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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第14回 14.1 ハイブリッドモデル概要、14.2 DES、14.3 VLES

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

乱流の計算方法 (8) ハイブリッドモデル

14.1 ハイブリッドモデル概要

 今回は「 ハイブリッドモデル 」についてお話しします。これまで 乱流 の計算方法として、 DNS RANS LES の3種類を説明してきました。DNSはまだまだ研究レベルに留まる計算手法ですが、最後のLESでも計算負荷はRANSと比べるとかなり高く、現実的には実施できないという場面も少なくありません。そこで、RANSとLESとを組み合わせた「ハイブリッドモデル」が考案されました。ハイブリッドモデルとは計算領域のある部分をRANSで計算し、残りの部分をLESで計算するというものです。これは計算負荷が高くなる部分をRANSで計算として、LESの特長を残しながら全体の計算負荷を抑えようとするものです。ハイブリッドモデルには、いくつかの計算方法が提案されています。以下、 Detached Eddy Simulation(DES) Very Large Eddy Simulation(VLES) というハイブリッドモデルについて説明します。

14.2 Detached Eddy Simulation(DES)

 「Detached Eddy」という言葉は、「壁から離れた 」という意味です。乱流の渦は速度差で発生しますが、壁は渦が発生する場所のひとつです。壁の存在によって付いた速度差で発生した渦が流れに乗って、壁から離れたものが「Detached Eddy」です(図14.1)。DESでは、この壁から離れた渦を計算することを主目的としています。一方、壁近くにある小さい渦は直接計算せず、RANSによる計算として平均場だけを計算します。こうすることで、最も細かい メッシュ が必要で、計算負荷に大きな影響のある壁近くのメッシュを粗くすることができ、計算負荷をLESに比べて下げることができます。ただし、渦の発生場所である壁近くをRANSに頼るために、一番重要な部分を計算出来ていないという指摘もあります。


Detached Eddy
図14.1 Detached Eddy


 DESでは、「乱流スケール」という渦の大きさを示す指標を使って、RANSとLESを切り換えています。乱流スケールとは、 乱流エネルギー kと 乱流消失率 ε を用いて次のように計算される値です。



この乱流スケールとメッシュサイズを比較して、メッシュより乱流スケールが小さいときはRANSによる計算を行い、大きいときにはLESによる計算を行います。ここでの「LESによる計算」とは、厳密にはLESと同じ計算ではありません。LESに近い計算という意味です。壁の近くでは前述の通り、渦の大きさは小さくなりますのでRANSの計算となります。一方、壁から離れた渦が大きい領域ではLESでの計算となり、Detached Eddyを計算します(図14.2)。


DESのイメージ
図14.2 DESのイメージ


14.3 Very Large Eddy Simulation(VLES)

 「Very Large Eddy」とは、LESで計算する渦のうち、大きな渦のみ計算するというイメージです。VLESでも、基本的な考え方はDESと同じで、壁近くのLESでは細かいメッシュが必要になるところをRANSで計算し、それ以外をLESで計算するものですが、RANSとLESの切り換え方法が異なっています。ここでは2つの方法を紹介します。ひとつ目の方法は、Ruprechtらの空間フィルターを利用する方法です。図14.3のようにRANSの方程式で計算された乱流エネルギーにメッシュサイズのフィルターをかけ、残ったメッシュサイズ以下の小さな渦に関わる乱流エネルギーのみを用いて 渦粘性係数 を計算します。こうすることで、メッシュサイズで捉えられる大きな渦に作用する渦粘性を抑制して、そのサイズにおける(非定常的な)渦運動を捉えることを可能とします。


RuprechtらのVLES
図14.3 RuprechtらのVLES


 2つ目の方法は、BattenらのRANSによる渦粘性係数とLESによる渦粘性係数の大小関係でRANSとLESを切り換える方法です。RANSとLESの渦粘性係数の定義は次の通りです。



ここで、Cμ, CSはモデル定数、ρは流体密度、はフィルターサイズ、はせん断の大きさです。RANSの渦粘性係数は乱流スケールに比例しますが、LESの渦粘性係数はフィルターサイズ(つまり、メッシュサイズ)と、せん断の大きさに比例します。Battenらの方法では、RANSの渦粘性係数がLESの渦粘性係数より大きいときはLESの渦粘性係数を採用、つまりLESの計算を行い、逆にLESの渦粘性係数が大きいときはRANSの計算を行います。LESの渦粘性係数は前述のようにメッシュサイズに比例しますので、同じサイズの渦(乱流スケール)に対しては、メッシュが粗いときはRANSの計算、細かいときにはLESの計算となります(図14.4)。


BattenらのVLES
図14.4 BattenらのVLES


 いずれのハイブリッドモデルにも共通していることは、メッシュが細かい領域で渦粘性係数の大きさをRANSに比べて小さくして、メッシュで捉えられる渦運動が消えない(拡散しない)ようにしているということです。つまり、流れ場をメッシュサイズより大きな渦の部分と小さい渦の部分に分けたときに、RANSでは渦のサイズに依らず、非定常的な渦は全てモデル化するので、渦粘性係数はその分大きな値となります。一方、LESではメッシュサイズよりも大きな渦はモデル化しないで直接計算するので、渦粘性係数はメッシュサイズよりも小さい渦の部分だけのモデル化になり、値が小さくなります。このような背景から、渦粘性係数を抑制することがLESに近い計算を実現します。次回はハイブリッドモデルの計算例についてお話しします。  





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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