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船のCFD 11. キャビテーションとは

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船のCFD

11. キャビテーションとは

水は常温常圧下では液体ですが、温度や圧力が変化すると氷や水蒸気に変化します。温度が沸点まで上がって液体が蒸発して気体に変化することを沸騰と呼ぶのに対して、圧力が飽和蒸気圧以下に下がることによって蒸発することをキャビテーションと呼びます。また、キャビテーションにより生じた水蒸気の泡はキャビティと呼ばれます。キャビティとは空洞とか穴という意味で、キャビテーションとはもともと隙間がなかった液体が強く引っ張られることで空洞ができてしまう現象であると考えることができます。



水の状態図


キャビテーションが発生しやすいのは、流体が加速されて圧力が低下する場所で、船ではプロペラです。キャビテーションは性能の低下や騒音、振動、エロージョンの原因になるため、その影響を予測して適切な設計を行わなくてはなりません。
小さいプロペラで大きな推力を出そうとすると、翼に発生する圧力差が大きくなりキャビテーションが発生しやすくなります。キャビテーションを防ぐためには翼の面積を大きくして圧力差が小さくなるようにすれば良いのですが、効率が犠牲になります。そのため、実際の設計ではキャビテーションの影響を許容範囲内に収めつつ、効率を最大化することが求められます。


2次元翼のキャビテーションのストロボ写真を下に示しました。翼の上面にはシート状になった水蒸気の部分が見られ、下流側には雲のように見える気泡群が観察できます。シート状のキャビティをシートキャビティ、それが分離して分裂してできた雲状のキャビティをクラウドキャビティと呼ぶこともあります。



2次元翼のキャビテーション


キャビテーションは一般の人にとって縁遠いものですが、身近なところでは指などの関節がポキッと鳴るのはキャビテーションのためであると考えられています。関節は関節液という液体で満たされていますが、関節を強く曲げたり引っ張ったりしてその圧力が水の蒸気圧以下にまで下がると、水蒸気の気泡が一気に成長しポキッっという音が発生します。関節液の中には空気が溶け込んでいて、キャビティが出来る際に空気も一緒に析出します。圧力が元に戻ると水蒸気は水に戻りますが、析出した空気は関節液の中にしばらくの間、気泡として残ります。関節液内に空気の気泡がある状態では、関節を強く引っ張っても空気の部分が膨らむことで圧力があまり下がらなくなります。これが一度関節を鳴らすと、しばらくの間は鳴らすことができないことの理由です。時間が経って空気の泡が液中に溶けて消滅すると再び鳴る状態に戻ります。


キャビテーションはとても複雑な現象なので、CFDで扱うためには現象をかなり単純化したモデルが必要になります。次回はCFDにおけるキャビテーションの計算方法について解説します。

 





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

 

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