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東海大学 様

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東海大学 様インタビュー

学生が中心となってソーラーカーの空力解析を実施


東海大学チャレンジセンターのソーラーカーチームは、世界競技大会で連続優勝するなど屈指の強豪チームだ。ソーラーカーを設計する際に重要となるのが、スピードを大きく左右する要因のひとつである空気抵抗の低減である。そこで同チームでは学生が主体となり、空力解析にSCRYU/Tetraを活用。車体形状の決定に重要な役割を果たしている。その教育効果や使いやすさなどについて、関係者に話を聞いた。

 ソーラーカーチームは東海大学チャレンジセンターのライトパワープロジェクトに所属する団体である。東海大学チャレンジセンターとは、学生が主体となりそれぞれのテーマに沿って活動を行う場を提供している教育組織である。地域活性や環境問題、社会貢献などに関係する社会性の高いテーマを設定。競技大会への参加や産学連携によるプロジェクト、ものづくり教室の実施を行う。また大きなプロジェクトを協力して動かすことで、コミュニケーション能力やリーダーシップ、問題発見や発想力など、社会人のベースとなる力を身に付ける組織にもなっている。なおライトパワープロジェクトには、ソーラーカーのほかに電気自動車と人力飛行機の組織があり、それぞれが切磋琢磨しながら環境対応モビリティの設計を行っている。

  
(左)東海大学工学部 電気電子工学科 教授兼チャレンジセンター 次長 木村英樹氏
(中央)東海大学工学部航空宇宙学科 講師 福田紘大氏
(右)東海大学チャレンジセンター

 

 ソーラーカーチームは1991年に発足、東海大学工学部電気電子工学科教授(兼東海大学チャレンジセンター次長)の木村英樹氏の研究室も一員となり、2006年にチャレンジセンターが発足する際に、同センターの所属になった。

 ソーラーカーチームに集う学生の所属はさまざまだ。工学部系にとどまらず、芸術学科など多様な学生が活動を行っている。

産学連携で最高性能の車体を製作

 ソーラーカーは太陽エネルギーと充電池のみで走る電気自動車である。一度作ればエネルギーを補給する必要がないため、将来の究極の環境自動車とも目されている。東海大学が製作した2011年型の「Tokai Challenger」はパナソニック製のソーラーカー用に最適化された変換効率22%のシリコン系「HIT太陽電池」および容量5kWhのリチウムイオン電池を搭載。さらに東レの炭素繊維素材「トレカ」を使用して童夢カーボンマジックが成形したCFRP(炭素繊維強化プラスチック)によって軽量化した車体、ミツバ製の高効率モータなど、企業の先端技術の粋を集めたものだ。全長4.98m、全幅が1.59m、車高は0.88mである。太陽光のみの巡航速度は90km/h、最高速度の理論値は160km/hである。 同チームはオーストラリアで開催されている「World Solar Challenge」2009年大会で初優勝。続く2011年にも優勝を果たした。また南アフリカ共和国で行われている「Solar Challenge South Africa」でも2008年の第1回から2010、2012年にわたり3連覇を達成している。

学生によるSCRYUTetra®を使用した解析が定着するまで

 ソーラーカーの車体の設計から製作までの流れは、まずレギュレーション(大会のルール) をふまえて3次元CADのSolidWorksなどで車体を設計する。その形状をSCRYU/Tetraに読み込んで空力解析を行い、最適な形状を求める。その後、車体の本製作に入る。設計はもちろん、解析についても学生が中心となって行い、そこに流体力学の専門家である東海大学工学部航空宇宙学科 講師の福田紘大氏によるアドバイスが加わるという形だ。解析は3名ほどの学生が行えるという。


 SCRYU/Tetra®による解析は、2009年から始めたという。当時は、産学連携先であるヤマハ発動機の車体設計(池上敦哉氏)や空力解析(嶋田喜芳氏)の専門家の協力により解析を実施していた。当時、空力解析を行うのは初めてだったため、形状の決定も手探りだった。そこでまずはライバルの車体の解析から始めたという。そしてよりCDA(抗力係数と前面投影面積の積)の小さな車体形状を追求していった。2011年に流体力学を専門とする福田氏が東海大学に着任。その後、学生が主体となって解析し、福田氏がプロジェクトアドバイザとしてアドバイスを行う体制ができた。同年夏にはライセンスも増やし、本格的な学生による活用を開始した。

様々な形状を多数解析

 設計のスタンスとしては「学生には具体例などは示さず自由に設計させる」(木村氏)という。従来の概念にとらわれず自由な発想で設計してもらうためだ。その結果、想定外だが効率の良い形状のアイデアが出てくることもあるという。設計の際に条件となるのはまず太陽電池の発電量だ。基本的にはなるべく太陽電池の面積が取れるように設計する。続いて効率よくスピードを出すために空力性能が重要になってくる。ほかにもレギュレーションに基づき、コックピットの大きさや車体のサイズなどの条件を考えあわせて設計を行っていく。

学生たち自身の手で車体の解析を行っている

 SCRYU/Tetra®へのCADデータの受け渡しはIGESからSTLに変換して行われる。 初期のころは受け渡しも大変だった。車軸など可動部分もあるため、修正はラッピング機能では済まない場合もあるが、最近はノウハウも蓄積されてきており、データの修正も減ってきたという。解析は車体のハーフモデルを用い、7~8時間程度の解析時間で実施している。

 なお学生によるツール操作の学習については、ヤマハ発動機からレクチャーを受けるとともに、ソフトウェアクレイドルの講習を受講した。学生たち同士でも勉強しながら次の学年へと受け継いでいっているということだ。

難易度の高い作業は自動化し、アイデアの検証に集中

 SCRYU/Tetra®のメリットは何よりも操作の簡易性と精度だという。「流体シミュレーションで一番大変なのが、格子を精度よく切ること」(福田氏)だ。SCRYU/Tetraは自動で格子を切るため、とくに大変なところを自動化でき、多数の形状をスムーズに検討できる。領域分割についても経験でコツが分かってきており、解析準備には比較的手間が掛からないという。

 精度については、「とにかく大きく外れない」「形状の一部を変形すれば、差がきちんと解として出る。解析ツールによっては、一部の係数を変えて検討した場合、実際と逆の値が出てしまうようなこともある。SCRYU/Tetraは相対的な変化が正しく出ており信用できる」という。(木村氏)

 また操作についてもボタンを押していけばスムーズに解が出るようにできているため、使い勝手が良いという。学生に好評なのがヘルプの使いやすさであ る。日本製のツールなので日本語であるということはもちろん、操作がわからなければすぐにヘルプを呼び出すことができ、対話式で進めるような感覚だ。

教育現場で使いやすい簡便さ

 ツールに対する学生の反応も上々だ。どう設計を変更したらどう空気の流れが変わるかといったことが手に取るようにわかり純粋に解析のおもしろさを感じられるという。ビジュアルで結果が出るため、見えないものを自分の手で可視化する楽しさもあるようだ。

Tokai Challenger


 福田氏も教育面での効果を強調する。「SCRYU/Tetraは比較的短い時間で解析できるので、設計授業に使うツールとしても適切だ」(福田氏)。また工学部に限らず、工業デザインを学ぶ学生にも好評だ。近年はデザイナーにも機能的な面を考慮したデザインが要求される傾向がある。デザイナーだからといって知らずに空力性能の悪いものをデザインしてしまっては採用されない。「将来自動車のデザインに携わりたいと考えているような学生もいるが、デザインした車が機能 面では問題がないのかといったフィードバックをじかに得て、実際に車のデザインを形にしていく過程を体験することで、より具体的な仕事のイメージを育てる場にもなっているようだ」(木村氏)

レベルの高い競技会に参戦

 同チームは現在、オーストラリアのWorld Solar Challenge 2013年大会の3連覇に向けて、車体設計の真っ最中だ。レギュレーションが前大会から大幅に変わ るため、車体形状などの大きな変更が必要だという。たとえば3輪から4輪への変更、乗用車に近い運転姿勢の確保、サイズの小型化などからみるように、安全性、 実用性を軸にした方向へと舵を切っている。これは空力性能が悪くなる方向ともいえ、そのぶん解析の重要性もますます高まるだろう。

 同大会はオーストラリアを縦断する約3000kmの距離を、ハイウェイを中心に1日に700km程度、5日かけて走行する。2011年大会で優勝したTokai Challengerの平均速度は90km以上で、32時間45分で完走した。1987年から開始され、世界最高峰のソーラーカーレースとみなされている。2011年には20か国・地域から37チームが参加している。

 一方南アフリカのSolar Challenge South AfricaはFIA(国際自動車連盟)公認の太陽電池や電気自動車、ハイブリッド車といった代替燃料車によって競われる自動車レースだ。参加団体はオーストラリアより少ないが、約5000kmと世界最長、標高差が2000m、一般道を使うため交通量が多く急カーブや信号があるなど、難易度の高いレースだ。2012年大会は14チームが参戦する中、全長約5000kmのコースを11日間かけて71時間13分で走破した。

 なおレースの最中は、サポートが重要なカギになる。ソーラーカーの太陽電池の電圧や温度などの状態を常に監視するため、学生の開発したテレメトリ(遠隔 計測)システムにより、無線で指令車に逐次データを送る。また静止気象衛星ひまわりのデータをレース用に加工して利用した。さらに千葉大学環境リモートセ ンシング研究センターと東海大学情報技術センターの協力によって作られた、さまざまな衛星データから地上の日照強度を推定するシステム「T-SEED」なども活躍した。

 このように、ソーラーカー競技ではさまざまな技術とマネジメントが必要であり、総合力が試される。その中で、スピード向上の要である空力性能の解析を学生 自身の手で行うことは、ものづくり教育の上でも大きな意味があるだろう。現在はオーストラリアの大会に向けた解析が進行中である。今後の東海大学ソーラー カーチームの活躍がますます楽しみだ。
 
 
 



歴史

1991年 学校法人東海大学で「ソーラーカープロジェクト」が発足

1991年 学校法人東海大学で「ソーラーカープロジェクト」が発足1996年 東海大学ソーラーカーチームの一員として木村英樹研究室は、ソーラーカーの高効率化を進める

2006年 東海大学チャレンジセンター、ライトパワープロジェクトのソーラーカーチームとして活動を継続



  • 監督・アドバイザー:工学部 電気電子工学科 教授 木村 英樹氏(写真左上)
  • アドバイザー:工学部 航空宇宙学科 講師 福田 紘大氏(写真右上)
  • スタッフ:工学部 動力機械学科2年 大塚 隆司さん(写真左下)、工学部 動力機械学科1年 乾 大知さん(写真右下)

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2012年12月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


 

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