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船のCFD 13. キャビテーションの計算例

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船のCFD

13. キャビテーションの計算例

船のプロペラは翼幅を小さくして翼の面積を小さくすると効率が高くなりますが、翼の両面の圧力差が大きくなりキャビテーションの発生量は増加します。そのため、実際の設計では下の図に示すようなキャビテーションの悪影響を許容範囲内に収めながら、プロペラの効率をできるだけ高くすることを目指します。



キャビテーションの影響


一般の商船では船体の振動の原因になることから(1)の圧力変動が主な制約条件になっており、(3)のエロージョンにも注意が払われます。一方、モーターボートのような高速船ではキャビテーションの発生量が大きいので(2)の性能低下が主な問題になります。(4)の水中騒音は艦艇では従来から重要ですが、一般商船でも海洋生物への影響が懸念されることから国際的な規制が強まりつつあり、近年注意が払われるようになってきました。

ハイスキュー型のプロペラを装備した初代青雲丸のCFDによるキャビテーション計算例[1]を下に示します。


キャビテーション計算の例[1]


船の後から見るとプロペラは時計回りに回転していますが、プロペラ翼が12時くらいの位置に来たところで翼面にキャビテーションが発生し、2時くらいの位置まで来ると消滅する様子が分かります。これは船体の影響によってプロペラに流入する流れが翼の角度毎に変化するためです。

実験[2]と計算のキャビテーションパターンの比較を下に示します。計算でのキャビティの形状と大きさは実験と概ね一致していることが分かります。なお、計算ではボイド率が10%を越える領域をキャビティとして表示しています。



圧力変動、エロージョンおよび水中騒音には大小様々なキャビテーション気泡群の体積変動を含む複雑な現象が関係しているため、現在用いられている現象を単純化したモデルで直接予測することは困難です。しかし、圧力変動などのキャビテーションの影響の大きさはキャビテーション発生量と強い相関関係があるので、キャビテーションの発生量を正しく予測出来ればその影響の大きさもある程度推定できます。そのため、キャビテーションの予測は数値計算を単独で行ってもその結果を評価することは難しく、常に過去の知見と照らし合わせながら評価することが重要であると言えます。
圧力変動の低次成分については計算で直接求めることも可能であり、水中騒音やエロージョンについても別のモデルを組み合わせることで定量的に求めようとする試みが行われており、今後の発展が期待されています。

[1] Tachikawa, T., Hasuike, N. and Fujiyama, K., CFD simulation of propeller noise, 22nd Numerical Towing Tank Symposium (NuTTS 2019), Tomar, Portugal, 2019
[2]黒部雄三, 右近良孝, 小山鴻一, 牧野雅彦, 青雲丸の実船対応キャビテーション試験, 船舶技術研究所報告, 第20巻, 第6号, pp, 15-49, 1983

 





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

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