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船のCFD 14. 乱流モデル

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船のCFD

14. 乱流モデル

今回は船のCFDにおける乱流モデルについて解説します。船体周り流れの計算で乱流モデルによる差が顕著に表れるのは船尾付近の剥離流れです。タンカーやばら積み船のような肥大船型では下の図のように船尾のビルジ部(平らな船底の縁の丸まっている部分)で境界層が剥離してビルジ渦と呼ばれる左右で一対の縦渦が形成されます。ビルジ渦はプロペラ面を通過するので推進性能に与える影響も大きく、CFD解析でもビルジ渦の強さや位置を正確に捉えることが重要です。この渦によってプロペラ面の伴流は特徴的な捻れを持った分布形状になります。



船尾の剥離流れと「ビルジ渦」


例として、「4. 船体抵抗の推定(2)-粘性抵抗の推定」と同じJBC[1]の周りの流れで乱流モデルの影響を見てみます。模型の船長Lは7m、速度Uは1.179m/s、レイノルズ数Re=UL/vvは水の動粘性係数)は7.46×106です。Spalart-Allmarasモデル、RNG k-εモデル、SST k-ωモデルの3つの渦粘性型乱流モデルによる計算結果と海上技術安全研究所によるPIV計測の結果[1]を比較したものを以下に示します。

プロペラ面の主流方向流速分布の比較


RANS計算で標準的に用いられる渦粘性型の乱流モデルは縦渦の強さを過小評価してしまうという欠点があることが知られています。Spalart-Allmarasモデル、RNG k-epsilon;モデル、SST k-&ωモデルの順に流速分布は実験に近くなっていますが、いずれの計算結果でも伴流の「捻れ」は実験より小さく、ビルジ渦の強さが過小評価されていることが分かります。船体周り流れの計算ではSST k-ωモデルが用いられることが多いですが、これはSST k-ωモデルが完全ではないものの比較的マシな結果を与えるからであるといえます。

船に関するCFDにおいて乱流モデルの違いの影響が明確に表れるもう一つの場面は、プロペラ性能の計算です。「7. プロペラの性能の推定(2)」でも説明した通り、模型プロペラの周りの流れは、船体周りの流れと比べるとレイノルズ数が低いことから翼面の境界層の大部分が層流状態になります。このとき、SST k-ωモデルで計算を行うと効率の値が小さくなってしまうので、層流状態から乱流遷移を考慮出来るk-kl-ωモデルを使う方が望ましいです。乱流状態と層流状態の境界層の違いは、限界流線でみるとよく分かります。乱流状態では限界流線はほぼ並行ですが、層流状態では境界層が剥離し遠心力により表面では半径方向の流れが生じていることが分かります。

プロペラ翼負圧面の限界流線の比較

参考文献 [1] Proceedings of Tokyo 2015, A Workshop on CFD in Ship Hydrodynamics (2015), Tokyo, Japan

 





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

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