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船のCFD 15. 船のCFDにおける課題

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船のCFD

15. 船のCFDにおける課題

このコラムではこれまで14回に渡って船のCFDの現状を紹介してきました。抵抗値、自航性能、プロペラ性能などの予測精度は既に十分に実用になるレベルに達していますが、まだ不十分な点も多くあります。最終回の今回は船のCFDで将来改良が期待される要素について解説したいと思います。

 

実船周り流れ

このコラムで紹介した船体周りやプロペラ周りの流れの計算は全て模型を対象としたものです。船の大きさにもよりますが実船ではレイノルズ数が2桁以上大きく、抵抗値や自航要素の値が大きく変わるので、実船の性能は水槽試験結果や水槽試験に対応するCFD計算の結果から半経験的な手法によって外挿することによって求めます。

実船では速度と馬力の関係だけは分かりますが、船体抵抗や自航要素、プロペラ性能といった個別の値を計測することは出来ません。現在の外挿法はトータルとしては実船の試験結果と大きく矛盾しないようになっていますが、足し合わされている個別の要素がそれぞれレイノルズ数によってどのように変化するかはよく分かっていないというのが現状です。例えば省エネ付加物などでは模型と実船で効果が大きく異なる場合もあり、そのようなときに現在の外挿法では実船の性能を正しく推定できないという問題があります。

この問題はCFDの課題というより船の流体力学の古典的で重要な課題であり、実船での計測や、高レイノルズ数での実験、実船スケールのCFD計算などを積み重ねることにより理解を深めていく必要があると言えます。

 

乱流のモデリング

前回の「14.乱流モデル」でも紹介しましたが、実船どころか模型スケールであっても船尾の剥離流れを完全に予測出来る乱流モデルはまだ存在しません。乱流の直接シミュレーション(DNS)が適用可能になれば乱流モデルは不要になりますが、量子コンピュータのような革新的な計算機が現れない限り、現在の延長線上にある計算機では将来も船周りの流れのDNSは不可能と言えます。船体のスケールと乱流の渦のスケールの違いが大きいことが、DNSが難しい理由です。

平均化した方程式を解くRANSでは乱れの成分を全て乱流モデルで扱うので、乱流モデルに対する依存度が高くなります。レイノルズ応力モデル(RSM)などのより高度で複雑な乱流モデルを用いて平均化した流れをより高精度に解くことを目指したり、平均化を行わず大きいスケールの乱れを直接解くLESを行ったり、または両者のハイブリッド的な手法を検討したりなど、現在も多くの研究が続けられておりその進展が期待されます。

 

キャビテーション

乱流と同じくキャビテーションも流れ全体のスケールと気泡のスケールの違いが大きいことから小さいスケールの現象を平均化してモデルで表すことが必要です。下の写真を見ると、キャビテーションは乱流と密接に関係していて乱流による時間的および空間的な圧力の変動の影響を強く受けていることが分かると思います。従ってキャビテーションをどのようにモデル化するかは乱流をどのように扱うかということに依存します。これまでは混相流のRANSとキャビテーションモデルを組み合わせた計算が主流でしたが、将来的にはLESで渦構造を再現するキャビテーション計算が行われるようになると思います。その場合に適したキャビテーションモデルはどのようなものになるのかを研究する必要があると考えます。



2次元翼のキャビテーションのストロボ画像


もちろん、ここに挙げたもの以外にも様々な課題が残されており、日々研究が進められています。

本連載は今回が最終回となります。最後までお読み頂きありがとうございました。
この連載が少しでも皆様の参考になりましたら幸いです。

 





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

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