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株式会社日建設計 様

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株式会社日建設計 様インタビュー

熱流体解析ソフトウェア「STREAM」を駆使して多様なシミュレーションで
設計を支援する組織設計事務所の全社的BIM戦略

2012年1月、日本を代表する組織設計事務所である日建設計は、BIMを支援 する新組織として、デジタルデザイン室を設置した。 これまでもBIMを推進してきた同社だが、これによりその取り組みをさら に本格化させていく。そしてその柱の1つとなるのが、デジタルデザイン室 CAS(Computer Aided Simulation)チームによるシミュレーションを活用した環境・設備設計としてのBIMである。 この取り組みについて、CASチームを率いる環境・設備技術部の永瀬修氏に お話しを伺った。


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株式会社日建設計
設備設計部門 環境・設備技術部 主管
兼 設計部門 デジタルデザイン室 永瀬 修 氏

幅広いシミュレーション活用でBIMを支援するCASチーム


 「デジタルデザイン室CASチームでは、より広範囲かつ迅速に環境シミュレーションを行い、社内のBIMをサポートしています。特殊な空間の解析はもちろんのこと、通常のプロジェクトの温熱環境や風環境、そして光や音響のシミュレーションなども行っています」と語る永瀬氏は、環境・設備技術部で主管を務め、デジタルデザイン室のCASチームも兼務している。入社以来20数年、設備設計を軸に、関連性の高い解析の分野にもいち早く取り組んできた、いわばシミュレーションのプロフェッショナルである。

 「私が入社した当時、日建設計ではすでに熱流体解析ソフトのSTREAMを導入し、気流解析等への活用を進めていました。日本の設計事務所としては、かなり早い取り組みだったといえるのではないでしょうか」。当時はコンピュータのパワーも充分ではなく、1物件のシミュレーションに3ヵ月かかることもあったという。裏を返せば、当時は同社の設計者にとってもシミュレーションは、ある種の特殊な実験的取り組みだったともいえる。しかしその後、ハードもソフトも急速な進化を遂げ、同社の設計者によるシミュレーションの活用も大きく広がった。いまや、永瀬氏らが社内で請負う解析作業は年間100件を超え、月10件ほどに達しているという。

 「もちろん、解析に対する設計者のニーズは、当時からあったと思います。特に当社の設計者の場合、小さなプロジェクトでも何か特徴的なものを創るように求められますから、どのような設計にするかを考える中で、当然こだわりも生まれてきます。そしてそこには、"実際にどうなるかを知りたい" という要望もあったことでしょう。しかし、当時の設計者は、それらを解決するシミュレーションという道具を、今ほど身近に感じていなかったかもしれません」。

 その意味で大きな転機となったのがBIMの登場である。特に業界に先んじてその研究に取り組み、いち早くデジタルデザインセンター(デジタルデザイン室の前身)を設置するなど普及推進に努めてきた日建設計では、シミュレーションに対する設計者の理解も比較的早く進んだのだ。

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BIMの急速な普及とともに内外で高まるシミュレーションへのニーズ


 「シミュレーションに対する設計者の理解は人それぞれですし、体制も不十分な面はあります。しかしBIMの普及により、私たちもいろいろな活動ができる環境が整ってきました。そしてクライアントの意識も変わりつつあります」。前述の通り、永瀬氏らは20年余も解析の活用に取り組んでいるが、歴史ある組織設計事務所の同社では十年来の顧客も少なくない。そうした顧客への提案の場で、たとえば「以前、別のプロジェクトでこういうシミュレーションを見せてもらったが、今回も同様にやってもらえないか?」と求められるケースが増えているのである。

 「実際、一度シミュレーションを活用して提案すると、次回もやって欲しいと要望するクライアントがとても多いのです。図面やパースでは伝えにくい機能や性能の特性も視覚的に見せられるため、クライアントにもわかりやすく、プランの善し悪しなども明確な根拠に基づいて判断できるからです」。特に近年は、省エネルギーやエコロジーへ向かう世界的なトレンドが生まれ、イニシャルコストとランニングコストの比較など、多くの解析結果を検証しながら、より効果的な省エネビルを目指す流れが強まっている。そして、そうした省エネを目指す企業の対外的アピールの重要性も増し、そのアピールを視覚的に行えるシミュレーションへのニーズも必然的に拡大しているのだ。

 このような日建設計におけるシミュレーション活用の新しい流れを象徴するプロジェクトが、2011年3月に竣工したソニー株式会社の「ソニーシティ大崎」である。地上25階建てのこのオフィスビルには、環境負荷低減のための多彩な先端技術が採用された。中でも大きな注目を集めたのが、都心部特有のヒートアイランド現象を抑制する世界初の「すだれ」状環境配慮型外装システム「バイオスキン」だ。これは多孔質の陶器管に雨水を流し、陶器管の表面に浸透した水が蒸発する際に生じる気化熱で、周辺の空気を冷却するという画期的な技術。日建設計では、実物大模型による実験や数値解析の結果に基づいて、ビルの東面全体にこのバイオスキンを配したのである。

 「バイオスキンのプロジェクトでは、その効果について、STREAMを活用して検証しました。実際に、ある条件下においてエントランスの周辺温度が2℃程度 下がるというシミュレーションを、実測データに基づいて行ったのです」。具体的には、東京大学が行った装置実験で得られたデータ等をもとに、壁面全面にバイオスキンを取り付けた場合と半分にした場合など、さまざまに条件を変えながら、夏の卓越風時の周辺環境の温度変化をシミュレートしていったのである。当然、周辺ビル群はすべてモデル化し、道路も日光に当たれば温度上昇するので、その表面温度も計算して取り入れたという。

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ソニーシティ大崎 /©鈴木豊

 「ある意味、出尽くした感があった省エネ技術の中で、新しい素材による取り組みということで大きな話題にもなりました。また、クライアントも同ビルのエントランスにモックアップや解析結果を展示して、PRに活用してくださっています」。しかし、このバイオスキンのような大規模プロジェクトでなくても、シミュレーションはさまざまなプロジェクトで幅広く活用でき、活用されるべきだと永瀬氏は考えている。たとえば設計者が設計をしながら、本当にこうなるのだろうか?という不安がある時、シミュレーションすることで理解し、納得ができれば、将来的な知見としても設計の糧になっていく。さらにそういう経験値を積み重ねていけば、やがて“問題が有りそうか・無さそうか”を感覚的に把握できるようになり、必要な解析だけを実行すればよくなるのだ。そのためにも、設計者自身が解析ツールを使うことが重要なのである。

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バイオスキンの検討温度分布
(夏期、南風、14時)

 「シミュレーションを使えば、たとえば煙突の排熱が外気取り入れ口にどれだけ影響があるのかなどといった、今までは見えなかった、わからなかったものを数値化して見ることができます。設計者が自分の手でSTREAM等の解析ソフトを使い、温度だけでなくいろいろな指標を設計にフィードバックできるようになれば、本当に強力な設計支援ツールとして、設計者の武器になるのは間違いないでしょう。もちろんそのために学ばなければならないことがいろいろとありますが、特にシミュレーションというものは、境界条件の違いによって結果が大きく変わるため、“本当に正しい結果なのか?”ということの検証が大事なのです。設計ツールとしてSTREAM等の解析ソフトを普及させることで、どのようにしてそこを担保するかが早急な課題だと考えています。今後は、CASチームとしての取り組みをより早く推進できるよう、そういった課題を一つ一つクリアしていきたいですね」


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株式会社日建設計

  • 設立: 1950年
  • 事業内容: 建築の企画・設計管理、都市・地域計画および関連する調査・企画コンサルタント業務
  • 代表者:代表取締役社長 岡本慶一
  • 東京本社:東京都千代田区
  • 資本金: 4億6000万円
  • 役員・職員数:1,724(2,387)、技術士 124(249)、一級建築士 728(945)、二級建築士 121(164)
    ※( ):日建設計グループ全体 2012年1月1日現在

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2012年11月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


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