後ろには大きく蛇行するような渦管の構造が見えます。一方、RANSの結果では、円柱後方の細かい渦管は見られず、円柱と並行に並んだ比較的太い渦の列しか再現されていません。


円柱周りの流れの渦管
図15.2 円柱周り流れの渦管


 このようにDESはLESに近い渦管分布を再現しているように見えますが、よく見ると大きな違いもあることが分かります。図15.3はDESとLESの円柱の後方を拡大した図です。上がDESで、下がLESですが、円柱直後の渦管の様子がかなり異なっています。DESではほとんどが円柱の軸と並行な渦になっていて、円柱表面からシートが延びているような形になっています。一方、LESではDESの渦管よりも複雑な様相を呈しています。これはDESでは、壁近傍をRANSで計算しているために壁近傍における非定常的な渦運動が再現されていないことが原因と考えられます。


円柱後方を拡大した渦管の様子
図15.3 円柱後方を拡大した渦管の様子


 もう少しDESとLESの結果の違いを見てみます。円柱表面における境界層の発達の違いです。 境界層 とは物体表面にできる周囲より 速度 の遅い 流れ の領域のことです。図15.4は円柱表面を拡大した 流速 の大きさとベクトルの分布です。DESよりもLESにおける境界層が早く発達し、より前側で流れが 剥離 していることが分かります。

円柱表面の流速分布
図15.4 円柱表面の流速分布

では、なぜ円柱表面近傍の流速分布が異なっていたかということですが、 渦粘性係数 分布を比較してみるとわかります。図15.5は円柱表面近傍の渦粘性係数の分布です。DESでは円柱の後方にしか緑から赤の渦粘性係数が大きな領域が認められませんが、LESでは円柱表面の前方でも渦粘性係数が大きな領域が見られます。つまり、大きな渦粘性係数が予測されているために早くから境界層が発達したということです。図15.2のようにDESにおける渦構造はLESと似ているものの、LESに比べてシンプルな渦構造しか予測しないという違いがありましたが、両者の違いは円柱表面における境界層の発達から始まっていたということです。これまで 乱流 乱流モデル についてひととおりお話ししてきました。次回は身近な現象の計算例をご紹介します。


円柱表面の渦粘性係数
図15.5 円柱表面の渦粘性係数





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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