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株式会社オージーケーカブト 様

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株式会社オージーケーカブト 様インタビュー

オリンピックに向けCFDを本格活用 
空力性能のよりいっそう向上


スポーツサイクル用ヘルメットやオートバイ向けヘルメットを展開するオージーケーカブトは、自社風洞実験設備でのシミュレーションだけでなく、製品開発の初期段階からCFDも本格活用し、ヘルメットの内面形状までも細かくシミュレーションしている。業界初のエアロパーツを生み出した高い技術力を持つ同社が目指すのは、さらなる空力性能の向上と開発サイクルの短縮だ。

 オージーケーカブトでは、オートバイ用ヘルメット、スポーツサイクル用ヘルメット、幼児用ヘルメットの3事業を中心に展開している。スポーツサイクル用ヘルメットは国内シェアトップであり、アジア圏をはじめとする海外でも高いシェアを持つ。同社は1982年に、子供を乗せる自転車のかごで有名なオージーケー技研から独立し、オートバイや自転車用のヘルメットを本格的に開発するようになった。オートバイ用と自転車用の両方を手掛けるメーカーは世界でも珍しいという。

 同社のヘルメットの強みが、空力性能と軽さだという。業界に先駆けて、「丸いのが当たり前」だったヘルメットに独自の形状を提案するなど、空力性能には定評がある。オリンピックなどに出場する日本ナショナルチームのオフィシャルスポンサーを長年務め、同社のヘルメットを供給することからも技術力は折り紙付きといえる。また世界各国の製品安全規格の取得しており、製品の信頼性も高い。

厳しい安全基準をクリアする

 オージーケーカブト 開発部 製品開発課の大田浩嗣氏(写真1)は、各国の製品安全規格を満たすための製品開発と空力関係を主に担当している。ヘルメットを販売する場合は、各国の安全規格の取得が欠かせない。オートバイ用も自転車用も、日本をはじめヨーロッパやアメリカ、アジアなど国によって規格内容が異なる。特にシェル(一番外側の部分)がFRP(fiber reinforced plastics:繊維強化プラスチック)製のものについては、アメリカのSNELL規格という世界で最も厳しい規格があり、その取得にはかなりの労力を要するそうだ。そのためFRP回りの繊維の積層構成などの開発が重要になってくるという。他にもヨーロッパなどでは自転車用の規格が日本と全く違い、ヘルメットは縁石のようなものにぶつける試験もある。こういった独自規格の対応も必要だ。そこで、例えば生産現場でリアルタイムに生産したものを試験して、積層構成を変更し、さらに試験といったことを繰り返すことにより、規格の取得にまでもっていくそうだ。そういった中で新材料の研究やシミュレーションなども行っている。

写真1 株式会社オージーケーカブト 開発部 製品開発課 大田 浩嗣 氏
 

 また人の頭の形も国によって違ってくる。ヨーロッパは上から見て縦長であるなど、それぞれに特徴がある。例えば同じMサイズでも、ヨーロッパだと横幅が狭いため、日本人は2つサイズを上げても入らないといった具合だ。同社では多数の頭部の形状をスキャンしたデータベースがあり、これらのデータと今までの開発ノウハウを元に、デザインとすり合わせをしながら、より高性能なヘルメットの開発を行っている。

 一方ヘルメットの空力性能も非常に重要だ。「スポーツ用では特にトライアスロンやトラック競技などの長距離になると、ヘルメットだけで数秒タイムが変わると言われます。そのため何秒かを競うレースでは、ヘルメットの空力性能の検証がとても重要になってきます」とオージーケーカブト 開発部 企画・広報課 課長の口野彰義氏(写真2)はいう。

写真2 株式会社オージーケーカブト 開発部 ​企画・広報課 課長 口野 彰義 氏


 開発の中では風洞実験が大きな役割を担ってきたという。以前から東京大学名誉教授 東昭(あずまあきら)先生や日本大学理工学部精密機器工学科教授 川幡長勝先生、日本大学理工学部航空宇宙工学科教授 安田邦男 先生と共同で社内にある実験設備を使い、モックアップを作っては修正しながらの風洞実験、空力解析を繰り返し行ってきた。その中で、CFDがコストダウンなどの目的で自動車業界をはじめ多くの業界で使用されていることから、同社でもCFDに取り組み始めたという。

広報素材として解析図が活躍

 そうして導入したのがソフトウェアクレイドルの「SCRYU/Tetra」である。目的は開発時間の短縮と、経費の削減、そして空気の流れの可視化になる。風洞でもタフトなどを使えば流れは見えるものの、なかなか細かいところまでは分からなかった。また数ミリの突起の差などを詳細に検証することも難しい。さらに実験ではパテを削って形を作り、それを元に実際にかぶれるモックアップを作って測るという作業の繰り返しになる。「モックアップはそんなに簡単に作れるものではありません。これまでは開発に数年の単位が掛かっていたこともあります」と大田氏はいう。

図1 広報で活用している流線図の例 -同社の強みをビジュアルで訴えるのに有効だという

 また、「副産物として、広報への利用もできることもメリットの一つでした」と口野氏はいう(図1)。「オージーケーカブトといえば空力」であり、それを分かりやすくユーザーに知ってもらうためには、空気の流れを可視化してみせるのが効果的ではないかと考えたからだという。
 

 実際に広報目的で非常に活用できているという。「ビジュアルだとインパクトもあります。メッシュは細かくきれいに見えるように、こんなアングルで、見えやすいよう色を調節するなど、『見せる』素材を作るのにも大いに活用しています」(口野氏)。

業界初のエアロパーツで乱流を制御

 スポーツサイクル用ヘルメット「WG-1(写真3)」の解析結果図(図2)を見るとヘルメットの内部を空気が流れていることが分かる。

写真3 スポーツサイクル用ヘルメット 「WG-1」

 

 大学との共同研究の中での成果が、同社の特許システムである空力デバイス「ウェイクスタビライザー」だ。図3はウェイクスタビライザーの付くオートバイのヘルメット「RT-33」(写真4)と、ついてないヘルメットの流速分布図である。従来、ヘルメットは丸いものという固定概念がずっとあった。だが研究者から「なぜ丸いのか。丸いものはブレる、安定しない」という指摘があったという。「回転しない丸いものはサッカーの無回転シュートと同じようにブレる、というわけです。そのときはみな目からうろこでした」と口野氏は言う。それなら突飛物をつければよいということで、ウェイクスタビライザーの開発につながったという。丸い場合は、ヘルメットの直後に乱流が発生して頭部が安定しにくい。突起を設けることで、乱流がヘルメットの直後に発生せず、直進時はブレずに安定し、首もまるでスピードが出ていないような感覚でスムーズに動かせるようになるという。

図2 解析モデルの概観

図3 空力デバイス「ウェイクスタビライザー」の効果
-走行中発生する帽体付近の気流をコントロールし、負荷を軽減するシステム(特許no.4311691

 口野氏も実際に違いを体験したが、突起があるのとないのとでは別の世界のように感じたという。モータースポーツでは時に時速300km以上を出すこともあるが、100kmくらいになると首を動かすと抵抗が顕著に分かる。それがウェイクスタビライザーの付いたヘルメットだと、どこを向いても変わらないような感覚になるという。今までは掛かる力を自分の首で支えるのが当たり前だった。プロライダーをはじめとするユーザーからも「レースや高速道路で首の負担が大きく減った」とコメントをもらったという。

写真4 オートバイ用ヘルメット 「RT-33」

「今の自動車には後ろが切り立ったような四角い形状がよく見られますが、弊社ではそれよりも前から採用していました。はじめは変わったことを始めたと思われていたようですが、今は他社のヘルメットもこぞって採用しています」と口野氏は話す。

実験と解析がぴったり一致

 肝心のシミュレーションと実験の結果だが、「驚くほど同じ」だと大田氏は言う。「風洞実験にはけっこうばらつきがありますが、これはどうしようもない部分があります」(大田氏)。空気密度がその日の気温で変わってくるからだ。また電圧の変動なども風洞の状態が不安定になる原因だ。ほんの少しのヘルメットの傾きの違いでも実験結果は変わってくる。そういう意味では、CFDの方が傾向を捉える面では信頼できるということだ。

 CFDの導入に当たっては何社かの製品を検討したという。最終的にはSCRYU/Tetraともう1つに絞られた。その中での決め手は、日本製であることだったそうだ。大手企業も含めた採用実績が多いのも安心できる理由だった。さらに体験セミナーにも行ったが、「一番使い勝手がよさそうだと感じました」(大田氏)。ハイエンドツールにもかかわらず設定がかなりシンプルで、メッシュ生成など自動で行ってくれる部分も多いと感じたそうだ。またポストプロセッサに様々な表現ができるような機能が充実しているのはよかったという。「解析結果を広報素材に使う時は、専門外の人にも分かりやすいようにいろいろと修正をリクエストしますが、いつも要望に応えてもらっています」(口野氏)。

 また大田氏が重宝している機能の一つが、通常CADモデルの流体シミュレーションの前処理に使う機能である「ラッピング」だという。開発時点において3Dスキャナでモデルをスキャンし、STLファイル化することがよくある。他のソフトウェアだと、そのデータにかなり修正を加えないとならないが、SCRYU/Tetraのラッピング機能を使えば、多少凹凸は潰れたような形状になるものの、解析に支障のないレベルのモデルがすぐ作れるという。「最終的な解析にはきれいなモデルを作る必要がありますが、その前検討でよく活用します。少し違う形のパーツを付けるなどちょっとした変更による性能の違いを調べたい時、スキャンしたものをラッピングでくるんでシミュレーションにすぐ取り掛かれるのはとても便利です」(大田氏)。
 

初となるCFDベース先行開発をオリンピックモデルで実施

 実験とシミュレーションの一致が確認できたため、今後はモデルの実物がない時点での検証に活用できそうだということが分かった。今後はよりしっかりとヘルメット内部の通気性、つまり空気の流れを検証したいという。これは風洞では分からないところであり、SCRYU/Tetraでより詳細を調べられるだろうということだ。

 現在取り組んでいるのが、リオデジャネイロオリンピックで使われるヘルメットの開発だ。これはモデルの実物のない時点からCFDを活用する初のケースになるという。まずデータ上だけで形状のシミュレーションを繰り返し、検討を進めているそうだ。オートバイ用の次期のトップモデルにも活用する予定だという。「使いこなしていけば、数年後には開発のスピードアップに大いに貢献すると思います」と口野氏は期待を寄せる。「オージーケーカブトは空力、軽いという強みも強化していきたいですね」(口野氏)。

 今後、本格的にSCRYU/Tetraを活用することで、オージーケーカブトの製品開発にもより大きな飛躍がもたらされそうだ。





株式会社オージーケーカブト

  • 設立:1982年9月
  • 営業品目:オートバイ、自転車用(幼児~大人用)・各種競技用ヘルメット及び周辺用品
  • 代表者:CEO(最高経営責任者) 木村 秀仁
  • 社員数:87名(2014年10月現在)
  • 資本金:2,000万円
  • 所在地:東大阪市長田
  • URL:http://www.ogkkabuto.co.jp/

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2015年6月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

 

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