船のCFD 12. キャビテーションの数値モデル
12. キャビテーションの数値モデル
キャビテーション流れは液体と気体(蒸気)からなる混相流の一つなので、まず混相流の数値モデルが必要です。混相流の質量と運動量の保存を表す混相流モデルと、蒸発による蒸気の生成と凝縮による蒸気の消滅を表すキャビテーションモデルを組み合わせることでキャビテーション流れの数値モデルが構成されます。
現実の気液二相流では、空間のある一点は気相であるか液相であるかのいずれかですが、一般的な混相流モデルでは平均化した体積分率を用いて相の分布を表します。現実には水と空気は分子レベルで混じり合うわけではなく、気泡という形で分散しているわけですが、あたかも完全に混じり合っているかのように取り扱うわけです。
混相流モデルのイメージ
気液二相流の混相流モデルは液相と気相の速度をどう扱うのかということによりいくつかの種類に分類されます。液相と気相の速度差が重要な場合には、それぞれの速度を解く二流体モデルが用いられます。キャビテーション流れでは気液間の速度差は無視できる場合が多いので、ひとつの速度を解く一流体モデル(混合物モデル)が用いられる場合が多いです。
混相流モデルの速度以外のもう一つのポイントは圧縮性です。キャビテーション流れでは、液相部分と気相部分はそれぞれ非圧縮性流れと考えても差し支えないですが、相変化があることで平均の密度が変化するので、全体を圧縮性流れとして扱う方法もあります。非圧縮性の場合と圧縮性の場合で数値解法が異なるので、どちらの手法を選択するかによってモデルの定式化も異なってきます。
非圧縮の解法ではナビエストークス方程式の密度と粘性を混合物の密度と粘性に置き換えた混合物に対する方程式が解かれます。気相の体積率をαとすると、液相の体積率は1-αです。気相の体積率はボイド率と呼ばれることもあります。混合物の密度ρm はρl とρg はそれぞれ液相と気相の密度として、
となります。粘性についても同様に体積比を重みとした平均が用いられることが多いです。
気相体積率αは以下の方程式を解くことにより求められます。
ReとRc はそれぞれ、蒸発による蒸気の生成と、凝縮による蒸気の消滅を表す項で、Full cavitation model[1]やKunzのモデル[2]など、いくつかのモデル式が提案されています。モデルにより多少の違いはありますが、圧力p が飽和蒸気圧p v より低いときにRe が正になって蒸気が生成され、逆に圧力が飽和蒸気圧より高いときにRc が正になって蒸気が消滅するという点は共通しています。
次回はキャビテーションモデルを使用した実際にプロペラのキャビテーションの解析を行った例を紹介したいと思います。
プロペラ模型のキャビテーション
[1] Singhal, A.K. et al., "Mathematical basis and validation of the full cavitation model", J. Fluid Eng., Vol. 124, 2002.
[2] Kunz, R.F. et al., "A preconditioned Navier-Stokes method for two-phase flows with application to cavitation prediction", Comp. & Fluids, 29, 2000.
著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得
デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。